キノコの娘

作 XIRYNN




 気がついたらいきなり戦場だった。

 いや、何故と聞かれてもオレにも分からない。意味不明だ。
 さっきまで何をしていたのかも曖昧にしか思い出せない。
 と言うより、それ以前に考え事をしている暇も余裕も無かった。

 何だかよく分からないがオレはエステバリスと思われる機体の操縦席に座っていて、しかも正体不明の敵の目の前に晒されている。
 相手は黒い機動兵器。
 ある種の禍々しさすら感じさせる、通常のエステバリスより一回り大きな──って、これは!


 「な、何だ?何故オレがブラックサレナと闘ってるんだ!?」


 そう、それは正しくオレが復讐のために利用してきた最強の機体だった。

 多分見間違いとかではないだろう。目立つしな。
 ついでに言えば試作品のそれはこの世に一体しかあり得ない。
 更に、自惚れる訳じゃないが、それを操れるのはこのオレただ一人のはず…。

 と、すると?


 「──っく…おお?」


 凶悪なほどの破壊力を秘めたカノン砲を辛うじて避けつつ、オレは改めて驚愕していた。

 強い──洒落にならないくらい。
 やばいぞ、本気で。
 ひょっとしたら北辰より上かも。

 ただ、気になることに動きの癖が妙にオレに酷似している。
 さっき避けられたのもそのお陰だろう。
 しかし一体なんだって言うんだ?
 パイロットは何者だ?


 「ちっ、機体性能が違いすぎるか…」


 根本的に機動力に差がある。
 動きは大体見切れているのに、機体がそれについて行かないのだ。

 何発かライフルが着弾した。
 損傷は今のところ軽微だが…このまま行けばまずいな。

 って言うか、そんな風に冷静に分析してる場合じゃないような気もするぞ。
 認めたくは無いがこのパイロット…ひょっとしたらオレ並の腕を持っているのかも。

 そうなったらあれだ…機体性能の差で勝負がつくんじゃないか?


 「何なんだよ、一体!?」


 そう吐き捨てながら、オレは黒い機体に向かってライフルを連射した。

 当たるどころか、強力なディストーションフィールドで弾かれたりしているが。
 こりゃ本格的にやばいぞ。

 そうこうする内にブラックサレナがこちらとの距離を詰め始めた。


 「っ──!」


 こりゃ勝てない。
 このまま行けば的にされるだけか。
 かと言って生半可な攻撃はフィールドに弾かれてしまう。
 …と、なれば。


 「ったく、特攻は趣味じゃないんだがな!」


 昔なら喜んで玉砕してたかも知れないが、今はそんな軽率な行動は出来ればしたくない。
 そう言うのはあくまでアニメの中での事と、嫌と言うほど思い知らされている。

 ただ、状況がそれを許しそうに無かった。
 最終的にこいつのフィールドを破れるとしたら、こちら側のフィールドを収束して直截叩きつけるしか無いだろう。


 「非常に不本意だが!」


 オレは少しの躊躇の後にこちらからも突撃を開始した。
 右の拳にフィールドを収束し、ブラックサレナの本体との連結部を狙う。


 「っ喰らえ!!」


 ばむっ。

 物凄い音がした。
 どちらかと言えばこちら側のエステが大破する音だ。
 それにも構わずオレは更にエステを前に押しこむ。


 「おおおおおおおおおおおおおお!!!」


 何故か目の前に夜天光の姿がちらついた。
 凄まじい音と光の奔流が世界を覆う──。

 刹那。






 があああああああああああん!!






 ピー、ピー、ピー。

 どこかで聞いたような機械音が響いていた。
 再びの場面転換。
 オレは更に混乱を深め、辺りを見回した。

 見慣れた計器類。
 懐かしさすら感じさせる、偽物の──。

 というか…シミュレータ?

 『Mission Complete! Score 73/100Pts.』

 目の前に突然現れたウインドウにそんな文字が書かれていた。
 オレは嫌な予感を感じながらも、強引にハッチを開けて身体を引きずり出す。


 「……ん?」


 衆人環視だった。
 素晴らしいくらいの人数の軍人らしき人間がこちらを注目していた。
 ますます意味不明だ。

 流石のオレも呆然としてしまう。
 まぁ、取り合えずさっきのが全部シミュレーションだとしてだ。
 この状況は一体?

 何かやけに嬉しそうというか、驚いてるというか。


 「す…」

 「す?」


 その中で丁度オレの目の前にいた若い士官ぽい男がやっとと言った感じで口を開いた。
 オレは思わずそちらに眼を向ける。

 すって何だよ?


 「す、凄いっすよ、カンザキ中佐ぁ!!!」

 「はぁ!?」


 意味不明だった。
 何が凄いんだ?
 いや、百歩譲ってそれはさっきの戦闘のことだとしてだな。


 「オレ、マジで中佐のこと尊敬しますよ!あの人間にはクリア不可能とまで言われたケースA.T.をコンプリートするなんて!!」

 「いや…そうか?しかし…」

 「今まで誰が挑戦しても、軍も民間も含めてどんなエリートパイロットでも無理だったのに…凄いっすよ!」

 「いや、そうじゃなくてだな」

 「はい?何か問題が?」


 オレの様子に気付いてか、男は怪訝そうに問い返す。
 そうだな、問題なら有りまくるぞ。

 いや…さっきのが凄いのはわかった。
 あれは多分オレ自身の行動パターンを入力してあるんだろう。
 北辰を倒した今のオレに勝てる奴などそうはいないのも分かる。

 だがまあそれは置いといて。
 問題は、だ。


 「カンザキって誰だよ…」


 いや、マジで。




"…マジっスか?"




 泣きたい気分だった。
 いや、冗談抜きで。

 と言うか、何がどうなってるのか…。
 オレは本気で混乱していた。
 何がって?

 つまり…。


 「…どうしました、カンザキ中佐?」

 「いや、別に」


 何だか呼ばれるたびに気が遠くなりそうだ。

 オレは思わずこめかみを抑えつつ溜息を吐いた。
 隣りを歩く若い士官──コウノケイスケ大尉の嬉しそうな表情が何となく気に入らない。

 何でかというとまぁ、その、なんだ。
 あからさまに好意を寄せるそれであったから…それも異性に対するな。

 いや、別にこいつがいわゆるその手の趣味の輩だと言うんじゃない。
 多分この上なく正常だろう。
 何が言いたいかというと、だ。

 (──何でいきなり…カンザキ何某?…になってしまったんだ?)

 と、言うことだったりする。

 原因?さて?オレが知りたいくらいだ。
 と言うか、深くは追求するな。また頭が痛くなってきそうだ。

 ん?今一分かり難い??
 あぁ、そうだな…つまり。
 説明するのもあれだが、要するにオレは気がついたら──

 ──女だった。

 …。

 ……。

 ………。

 …笑うなよ。オレは笑えないぞ。

 ……むしろ泣きたい。


 「ふぅ…」

 「ねぇ、だからさっきからどうしたんです?」

 「どうもしない…黙ってろ」


 はぁ…鬱陶しい奴だな。
 全くこれだから男って奴は──じゃ無いだろ。

 …何か今とんでもないこと考えそうになったぞ。
 危ない危ない。


 「そ、そんな…中佐、オレは中佐のこと心配して──」

 「五月蝿い!!」

 「す、済みません。別にオレ、そんな積りじゃ…」


 ったく。
 ゆっくり考え事も出来んな。

 しかし一体何が何やら。
 状況もよく解らんし、取り合えず整理してみるか。

 今のオレの名前はカンザキユウキ。
 宇宙軍の中佐で、軍最高のパイロット…らしい。
 年齢は23歳。まぁ、元のままと同じだが…随分エリートだな。

 ただ…問題が。
 いや、これだけだと文句のつけようのない経歴だが。
 さっき鏡を確認した所、実際美人で、誰もが羨む才媛なんだが。
 だがしかし。

 …………信じられないことにだ。
 その、なんだ…カンザキユウキのオヤジと言うのがだな。

 …キノコ、なんだよ。






 だから、あのキノコだ。
 どのキノコだって?
 いや、だからあれだって…。












 ムネ茸だよ。
 ムネタケサダアキ。












 …最悪だよな。
 この事実を知った時、一瞬自殺も考えたくらいだ。
 …この身体にはあのキノコの血が半分流れてるんだな…って。






 ま、爺さんは優秀で文句のつけようもないんだが。
 あのキノコは一族の恥だ。
 このカンザキユウキの苦悩は我が事の用に分かるぞ。
 いや、苦労したろうな…きっと。

 ん?
 何で苗字が違うのかって?
 これが母方の姓だからだ。
 ま、当然だよな…あんなキノコに甲斐性が有るとも思えんし。

 結婚してたって言う時点で驚きだけどな。

 で。
 今回は軍が極秘に入手した『謎の機動兵器』とやらのデータ採取の為に借り出されてたわけだな。
 恐らくだが、新型の機動兵器の開発の為のテストも兼ねてたんだろうと思われる。
 何だかんだ言ってもあの時オレが乗っていた機体は普通のエステではなかったはずだ。
 …でなければ相打ちとは言えあのブラックサレナにかなうはずが無いからな。

 本来は彼女ほどの階級のものが直接する必要も無かったんだが、どうも他の人間じゃ瞬殺されてしまってそれどころで無かったとか。
 確かにあれを相手取るには普通の人間じゃ無理だろうな。基本的に経験不足の宇宙軍パイロットじゃ特に。

 ま、それはいい。

 問題は、オレと(恐らく)入れ替わってしまったはずの彼女に対して、周囲がまるで違和感を感じていない所だ。
 オレはこのとおり…と、そう言えば自己紹介がまだだったか?

 まぁ、気付いてると思うがオレの名前はテンカワアキト…一部では闇の王子とも呼ばれている元コックのテロリストだ。
 何かこう言うと凄まじく違和感を感じるが…嘘ではないからな、哀しいことに。
 で、原因不明ながら今はカンザキユウキだ。

 偶然にしてはおかしいんだが、オレがいつもどおり振舞ってるにも拘わらず誰も何も言おうとしない。
 元々こんな人間だったのか?
 いや、でもなぁ…。

 一応オレもその辺のことはそれとなく周りに伝えたはずだが、全く取り合ってもらえない。
 何が何でもオレをカンザキユウキにしたいらしい。
 そもそも有り得るのか?オレと全く同じ性格の女なんて。
 どう考えても不自然だろ。

 …しかし。
 実際の所これからどうするかな。
 何か、ラピスとのリンクも切れてるみたいだし、そもそも回りはオレの変化に気づいてもいないし。
 何故か今までのこの女の記憶も完全でないにしろ持ってるし。

 と言うより、落ち着いてくると何だかテンカワアキトとしての記憶の方が夢かなんかだと言う様にも思えて来るんだが。
 …って、それはそれで怖いぞ。
 じゃあオレって誰なんだ?

 いや、オレはテンカワアキトだ…多分、きっと…出来れば。


 「中佐、中佐?」

 「ん?」

 「着きましたよ?」

 「あ、あぁ」


 考え事をしてるうちに、いつの間にか目的地へ着いてしまっていたらしい。
 余りにも気乗りしないので深々と溜息を一つ。
 それから軽くノックした。


 「──カンザキ中佐です」

 「あぁ、入りたまえ」


 軍隊らしからぬ簡潔と言うか投げやりなやり取りのあと、オレはドアを開けた。

 目的地と言うのはつまり、宇宙軍総司令室だったりする。
 総司令室と言うからには総司令がいるわけで、それが誰なのかと言えば…。


 「久し振りだな、カンザキ君」

 「いえ、こちらこそ…おと──ミスマル司令」


 一瞬『お義父さん』と言いかけてしまった。
 今の状態で言えば相当ややこしい事になるだろうから間一髪だ。
 それにしても何故このオヤジはオレに気が付かないんだろう?仮にも娘の旦那だぞ?

 …だからこそかも知れんがな。
 …はは…笑えんぞ。


 「ん…まぁ、掛けたまえ。コウノ君も」

 「はい…」

 「はっ」


 やる気なさげに座るオレと、がちがちになったまま不自然な体制で腰掛けるコウノ。
 対照的だ。

 オレは早速用意してあった茶を勝手に啜り、茶菓子に手を伸ばした。
 そのふてぶてしさを見てコウノが焦っている。

 もっともいつものことなのでオレは気にしない。
 昔からこいつはこんなもんで……昔から?

 昔?
 いや、それはこのカンザキ何某の記憶のはずだが…妙にしっくり来るな。
 むぅ…ホントにオレは誰なんだろう?
 段々自信がなくなってきたぞ。






 「──結局、オレにナデシコCに乗れと?」

 「うむ、現状で”闇の王子”に対抗できるのは君だけだからな」

 「別に一対一で機動兵器戦に持ち込まなければ良いんじゃないですか?」

 「まぁ、そうなのだがな。軍にも体面と言う物がある。たかがテロリストに振り回されている訳にもいかんのだ」

 「たかがって…強いですよ、あれは」

 「かと言ってたった一機の機動兵器がそこまでの戦力を持つなどそう簡単に認められるものじゃないだろう」

 「ま、そうでしょうね」


 やけに和やかな雰囲気で進んでいる密議。
 軍機というか、そう言うのが話題の割に緊張感は皆無だ。
 いや、若干一名ほどは別だが、階級的にはそいつが一番下だ。

 その上官たるオレ達は茶菓子を食いながら談笑していた。
 普通こう言う席では形式的な意味しか持たないそれらだが、この場では非常に重要だったりする。
 内容も軍隊とは思えんしな。

 …オレはこれで通算六つ目のプチケーキを口に運んだ。
 コウノが目線でもう止めろと訴えてくるが無視。
 女になった所為なのか無性に美味く感じるからな…止められん。

 とは言え会話自体はまともに進行している。
 結局の所、上記の通り宇宙軍の体面を保つ為オレをナデシコCに乗せようというわけだ。
 ま、それだけが理由とは思ってないが。

 オレの立場は一応戦略戦術顧問と言うことになるそうだ。別にこの役職名に意味は無い。
 何となくだろう。実際には対”闇の王子”の切り札みたいだ。

 …しかし、それに意味があるのかも不明だ。
 それってオレのことだよな?
 それともオレとは別にちゃんとテンカワアキトが存在するのか?

 それは嫌だな。
 出来れば出てきて欲しくない。出てきたらオレの正体がますます怪しくなるから。

 …ま、多分大丈夫…だろう。

 それはそうと。


 「司令…ナデシコCと言えば”電子の妖精”の船でしたね?」

 「ふむ、そうだが?」

 「いえ…」


 電子の妖精か…ふ。

 ルリちゃん。
 今度こそ君の知っているテンカワアキトは死んだよ。
 何しろ女になってしまったんだ。
 正体明かしても多分信じてくれないだろうな…いや、むしろ別の意味で誤解されそうだ。

 『オレはアキトと一心同体なんだ』

 『貴女、一体アキトさんの何なんですか?
  …見損ないました、アキトさん』

 とか…。
 笑えないって。

 …乗りたくないぞ。

 まぁ、軍隊だから拒否権は無いけど。
 ばれる訳無いけどな。
 それ以前にホントにオレがテンカワアキトなんだと言う確証もないけど。


 「──で、急な話なんだが、搭乗は今から丁度二時間後だ」

 「ハイ?」

 「先ほどサセボに到着したそうだ」

 「まさか、今すぐ行けと?」

 「うむ」


 うむって…今からだと準備する時間どころか、飛行機に乗る時間も無いぞ。
 戦闘機にでも乗って行けとでも?


 「マジっスか?」

 「マジだ」






 と言うわけで。
 マジだったようだ。

 仕方なくオレは機動兵器──軍が対ブラックサレナとしてオレ専用に開発させた”シュヴァルツクルクス”の高機動形態で飛んでいった。
 移動中接触した軍の戦闘機が落ちたようで、幾つかクレームが来てたが無視。緊急事態だ。

 しかし、”シュヴァルツクルクス(黒い苦悩)”とは…いやな名前だな。
 別に良いけど。

 と、そんなこんなあったんだが結局一時間ほど遅刻してしまった。
 コウノの奴は最初どさくさに紛れてオレの身体に触れるのを喜んでいたんだが、今はもうぐったりしている。
 ま、無理も無いか。超音速で飛んで来たんだからな。

 オレは機体からコウノの身体を引き摺りつつ、ドックの方へ急いだ。
 別にオレに非は無いと思うんだが、遅刻してのんびりしている訳にも行かないだろう。

 いや…そう言えばユリカの奴は遅刻して堂々としてたらしいが。
 オレは常識人だからな。

 機体の搬入の方は整備班に任せるとして。
 取り合えずオレはナデシコのブリッジのほうへ連絡をとることにした。

 歩きながらコミュニケを操作する。
 右肩にコウノの身体を担ぎつつなので、作業がしにくいな。
 妙に注目を集めてるが気にするまい。

 ぴ!

 お、開いた。


 『はい、こちらナデシコC──』

 「どうも。遅刻しました。こちら連合宇宙軍中佐のカンザキユウキです。現時刻を持って機動戦艦ナデシコC付属戦略戦術特別顧問に就任します。と言うか、もう直ぐそっち行くので待っててくれ」

 『え、あ、はい?』


 ぴ!

 なんだか自分でもあんまりだと思うが強制切断。
 ま、ナデシコなんだからこんなものだろう。

 せめてもの誠意にオレは少しだけ歩調を速めた。
 どうでもいいがコウノの体が邪魔だ。

 こら、無意識とは言え胸に触るな。






 「いやいや、お持ちしておりましたよ、カンザキ中佐」

 「ちょっと遅れたな…すまん」


 ナデシコに搭乗して、ブリッジに到着した途端、待ち構えていたようにプロスさんが挨拶をしてきた。
 相変わらず抜け目の無い人だな。

 それに対してオレは全然済まななさそうに答える。
 自分でもちょっとふてぶてしいとは思うが。


 「ちゅ、中佐…」

 「気にするな」


 いつの間にか復活して焦るコウノ。
 本当に無能な奴だな。ジュン並だぞ。いや、それほどでも無いか。
 うん、流石にそれは言いすぎだな。

 まぁ、とにかく昔からお前はそんなだから何時まで経っても…って、そうじゃない。

 オレはテンカワアキトだ。
 昔なんて無い……筈だ。


 「さて、中佐。こちらがこの艦の艦長、ホシノルリ少佐です。ルリさん、こちらは宇宙軍より戦略戦術顧問として出向して頂いたカンザキユウキ中佐と、その補佐のコウノケイスケ大尉です」


 にこやかに微笑みながらプロスさんがルリちゃんを連れてきて紹介した。
 …いきなりだな、おい。少しはこっちの都合も──って訳にも行かないか。

 オレは出来るだけ平静を装って軽く会釈した。
 ばれる訳無いけどな。


 「…初めまして。ホシノルリです(ゔい)。宜しくお願いします。今回の任務では基本的に戦闘行動は想定しないのですが、有事の際には宜しくお願いします」

 「いえ…こちらこそ。ところで何故Vサイン?」

 「特に意味はありませんが、敢えて言うなればファンサービスでしょうか」

 「…そうか」


 しかし…その無表情で遠慮がちに出したVサイン、物凄く可愛いぞ。
 ホントにルリちゃん、随分変わったみたいだな。
 オレほどじゃないにしてもな。

 ……当たり前だが。
 ルリちゃんが野郎なんかになったら無理心中モノだぞ。


 「ところで…中佐」

 「何かな?」

 「いえ…たいしたことではないのですが」


 何だ?
 まさかオレの正体に気づいたわけでも無いだろう?


 「中佐の乗られていた機動兵器ですが、あれは…」


 なるほどね。
 やっぱり気になるか。
 あの機体…”シュヴァルツクルクス”は若干の仕様の違いを除けばまんまブラックサレナだからな。
 その辺は仕様書を読めば分かることだ。

 軍が何を考えてるのか…疑ってるのかな。
 オレも実際の所、よく分かってないんだがな。

 一応ブラックサレナ対策らしいが、怪しいもんだ。


 「──ま、少なくともオレに害意は無いよ、ルリちゃん」

 「えっ!?」

 「いや…気にするな」


 おっと、つい何時ものノリで喋ってしまった。
 ん?何時ものノリ?

 誰にとっての何時も、だ?

 と言うか、既にオレのキャラ自体壊れてないか?
 ”闇の王子”でも無くなってるな…。

 ただ、案の定ルリちゃんは驚いた顔でこちらを凝視している。
 漸くしっかりと眼が合った。

 金色の瞳が不安そうに揺れている。
 少し、心が痛くなった。

 オレは少し瞳を細めて…気が付いたら。
 何となく笑いかけていた。

 その表情を見てルリちゃんがはっとする。
 随分表情が豊かになったな…。


 「え…アキ…ト…さん?」


 その笑顔に何か感じたのか、ルリちゃんは呆然としていた。
 オレは思ったよりも冷静にそれを受け流す。

 自己嫌悪するくらいに、平気だった。


 「……アキト?ルリちゃんの彼氏かな?」

 「え、あ…え、その…すいません、変なこと言ってしまって…」


 …あからさまに真っ赤になったりして。
 まさかとは思ったが…ルリちゃん…。

 …。

 ……。

 ………。

 何やってんだか…オレも。

 不思議だな。
 何で、こんなに何ともないんだろう。
 何で、こんなに他人事みたいに話せるんだろう?

 オレは…誰なんだ?


 「…オレも、探してるんだよ」

 「え?」

 「王子様をね…」


 いつの間にかそんなことを呟いていた。

 そうだ。
 オレがもしテンカワアキトでないとしたら、オレとは別に”闇の王子”が存在しているはずだ。
 それに、ラピスは…。


 「…中佐?」

 「…なんてね」


 オレは、言葉に詰まってしまったルリちゃんの方へ向いてそっと微笑んだ。
 ルリちゃんもオレから眼を離せないでいる。

 ちなみにコウノはさっきから蚊帳の外だ。
 存在感ゼロだな。


 「…あの、あなたはアキトさんを…」


 迷った末にルリちゃんが口を開いた。
 オレは何も答えずにそっと踵を返す。


 「あ…」

 「失礼…では、オレはこれで…。行くぞ、コウノ」

 「え、あ、はい」


 …実際のところ。
 オレは何がしたかったのか。
 それすら曖昧で、分からなかった。

 オレはルリちゃんに会えて何を思ったのか。
 嬉しいのか?安堵しているのか?戸惑っているのか?恐怖しているのか?
 それに…。

 この気持ちは本当に、テンカワアキトのものなのか?

 考え出したらきりが無い。
 何故オレはあんな態度を取ったのか…。
 中途半端がルリちゃんを一番苦しめるのは分かっていたはずなのに。

 何故?
 …何故だ?

 …。

 ……。

 ………。

 …ま、勢い、だろうな。どっちかと言うと。


続くんでしょうか?(笑)



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後書き by XIRYNN

ま、冗談です。
文体もかなり適当。設定も激甘…なのでその辺突っ込まれても回答しかねます。(笑)
一応劇場版その後ですね。細かい所は違ってくると思いますが。
とにかく何も考えずに読んで下さい。
息抜き専用SSですから、これ。
続くかどうかは不明です。なんせホントに勢いだけですから。
リクエストによっては続く可能性は無きにしも非ず。<おひ
むしろどこか別のHP管理者の方…貰って下さいませんか?(爆)