カンツウ
作 キシリ




 「どうして…往人…さん?」


 眼前にあるモノは、恐らくは、その、あれだ。
 そして彼が今から行おうとしていることが何であるのかは、多分、知っている積りだ。
 ただ、どうして、何故、彼がそんな事をしようとしているのか。
 それも何の前触れも無く、極めて唐突に、予想だに出来ないシチュエーションで。

 昨日までの平穏を全部微塵に砕いてしまうほどの、突拍子も無い事態であった。
 何もかもが分からなくなる。何も信じられなくなる。
 これが夢か幻、でなければ性質の悪い冗談であってくれればどんなにいいか。
 なのに…。


 「ねぇ…どうして?冗談だよね」

 「……」


 けれども彼は何も応えず、常日頃から悪いと言われている目つきを更に鋭くし、その口元に嫌な三日月形の笑みを浮かべただけであった。
 その邪悪さは語るに忍びないほどであり、物怖じしないと思っていた彼女をして怯ませる。
 彼女が彼を恐れたのは、純粋な意味ではこれが初めてだったろう。

 彼は、そんな彼女の様子に歪んだ愉悦を感じたのか、大仰な仕草で首を振ってみせた。
 彼女の肩が若干ではあるが、びくりと震える。


 「が、がお…往人さん、怖い」

 「…ク、ククク…」


 涙目になる彼女に一歩だけ近づいて、彼は標準よりは明らかに太くて長いモノを彼女の目の前にちらつかせる。
 大の男が少女の前でそんなものを誇示している様は、いっそ滑稽であるとさえ言えたが、当の少女にしてみればそんな事は関係が無い。
 それも、相手がこの世で最も信頼していた筈の人間の一人であるならば、なお更。
 絶望に似た思いが湧きあがってくる。

 この涙も多分、恐れだけによる物ではないだろう。


 「…観鈴、眼を閉じるなよ。今から凄いことをしてやるんだからな」


 彼は一層サディスティックな笑みを浮かべ、太く長いそれを彼女の頬に叩きつけた。
 いや、叩きつけたと言うほどのものではない。
 物理的にはさほどの脅威でも無いはずだ。
 問題はこの境遇そのものの事であり、つまりは、精神的な屈辱は推して量るべきと言ったところであろうか。

 彼女は直視できずに眼を伏せた。
 それが彼の怒りと嘲りを促し、嗜虐新をくすぐるのだということも、知ってはいたけれど。


 「あぁ?聞こえなかったのか?よく見ろって言ったよな?」


 ぴしり、と。
 今度は逆側の頬に、それを打ち付ける。


 「が、がおぉ…どうして…そう言うことするかな」

 「ははっ、どうしてだ?面白いからに決まってるだろ?」

 「往人さん…誰にも言わないから、もう止めて欲しい。こんなの、往人さんじゃない」

 「…こんなの俺じゃない…ね。俺は前からやってみたいと思ってたぞ。こんな風にな!」

 「!──むぅ!!」


 思わず彼女は呻き声を洩らす。
 彼はモノを彼女の口中に無理矢理押し込んで、その内部を弄んでいた。
 ゆっくりと前後させる。

 理由は誰にでも分かる。
 彼女の唾液を、円滑油代わりにするためだ。
 これから行われるであろうメインイベントの為に、充分に湿らせようというのだろう。


 「…っぷはぁ」


 十数度の口姦の後に、彼はモノを彼女の口から引き抜いた。
 彼女の唾液によってぬらぬらを輝きを放つそれが、何とも艶かしい。
 彼はそれが既に『実用』に耐えうるようになったことを確認し、満足に頷くと、自ら二度三度と扱きあげた。

 ──どうやらコンディションは抜群だ。


 「はぁっ、はぁっ、はぁっ…酷い…ひど過ぎる…」

 「へっ、中々いい舌使いだったぜ。これだけ濡れれば充分だな」

 「…え?」

 「さて…それじゃ、行くぞ」

 「止めて…往人さん、それは止めて…そんなに太いの、絶対に無理!!」


 彼女の悲痛な声も、最早野獣そのものと化してしまった彼の耳には届かない。
 彼はそれを握り締めると、ゆっくりとそこに近づけていく。


 「ひっ…や…」


 それがそこに接触した瞬間、彼女が間抜けとさえ言える甲高い悲鳴を上げた。
 けれども彼にとってそれは、彼に快楽を齎してくれる官能のスパイスにしかならない。

 躊躇なく彼はそれを握り締め、一気に貫いた。


 「いやあああああああああああ!!!!」


 絶叫が上がる。
 限界まで一杯に広げられたその部分から痛々しい鮮血が零れ落ちる。
 まだ半分も入りきらずにこの様だというのに、彼はそれでも挿入を止めようとはしない。

 何度も何度も、遮二無二それを押し進めるのみだ。
 ぐいぐいと、残酷なまでの力強さで。


 「ダメ!ダメ!それ以上…無理っ…もう抜いて、抜いて!裂けちゃうから!!」


 必至の彼女の訴えにも、彼はまるで応じようとはしない。
 全てが入りきるまでは、止める積りなどもない。
 捻じ込み、貫く。
 一度挿れてしまった以上、もう後戻りすることなど出来はすまい。

 そして──。


 「ああああああああああああ!!!!!」


 ひときわ大きな悲鳴が上がって。
 何かが、裂けた。


 「っ…奥まで繋がったぞっ、観鈴!!」


 彼は彼女に、残酷な事実を告げた。
 彼女もそれを理解したのか、それ以上は何も言えずにただ項垂れる。


 「だが、まだ終わりじゃない。眼を逸らすなよ、観鈴」

 「…え?そんな…や…止め…」


 そうだ。
 悪夢はまだ終ってなどいない。

 彼は、今度はそれを動かし始めた。
 挿れるだけでも想像を絶する痛みを伴うというのに、あろうことか限界まで出しては又挿入という、彼女にとっては信じられない暴挙に出たのだ。
 
 それを受け入れるには狭すぎたそこは、もうずたずたで。
 こんなにも鮮血を噴出して、真っ赤。
 もう麻痺もして来ているかも知れない。

 なのに彼は、その接合部分を彼女に無理矢理に見せ付け、眼を逸らすことを許さない。
 何度も何度も挿れては出して、繰り返しながら。


 「うぅ…もう、やだ…やだ…」


 そうして彼女はゆっくりと壊されていく。
 心が、犯されていく。

 常識も、何もかもが粉微塵に打ち砕かれて、何も見えなくなる。
 いや…見えてはいるのだ、その凶行のみが。

 それはもうグロテスクの粋に達していて、いっそ噴出したくなるようなくらい滑稽なのかも知れない。
 それはもうグロテスクの粋に達していて、いっそ泣き出したくなるようなくらい凄惨なのかも知れない。

 ただ、彼女のもう既に考えることを止め始めていた。
 いや、正確には多分、彼女の信頼する──恐らくは愛していたと言ってもいい彼が、どこかおかしくなってしまったあの時から。

 つまり、三日前に彼に呼び出されて、今目の前で行われているような行為を撮影したビデオを見せられて、泣いてしまった彼女を笑っていたあの時から。

 きっと全部、ダメになってしまっていたのだ。


 「ははっ…いい感じだぞ?遠野の時より、みちるの時より、佳乃の時より、聖の時より、晴子の時より…ずっと!!」


 そんな、衝撃的な告白さえ、どうでも良かった。
 みんな、お母さんも、こんな目にあったんだ…そう、朦朧とした意識の中で認識するのみだ。
 今更他人がどうだろうと、構わない。
 何もかもが、いっそ壊れてしまった方が楽だから。


 「っく…そろそろ行くか…出すぞ…中にっ」


 彼の言葉に、彼女は少しだけ身動ぎしたのみだった。


 「──っ!!」


 インパクトの瞬間に、目を瞑った。
 多分それが、精一杯の彼女の抵抗だったから。

 次に目を開ければどうせ、ずたずたになったそこから、赤と白が覗いているだけなのは、分かりきっていたから。
 このまま死んでしまいたい。闇に飲まれてしまいたい。

 でも…。


 「はぁっ、はぁっ、はぁっ…どうだ…凄かっただろ、観鈴?」


 彼は項垂れる彼女の瞳を強引に開け、生々しく残る行為の痕に眼を向けさせる。


 「うぅ…」


 分かってはいたけれど。分かってはいた…けれど。
 改めて見ると、やっぱり涙が溢れ出した。
 とてもとてもとてもとても哀しくて。

 なのに優しく笑う彼の表情が暖かくて。
 やっぱり紅くて白いその部分は、呪わしいほどに予想通りで。


 「…往人さん…」

 「なんだ?」


 だから彼女は、敢えて言いたくなかったその言葉を放つ。
 全てを終らせてしまう、その一言を。






























 「…全然、全く、絶望的なまでに…笑えない」


 空気が凍りついた。
 沈黙が辺りを支配する。






 数秒後。

 彼はがっくりと膝をついた。


 「ぬああああああああああああああああああああ!!!!」


 絶叫が神尾家を揺るがせる。
 漸く彼は、己の間違いを悟って…いや、悟らされてしまったのだから。

 いや、そうではない。そうではなく…本当はもう既に分かってはいたのだ。でも。
 それでも納得できなくて、何度も何度も彼女たちを捕まえてはこんなことを繰り返し、つまり、


 ”伝説の秘儀──うどんを鼻に挿入して口から出す”


 を披露してみせたというのに!!
 それが…この何ヶ月にも及ぶ苦行の成果が…これだというのか!?

 あんまりにも…あんまりではないか…。


 「に、にはは…やっぱり、往人さんは人形劇だけでいいと思う。これ、凄いのは分かるけど、笑えない…むしろ、怖いだけ」


 そんな彼女の言葉も、彼にはもう届かない。
 彼は無表情なままでずるずるに汚れきったうどんの切れ端を摘み上げ、ぱくりと食べた。

 三日ぶりの食事は結構しょっぱかった。
 もう笑うしかない。それはもう狂ったように。

 だから彼は笑った。
 精一杯の声を張り上げて。

 遠い遠いあの空へ向けて。


 「は…はは…はーっ、はっはっはっはっはーーー────……がく」


 そして彼は倒れ付す。
 彼女の上げた悲鳴が、なんだかとても遠かったような気がした。






 はぐれ人形遣い純情派国崎往人。
 彼が翼の少女を笑わせられる日は果てしなく…恐らくは天文学的規模で…遠い。






 Bad End?




[INDEX]

又もや馬鹿です、国崎往人。最早処置なし。
しかし今一だな…精進が足りんか。
これ系のネタは大好きなんだけど。
できれば、誰か投稿して下さい。(笑)
いや、『ちょふかし』では投稿募集してないけど、キシリ[xirynn@amail.plala.or.jp]まで直接に…。
基本的にジャンルは問いませんが…ダメ?
18禁も可です。ただ、二次創作の場合元ネタがマニアックすぎるのは勘弁かな…。