エヴァ遊記
第2話 悟空、饅頭をめぐって竜と喧嘩するの事
作 関 直久


アスカがシンジと旅を共にするようになって幾日か過ぎ―――
ある河原の近くで野宿をした次の早朝の事だった。
シンジはいつも通りに朝食を作るために早く目を覚まして辺りを見渡す。
そしてポツリと呟いた。

「アスカ…まだやってたんだ…」

そこには幾つもの破壊された岩があった。
そしてその中の一際大きい岩の破片の中で眠っているアスカの姿はあった。

「そんなにあの環が嫌なのかな?」

そう言ってシンジは首を傾げた。
要するにアスカはここ何日かあの頭を締め付ける憎ったらしい環を破壊しようと色んな事をしていたのだ。
そして昨日は周りにある岩に叩きつけて壊そうとしていたらしい。
で、結局壊れなくて大きな岩を砕いた所で力尽きてそのまま眠った…という訳なのだ。
シンジはもうそんなアスカの姿に慣れたのか気にせずに朝食に取りかかっていた。



やがて漂ういい香りに誘われてアスカは覚醒した。

「ん〜…むにゃむにゃ…」

まだ少し寝ぼけているようで、ほぼ眠りかけてる状態でシンジのところへ向かう。

「あっ、おはようアスカ」
「…おはようシンジ…」

美味しそうに湯気を立てている朝食を肉眼で捕らえてやっとアスカは完全に目が覚める。

「今日の朝食は何?」
「え〜とね、野菜と餅を味噌で煮込んでみたんだけど…」
「お肉は?」
「朝から?それはちょっと重いんじゃ…」
「関係無いわよ。私は今お肉を食べたい気分なの!」
「でも…どの道今は無いよ。次の村にでも着いたら分けてもらうから…我慢してよ」
「嫌!今食べたいの!」

そう言ってアスカは近くの山の中に入って行こうとする。

「ど、どこ行くのアスカ?」
「無いんだったら肉を取ってくればいいんでしょ?」
「ま、まあそうだけど…」
「ちょっと狩って来る」
「狩って来るって…」
「いちいち五月蝿いわね…あんたには取れそうにも無いから私が行くんでしょ」
「いや、確かに僕に獲物を取るなんてできないけど…それでもさぁ…ってアスカ?」

そうシンジがいじけている間にアスカは山の中に入っていった。

「ふう…」

一人になり何もすることが無いシンジはただひたすら鍋の番をしていた。



暫くして―――

「シンジ〜!狩ってきたわよ〜!」
「あっ、アスカ。お帰りって…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

アスカの声を聞いて後ろを振り返ったシンジが見たものは―――
巨大な熊だった。

「ま、まさかこれがアスカの正体?!」
「何でよ!」

アスカの怒った声とと共に熊が浮かんでいく、
いや、後ろにいたアスカによって持ち上げられていったのだった。

「何でこの美少女に正体が熊なんかなのよ!」
「あ…いや、ごめんアスカ…ちょっと気が動転してたんだよ」
「ま、いいか…それよりも獲ってきたんだからちゃんと料理してよね」
「あ…うん」

そして野菜と餅だけだった鍋に熊肉が加わる。
全体に火が通ったところでシンジが椀に料理を盛りつけ、アスカに渡した。

「はい、アスカ。肉は初めて調理するからあまり自信は無いけど…」
「いや、おいしそうよこれ…」
「それじゃあ食べようか」

自分の椀にも盛りつけた後シンジとアスカは揃って、

「いただきます」

と食べ始めた。

「う〜ん、もぐもぐ…うん!いけるわよこれ!シンジ料理の才能あるよ」
「ありがとう…寺にいた頃はみんなの料理も作っていたから少しはできるんだ」
「あれ?なんでシンジの椀には肉が入ってないの?」
「アスカ…僕一応僧侶の端くれなんだけど…」
「あっ、肉食べたらいけないんだっけ?」
「そうそう」
「かわいそうね〜この美味しさがわからないなんて…
ねえねえ、誰も見てないから食べても何も言われないわよ」
「いや駄目だよ。これは僧が守るべき戒律だし」
「いや!やっぱりこれは食べるべきよ!せっかく自分が作ったんだから食べてみなさいよ」
「でもお釈迦様が決められた事だから…」
「あんなヒゲ親父の言う事なんて無視しちゃいなさいよ!」
「ヒゲって…そういえばなんでお釈迦様をそう言うの?」
「ああ、あたしは会った事あるのよ釈迦の奴に」
「そうなんだ…どんな方だったのお釈迦様って?」
「一言でいったら…怪しいヒゲね。もうそれ以外の何者でもないわ」
「……………………」
「実際やられはしたけどとてもあれが天界の一番偉い奴なんて絶対信じられないわね」
「…………………そう………………」

冷や汗を流しながらアスカの話を聞くシンジ。

「だからあんな奴が決めた事なんて守る事なんて無いわよ」
「そう…なのかな?」
「それに、この先まだ長いんだから体力つけるためにも食べなさい」
「そうだね…ありがとうアスカ、心配してくれるんだ」
「べ、別に…あんたを早く天竺に連れて行かないとこの環が外れないからよ」

少し顔を赤らめそっぽを向きぶつぶつというアスカ。
シンジはそんなアスカの気遣いを嬉しく感じながら椀に肉を継ぎ足す。

「それじゃあ改めて…うん、本当に美味しいねお肉って」
「でしょう〜?」

そして二人はあっという間に鍋を空にした。

「ごちそうさま」
「ふ〜、お腹いっぱい…」
「そうだねもう入らないや」
「でもね…」
「?」
「デザートは別腹なのよね」
「まだ食べるの?!」
「何よ。いいでしょ別に…この500年もの間ろくなもの食ってないんだから…」
「どんな食事だったの?」
「聞きたい?」
「えっ…う、うん」
「毎日毎日、銅の汁と鉄の団子…全く食えたもんじゃなかったわ」
「食える以前の問題だと思うけど…」

一体何をしたらそんな仕打ちを受けたのか大いに気になるシンジだったが、

「それじゃあ仕方ないよね。ん〜、デザートだったらお饅頭があるけど…」
「それでいいわ頂戴」

そっけなく言いながらも力強く手を突き出すアスカ。

「はい」

そしてその手にシンジが取り出した饅頭を渡そうとした時、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………………
辺りが振動する。
慌てるシンジと落ち着いて手をまだ突き出しているアスカ。

「な、何だ?」
「ただの地震じゃないの?それよりも早くお饅頭を…」

ザパーン!!
次に河から水柱が上がる。

「うわぁ!」

と、シンジが驚いた瞬間にバランスを崩し…
持っていた饅頭はその弾みに空高く舞い上がった。

「あっ!」

ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……
饅頭はそのまま万有引力の法則により落ちていく。
そしてその落ちる先は…
口の中だった。
しかし、それはアスカでもシンジでも無く…
先程河から顔を突き出した竜の口の中だった。
………ポトン………
そのまま見事に竜の口にホールインワンする饅頭。
竜はすぐにそのまま口を閉じて、
ゴクン
と呑みこんだ。
そして唖然としている二人を尻目に再び河の中に戻っていった。

「………………」

暫く無言になる二人。
いや、少し違った。
シンジは恐怖で無言だったが、アスカは…怒りで無言だった。
こめかみをピクピクさせている。
そして体からは気を放出していた。
それは周りの景色が歪むほどである。
果たしてこの時シンジはどちらに恐怖を抱いていたか…考えるまでも無いだろう。

「ふっふっふっ……」

そしてとうとう笑い始めるアスカ。
そのまま印を組ながら真言を唱え始める。
そして一言こう言った。

「煮殺してやる」

そのままアスカの手から純白の炎が迸った。
炎は河を覆い、水に触れても消えずに燃え広がる。
当然河の水温は上がる。
次第に湯気が昇ってゆき、沸騰していく。
そして…
バシャーン!
あまりの暑さに耐えかねなくなったのか竜が河から完全に姿を現す。

「出て来たわね…覚悟してもらいましょうか?」

そう言ってアスカが耳の中に手を入れる。
そのまま何か掴み出したかと思うと、それは一瞬にして巨大化して立派な棒となった。
アスカは棒をくるっと一回転させるととちゃきっと構えた。
アスカの愛用の武器、如意棒である。
竜の方も先程の仕業が誰のせいか気付き唸り声を上げる。
二者ともそうして戦闘態勢が整ったところで激突した。
ちなみにシンジはしっかりと避難をしたのは言うまでも無い。



アスカは雲に乗り、竜はそのまま宙に浮かぶ。
いきなり竜は口を開いたかと思うと幾筋もの雷光を放った。
しかしアスカはこれをことごとく避けるとそのまま如意棒を伸ばす。
そして竜を棒で殴りつけた。
その威力はすさまじく竜はそのまま吹っ飛んでいって山に激突する。
アスカはそれを追いかけていく。
竜は衝撃のせいで人型へと戻っていた。
青い髪と真紅の瞳が特徴的な美少女、
それが竜であったものの姿だった。
しかし、それでアスカが手加減するかというとそんな気はさらさら無く…
そのまま食べ物の恨みを込めた如意棒を振り上げる。
そして竜だった少女が目を瞑り死を覚悟した時、

「やり過ぎですよ。ア・ス・カ」
「そ、その声は…」

ぎぎぃっと音を立てて横を向くとそこには観音が立っていた。

「は、はは…一体何の用でしょうか観音様」(ちぃ!なんでまた来るのよ!)

無理に敬語を使うアスカ。
何しろここで下手に機嫌を損ねたらまた頭が締め付けられるのがオチだからだ。

「いえね…ちょっと旅が気になったものですから」
「そ、そうでいらっしゃいませうか…」(余計なお世話よ!)
「早速暴れてますね」
「(ぎくっ)こ、これには深い訳が…」
「饅頭を食べられた事が?」
「み、見ておられたので…?!(たらたら…)」
「ええ」(にっこり)

そしてアスカは目を瞑り死を覚悟した。
そして数刻後…
失神して痙攣しているアスカを放っておいて観音は少女の方に目を向ける。

「アスカに非はありますがあなたも人前で河から出てきてはいけませんね」
「はい…」
「そこであなたには私から命を与えます」
「命令ですか?」
「そうよ」
「何なりと…」
「この者達と天竺まで一緒に旅をしなさい…そしてシンジの手助けをするのです」
「はい…」
「そうすればあなたがここにいる理由―――竜王家との問題も何とかしましょう」
「ありがとう…ございます…」
「それじゃあ早速この子を連れて河にいるシンジの所に行きなさい」
「はい…」

少女はまだ痙攣しているアスカを肩に担ぐとそのまま河の方へと歩いていった。



辺りが静かになって恐る恐るシンジが河の方に戻った時、
そこにはアスカを肩に担いでいる少女の姿があった。

「アスカ!」

急いで少女のもとに走るシンジ。
少女はシンジをその目で確認するとアスカを河原に寝せた。

「アスカ…ねえ、これは君がやったの?」

心配そうにアスカを見つめ、次に信じられなさそうに少女の方を向くシンジ。

「違うわ…これは観音様が…」
「成る程…」

理由を聞いて納得したシンジ、そのまま次の質問を口にする。

「君は…?」
「私は…竜…」
「さっきの竜?!」
「そう…そして観音様の命令によりあなた達と旅の共をする者…」
「そう…なんだ…」
「よろしく…」
「えっ?あ、あぁよろしく」

いきなり差し出された手に戸惑いながらすぐに意図に気付き握手するシンジ。

「え〜と僕が三蔵シンジ、シンジでいいよ。あっちがアスカ、悟空=アスカ=ラングレーと言うんだ…君
の名前は?」
「西海竜王敖順が三女、敖玲…レイでいいわ」
「じゃあレイ、これからよろしくね」
「ええ」

旅の仲間が増える事に純粋に喜ぶシンジ。
ちなみにアスカはまだ痙攣していた。
そんな二人を見ながらレイは、

(…面白い人達)

と思っていたとか…




あとがき by 関直久さま

作:と言う訳で!エヴァ遊記第2話いかがだったでしょうか!
由:う〜ん…とりあえずさぁ
作:何?
由:背中に刺さっている刀抜いたら?
作:うぐっ、そう言えば前回の最後から刺さったまんまでした…
由:ま、いいか死なないみたいだし
作:オイ
由:と言う訳で綾波嬢登場の回ね
作:うむ、何の役か散々迷ったんだよな最初
由:レギュラーにはしたかったそうで…
作:やっぱり綾波はちゃんと出したくてね…
由:あなたLAS人の癖に綾波ファンなの?
作:と言うか林原ファンです
由:…………そう
作:そう言う事、矛盾はしないぞ
由:(無視)で結局竜の役にしたと
作:そうそう、原作では悟空の次に2番目の弟子となる竜です
由:二番弟子は八戒じゃないんですか?
作:えっと…ちょっと説明したい事もあるからこのコーナー始めるか
由:コーナー?
作:そ、題して「うろ覚え西遊記講座!」
これは西遊記に関するあらゆる事柄を私の記憶の片隅から掘り出して教えるコーナーです
由:ただの無駄話ですね
作:そう言うな…さてと今回は綾波嬢の役となった玉龍についての説明です
由:八戒や悟浄と比べると知名度は落ちますかね?
作:原作ではしっかり役に立っているけど…三蔵の馬として
由:馬だったんですか…
作:そうそう、最初三蔵が乗っていた馬をこの竜が食ってしまいましてね。
悟空にやられた後、観音様に罪滅ぼしに代わりの馬にされたんですよ
由:哀れですね…
作:こっちでは綾波を馬にするのは嫌だったのでただの同行者としました
由:本文では竜王の子供とか…
作:それは事実です。実際竜王と悟空は結構因縁があるんですよ。
例えば如意棒は元々東海竜王の所にあったんですから
由:そうなんですか
作:如意金箍棒と正確には言いまして元々東海竜王の家の奥にある巨大な柱みたいなものでした
由:重さを悟空は気に入ったんでしたっけ?
作:一万三千五百斤(約8.1t)をちょうどいいと言うんですからね…
ちなみに太さと長さはその後悟空の言う通りに変わったそうです。
由:如意棒と言えば次はキン斗雲(キンの字は出ない)ですね
作:元々仙術で雲に乗るのは当たり前のようでキン斗という言葉は悟空の仙術の師匠が付けたそうです。
キン斗の意味は雲に乗る時に悟空がとんぼ返りをしながら乗る所から来ているそうです
由:そのスピードも凄いんですよね
作:一飛び十万八千里(約地球1周分)ですもんね。まあなんでも凄いと言う事ですね
由:そして有名なのが頭の環っか
作:前回でLIEさんが何と言う名前か気になっていましたが…緊箍児(きんこじ)と言う名前です。
実は「禁、金、緊」の三点セットだったようです
由:後二つもあったんですか
作:それらも原作内で使われたようですが…
由:ところで、この辺にしないと長くなり過ぎじゃあ…
作:あっ、本当だ
由:ちゃんと考えて書けよあんた
作:五月蝿い…いたたたたた、刺さっている刀が痛い
由:全くこんなの早く抜きなさいよ
(と言いながら刀を抜く)
ドバ―――――――――――――――!(血が吹き出る音)
作:おい!血が止まらないぞ!おい!由香里!
由:…それじゃあまた次回お会いいたしましょう!
作:ああっ!逃げるな!無責任だぞお前!
(と叫びつづけるが出血多量でそのまま気絶、そして舞台上は血の海に…
そしてそれ以上見せないように幕は降りていった)



素晴らしい作品を送ってくださった関直久さまに皆様も是非感想のメールを。