エヴァ遊記
第1話 若い僧侶、運命的な出会いをするの事
作 関 直久


ある大陸の山の中―――
その細く長い山道を一人の少年が歩いていた。
容姿は気の弱そうなところは見られるがなかなかの美少年。
しかし、服装は質素な白い袈裟。
黒髪の頭には布が掛かっており、その上には冠が置かれてある。
その少年の名はシンジ、
三蔵シンジという名前だった。
さて、そのシンジ少年が何故この山の中を歩いているかというと…

「はあ…まだまだ遠いな…天竺は…」

そうシンジは呟き重く溜め息をついた。
そう、彼は天竺を目指していた。
ふとシンジの脳裏にあの時の出来事が思い出される。



『三蔵よ』
『はっ、何でしょうか冬月大僧正様』

大僧正に呼び出されたシンジはそう言って平伏した。

『うむ、ここ最近での国々の乱れには酷いものがある。そう思わぬか?』
『左様で…』
『これも人々の心が荒んでいるからと言えよう』
『はい…』
『そこでだな…お前に今から命じる事がある』
『はっ、何でしょうか?』
『天竺に行って欲しい』
『あの…西の果てにあると言う仏様のおられるあの天竺ですか?』
『そうだ。天竺に行って人々の心の救いとなるありがたいお経をもらってくるのだ』
『何故私のようなものにそのような重大な命を…?』
『観音様からのお告げじゃ』
『観音様が?!』
『昨日の晩、美しい観音様が私の枕元に立ってな…天竺に来てくれるようにとその時の使者に三蔵シンジ
を寄越すように言われたのだ』
『そうでしたか…』
『行ってくれるか?三蔵よ』
『はっ、お任せ下さい』
『良し、それならば馬と従者を手配しよう。三蔵…頑張るのじゃぞ』
『はい』



そうして出発したのが三日前の事だった。

「しかし…まさかお供の人に1日目でお金と馬を盗まれるなんて…」

また深く溜め息をつく。
…どうやら彼は不幸の星の元に生まれたらしい。

「でも…お経は取ってこないと…病める人々が…」

それでも健気に命を果たそうとするシンジ。
けれども毎日の徒歩での疲れと空腹があいまってとうとう座り込んでしまった。

「ちょ…ちょっと…や、休もう…」

大きな木の下で残り少ない食料と水を少しずつ出して口に含む。

「…ふう…」

そうして休むにつれてだんだんと絶望感が増してくる。



本当に天竺に行けるのか?
その前に自分はこの先、生きていけるのか?
飢え死にするんじゃないか?
それとも妖怪に食われて死ぬんではなかろうか?



そんな暗い事を考えてどんどん気が滅入ってくるシンジ。
そんな時だった。

「…っと」
「ん?」

シンジは一瞬我が耳を疑った。
人の声がする。しかも女の子の声だ。

(こんな山の奥で何故?)

幻聴かと思って耳をすますと…

「ちょっと!」

今度ははっきりと聞こえた。

「人だ…人がいるんだ!」

ここ何日か誰一人として会っていないシンジはその声のする方に向かって走った。
途端に森は終わり、次には拓けた所に出た。
真上にはさんさんと輝く太陽と突き抜けるような青空が広がり、
遠くには緑の山々が見え、そこに薄く霧が掛かっている。

「こんな所があったんだ…」

暫くその周りの景色に見とれるシンジ。

「こぉら、そこの小坊主!」

再び聞こえた声によりシンジは現実に引き戻された。

「な、何?」

振り向いた方向には大きな岩があった。
否、正確には大きな岩の下敷きになっている少女がいた。

「『何?』じゃないわよ!さっきからこの私が呼んでるって言うのに気付きもしないでボーっとして!」
「う、うわっ!」

異様な光景に思わずしりもちをつくシンジ。
少女はそんな様子を呆れながら見つめた。

「情け無い…こんなのが本当に私の封印を解けるの?」
「ふ、封印?」

何とか気を取り直してシンジが少女に聞き返す。

「そうよ!あんたが三蔵シンジなんでしょう?」
「う、うん…」
「だったらこの岩に張ってあるお札を剥がして!そうすれば私が出られるの!」
「で、でも…」
「い・い・か・ら…さっさとしなさい!」
「は、はい!」

少女の勢いに完全に呑まれたシンジは様々な疑問も気にせずに岩に張られてあるお札を慌てて剥がした。

「よぉ〜し…お札さえなけりゃあこっちのもんよ!ちょっとあんた!伏せてないと危ないわよ!」

これまた慌ててシンジが伏せるや否や、

「せーのー…」

ちゅど――――――――――――ん!
轟音と共にさっきまで少女の上にあった見上げるほどの大岩が砕け散った。
暫く恐怖でただ顔を必死で伏せていたシンジが恐る恐る顔を上げるとそこには…
腰に両手を当てて高笑いをしている少女の姿があった。

「やった!やったわ!自由よ、自由なのよ!もうこの斉天大聖、悟空=アスカ=ラングレー様を縛り付ける
ものは何もないのよ!」

そう喜びの声を叫ぶ少女…アスカを改めて良く観察すると、髪は茶色で瞳は澄んだ青、
今は喜色満面に溢れるその顔はとても美しく、服装は赤い衣に腰には虎の毛皮が巻かれてある。
そしてその頭には金の環がはめられていた。
シンジはさらに呆然としていたがあまりにも嬉しそうな顔をしているアスカを見て思わず、

「よ、良かったね…」

と呟いた。

「そうね、これもあん…シンジのおかげね。一応礼は言っておくわ…ありがと」
「いや、そんな…」

思わず照れるシンジの声は無視してアスカは、

「それじゃあ私はこの辺で…」

とくるりとシンジに背を向けて去ろうとしていた。
が、しかし。

「待ちなさい」

新たに投げかけられた第三の声に去ろうとしていたアスカはぴくっと立ち止まる。

「その声は…観音!」
「観音様?!」

嫌そうな顔をするアスカとびっくりするシンジの前にその声の主、観音様が現れる。

「アスカ、あなたはお釈迦様と結んだ約束を忘れたのですか?」
「はん!あんなヒゲ親父との約束を誰が守るですもんか!」

シンジは成り行きについていけずにただボーっとしていた。

(大僧正様の言っていた通り観音様って綺麗だな…それにまるで母さんのような雰囲気だ…
それにしてもアスカってお釈迦様の事をヒゲ呼ばわりなんて…怖くないのかな?)

そんな事を考えている間にもアスカと観音の話は続いていた。

「封印を解いてもらったらそのままシンジの護衛をする約束でしょう」
「い・や・よ!私はもう自由なんだから!」

そう言ってアスカは雲を呼び出すとそれに乗って飛んで行こうとした。

「仕方ありませんね…」

観音が目を閉じて何やら呪文を唱えはじめた。

「い、痛たたたたたたたたたたたたたた!!」

とたんにアスカは頭を押えて雲から落ちてしまった。
観音はまだ呪文を唱え続けてる。
どうやらあの呪文でアスカの頭の環が締め付けるようになっているらしい。

「これでも言う事を聞きませんか?」
「痛たたたた!わ、わかったから呪文は止めてぇ!」
「か、観音様!もうその辺で…」

アスカのあまりにの苦しみようにシンジも観音に頼み込む。

「わかりました。それでは」

と、観音は呪文を止める。

「はー、はー、た、助かった…」
「行ってくれますね?アスカ」
「わ、わかったわよ!行けばいいんでしょう!行けば!」

少し自棄気味に叫ぶアスカ。

「そう言う訳でシンジ」
「は、はい!」

急にこちらに話を振られて思わず動揺するシンジ。

「天竺への道は長く辛いものですがどうか諦めないで頑張って下さい」
「はい!」
「それでは天竺でまた会えるのを楽しみにしていますよ…」

そう言って観音は消えるようにいなくなった。

『あっ、そうでした。アスカがまた無茶をしだしたらこの巻き物の呪文を唱えなさい』

そう言ってぽとんとシンジの手に一つの巻き物が出現した。
シンジはしばらくこの短時間に起こったさまざまな出来事に少し混乱していた。
が、それもアスカの怒声によって収まった。

「あーもう!何よ!せっかく500年ぶりに外に出れたと思ったらまだ私は自由じゃない訳?」
「ご、500年?!」
「何よ、何か文句でもあるの?」
「い、いや…別に…」
「いい?言っておくけど私はあんたのしもべじゃないんですからね!
呪文があるからって言うこと聞かせられる何て思ってたら大間違いなんだから!」

「わかってるよ」
「え?」
「アスカの事をしもべなんか思うわけないじゃない」
「…そ、そうよ分かってるじゃない」
「でも一つだけお願いしていいかな?」
「な、何?」

シンジは恥ずかしそうにうつむいていたがやがて意を決すると、

「友達になってくれないかな?」
「友達…?」
「寺じゃあ皆大人の人達ばっかりだったから…駄目かな?」
「べ、別にそれくらい構わないわよ…」
「ありがとう!」

シンジはそう言ってにっこり笑うとアスカに手を差し出す。

「改めて言うね…僕、三蔵シンジ。よろしくね」

そしてアスカはしばらく戸惑っていたがやがて手を握りかえすと、

「悟空=アスカ=ラングレーよ!よろしくね」

そして二人はしばらく握手を続けるのだった。




あとがき by 関直久さま

作:という訳ではじめまして!作者の関直久です!
由:そして私がこんな作者のアシスタントをやらされる川村由香里といいます。どうぞよろしく
作:こんなって…
由:うるさいこの行き当たりばったり作者
作:うっ…
由:大体なんで今まで書かなかったもの書いてるのよ
作:このエヴァ小説のこと?
由:て言うかこれエヴァ小説?
作:だって本編に沿った奴なんて前にテレビしか見てない俺が書けるわけないだろう
由:普通そんなんだったら書かないでしょ
作:いや、でも考えてはいたかな…しかし
由:?
作:流石にあれはカミソリメールとか来そうなんでやめた
由:どんな話なんですか…それは…
作:それはまた今度と言うことで…
由:今度?…今度なんてお前にはないわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
作:うわわわわわわ!そ、それでは今日はこれでさようなら!
(といいながら作者刀を持って追いかける由香里から逃亡、そして誰もいないあとがきの舞台に幕は降りていった)



素晴らしい作品を送ってくださった関直久さまに皆様も是非感想のメールを。