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母さん2
作 キシリ
俺は水戸黄門のテーマソングが嫌いだ。 より詳しく言うなら、あの歌詞が。 作詞者が誰だとか、それに込められた意味だとか、そう言うのは知らないが、とにかく嫌いなのだ。 ”人生楽ありゃ苦もあるさ” これ程無責任な文句もないと思う。 ただ、救いなのは苦もありゃ楽あるさじゃないことだろうか。 いっそ、今楽しくてもいつかは苦が襲ってくるって言う意味なのだとしたら、好きになれたかもしれない。 そんなはずもないと思うが。 「…て言うか、何がしたいんだ…母さん」 「気にしないで、ジャン」 「いや、気になる」 「ごめんね…私たちは姉弟なの」 「何がだよ」 本当は母子だと言う事は突っ込まない。 時間の無駄だから。 「何って?女の子のひ・み・つ」 「何故赤面…」 「もう、分かってるくせに。あなたも好きね」 「だから何がだよ」 「……ぽ」 「分かった、もういい」 朝っぱらから頭痛が酷かった。原因は分かってるが解決策はないので泣き寝入る。 気にしないのが一番。何時ものことだし。 取り合えず、今日も寝覚めは最悪。 起きて最初に目に入ったのは、俺の股間をちらちら窺いつつ納得顔でメモをとる母さんの姿だった。 何気無くメモ内容を確認してみると、何かムッシュとか書かれていた。 意味はともかく、取り合えず不快だった。 つーか、これで愉快なヤツはどこかおかしいと思う。 「しかし…眠いな」 ちなみに時間は午前三時。 母さんが目覚める前に脱走計画は早くも挫折した。 特に落胆していない自分が少し嫌だったけど。 「ねぇ…幸せって何?」 「むしろ俺が聞きたい」 「お姉ちゃんは幸せ」 「だろうな」 「あなたは不幸っぽいわね。可哀想に…くすり」 「…悪い。一瞬殺意が芽生えた」 「もう、困った子ね。めっ」 「ははは」 いつかマジで殺しそうだ。 こう言う場合、情状酌量はあるんだろうか。 「混ぜるな危険」 「…何を」 「どちらかと言えば精子と卵子」 「別に危険じゃないと思うが」 「そう?じゃあ二人で試してみようか」 「それは危険だ」 「嘘吐きは泥棒の始まり」 「…そうだな」 かなり気力減退気味。 いい加減発狂しそうです、俺。 いっそその方が楽かも知れんけど。 深々と溜息を吐きつつ、昨日の晩飯の片付けを始める。 食い散らされた猫の首がこっちを見ている。 薄暗い闇に目がらんらんと光ってかなり不気味。 「まぁ、ラブリー」 …訂正。 ラブリーだそうだ。 しかし母さん。 幾らなんでもそれを持ち歩くのはどうかと思う。 間違いなくそれは犯罪だから。 首輪ついてるし。 取り合えず奪い取って叢に捨てた。 ちょっと心は痛んだけど。 それを見て母さんが指差して笑っていた。何か微妙にむかつく。 「あらあら…アッラー?」 「何がだよ」 「あなた、イスラム教徒だっけ?」 「違う」 「…騙したわね、ムハンマド」 「……もっと違う」 結構アドレナリンが出た。 まぁ、ともかく猫だ…。 誰か親切な人に拾って貰え。運が良かったら埋めてくれるかもな。 俺らに拾われた時点で、お前の運は最悪臭いけど。 人生楽ありゃ苦もあるさ。ははは。 て言うか。 相変わらず片付けを手伝わない母さんは、いつの間にか人形で遊んでいた。 つーか、また動いてるよ、あの人形。 不気味な…。 それを腕組みしつつ、難しい顔でうめいている母さん。 暫く見ていると、何か満足げに頷いた。 いきなり人形を握り締めたかと思うと一言。 「共産主義者め。愛してるわ」 やっぱり馬鹿は理解不能だった。 最早突っ込む気力も無い俺を一体誰が責められるだろう。 結局その日も無駄に歩いた。 空の少女を探すってのが一応第一目標だったと思うが。 今の母さんに目的意識とか、方向性とかって言う言葉を当て嵌めるのは無意味だから分かりきった結果だったけど。 たまにお金を投げてくれる通行人の視線が痛い。 人形と戯れる母さんと、途方にくれる俺を見て、何を思ったのかは考えたくない。 堂々と大道芸人を名乗れる母さんは偉大だ。 まぁ、それはそれとして。 いつの間にか日が暮れていた。 「ジャン、お姉ちゃん思うの」 「往人だよ、母さん」 「家が無いと寒いの」 「そうだな」 かなり寒いよ、マジで。 「家が無いと寒いの」 「そうだな」 「家が無いと寒いの」 「…そんな金無いだろ」 「家が無いと寒いの」 「…いや、だからな…」 「家が無いと寒いの」 「…殴っていいか?」 「見て、夕焼けよ…」 「…夕焼けだな」 「だから何?何が面白いの?馬鹿な子」 「……っ」 思わずその辺にあったダンボールを殴りつけた。 穴が空いた。拳が痛んだ。 色んな意味で涙が滲んだ。 振り向いたら母さんが親指を立てていた。 ”ぐ〜れいとぉ!”ってっ感じで。 何か萎えた。 取り合えず座りなおした。 「冬は嫌い。寒いし、ご飯も歩いてないし」 「若干不穏当な表現もあったけど、概ね同意する」 「知ってる?男と女って、女の方が飢えに強いんだって」 「そうなのか?」 「そう…で、あの時もお姉ちゃんはあなたのお父さんと二人きりで旅をしてたの」 「らしいな」 「うん…あの冬も寒くてね、私たちは飢え死に寸前だった」 「ほう…」 「…美味しかった」 「……」 「笑ってくれないのね」 「つーか、何か笑えないんだが」 「笑って、笑って、笑って、キャンディ」 どうリアクションしたらいいんだ? 「痛いの痛いの飛んでいけ」 「痛くないし」 「そう、マギーと同じね」 「あぁ、マギーと同じだな」 「…マギー…誰?」 「いや、むしろ俺が聞きたい」 「お姉ちゃんに言えない事?」 「ていうか、知らないし」 「不倫?」 「いや、俺独身だし。そもそもマギーって女なのか?」 「そんな旦那、別れちゃいなさい」 「…何故み○もんた…いや、いい」 ふぅ…。 誰か俺を助けて。 「中田、知らなかた」 「何をだよ…」 中田? 不覚にもちょっと受けてしまった。 恐るべし中田。 「あなたって、ホモなんだ」 「違う」 「じゃあ、女が好き?」 「二者択一なら女を選びたい」 「でも、私に何もしないじゃない」 「…いや、母さんだし」 「私は女じゃないとでも言うの?」 「女だとは思うが」 「どうして襲わないの?獣の如く」 「だから、母さんだし」 「…女に恥をかかせないで」 「いや、そうじゃなくて」 「優柔不断は嫌われるわよ」 「…だから…家族だろ?近親相姦だろ?」 「なるほど、ザ・斎藤」 「斎藤はともかく、分かってくれたか」 「えぇ…要するに、ジャンは不能なのね。不能の浮浪者ね、かなり無様っぽい」 ……もうやだ。 俺はその場に崩れ落ちた。 母さんも崩れ落ちた。 何でやねん。 …だから全然わかんねえよ、あんたの行動。 明日こそ逃げよう。 涙を流しつつ、今日も俺は決意を固めていた。 続く…かも
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…ダメだ。今回は今一だ。 |