エヴァ遊記
第3話 八戒、昔の自分と仲間に決別するの事
作 関 直久


練譜寺―――
ここは三蔵シンジが帰依していた寺である。
庭では数人かの僧が掃除をしている。
そのうちの二人がこんな会話をしていた。

「シンジが寺を出発してもう数週間になるよな?」
「ああ…結構経っているぜ」
「死んだかな?」
「お供も金も馬も無しだったら野たれ死ぬしかないからな…」

どうやら最初のお供の一件の原因はこの二人のせいらしい。

「あいつもな…あの普通の性格だけだったらいいんだけどな…」
「そうそう、あれさえなければ美味い飯作るから良かったんだけどな…」
「本当に…あいつがいなくなって平和を取り戻せたよ」
「全くだ…」
「こら!お前達、私語は慎まぬか!」

年配の僧に怒られ彼らは慌てて話を止め、すぐに作業に戻った。



さて、竜王の娘であるレイを加えた三蔵一行は西への旅路を進んだ。
途中、山賊や妖怪などが現れたが勿論アスカとレイの敵では無く例外なく吹っ飛ばされていた。
また山賊の時には食料なども奪っていたので飢える心配も無かった。
実にその点に関しては(少しの問題点があるが)シンジは感謝していた。

「それだけに関してはね…」

とシンジは溜め息を吐きつつ目の前の光景を見ていた。
目の前ではアスカとレイがご飯を奪い合っていた。
性格がまるで違う二人のただ一つ共通するもの…
それが『食いしん坊な事』である。
最もレイは肉類は食べないらしくそれだけは何とか危機を逃れているが、
他の食べ物となると途端にこのような光景が広がるのである。

「ああっ、それ私の桃〜!」

アスカが信じられないと言ったような声を出しながら桃を手に持っているレイを指差す。

「誰が決めたのそんな事…?」

レイはそんなアスカの叫びに全く気にしてないようだった。

「私に決まってるでしょ?!」
「そう…」

そう言うが早いかレイは桃にかぶりついた。

「ああ〜っ!!」
「モグモグ…早い者勝ちよ…」
「このバカ竜〜!」

そしてアスカが如意棒を持って追いかけ、レイが逃げる。
レイは実力自体ではアスカに敵わないながらもスピードでは勝っているようでそのまま逃げ切っている。
そしてアスカがいい加減飽きて終わると言うのがほぼ変わらないパターンである。
が、今日は少し違った。

「この…止まれ〜!」

とアスカが岩を投げ始めたのだ。
人が抱えきれないぐらいの大きい岩がかなりのスピードで宙を舞う。
流石のレイもこれには驚き、避けるので精一杯になっている。

「今度こそ…当たれ〜!」

そしてここぞとばかりにさらに大きい岩を投げるアスカ。
紙一重で避けるレイ。
そして…
グシャ!

「グシャ?」

と少し離れて見ていたシンジがその音に目を向けると…
黒い服を着た男性が岩の下敷きになっていた。

「た、大変だ〜!」

シンジは慌ててその岩に駆け寄るのであった。



「すいません、すいません!」

シンジが頭を擦りつけんばかりに男に土下座をした。

「まぁ、お坊さんもそんなに謝らんとほんの掠り傷やさかい」

そんなシンジに優しく言う先程の黒い服を着た男性。
ちなみに本当に大した傷は負っていないようだった。

「でも、アスカのせいなのは確かですし…」
「何で私だけよ!レイも同罪よ!」
「岩を投げたのはあなた…」
「あんたが当たらないのが悪いんでしょ!」
「我が侭猿…」
「何ですってぇ!」
「ああ…もう二人とも止めなよ…」
「お坊さんも苦労してるようやの」

頭を抱えるシンジに同情する男。

「所でお坊さん、今日の宿はどうするつもりや?」
「野宿にしようと思ってますけど…」
「そらあかん、夜は冷えるで…そうや、今日は家に泊まりや」
「そんな!怪我までさせたのに悪いですよ!」
「だから大した事無いって言うとるやろ?気にしなんと…それに」

そう言って男はにやっと笑うと、

「恋人は大切にせんとあかんで」
「えっ…」
「ちょっと!誰が恋人よ!」

アスカが間髪いれずに顔を赤らめて怒鳴る。

「別にあんたやとは言うてへんけどな〜」

まだニヤニヤしながら男が言い返す。

「うっ…」

さらに顔を赤らめるアスカ、シンジも顔が赤い。
レイは…別にどうもしなかった。

「ま、遅くなっても困るさかいさっさと行こか?」

そう言って男はくるっと振り返り案内する。

「あ、ありがとうございます。そう言えばお名前を伺ってませんでしたが…」
「トウジ、八戒トウジや。まあそんなにお坊さんも敬語使わんと気楽にしぃや?」

そう言ってトウジは豪快に笑った。



誰も気付かなかったがその様子を影で見ていた男がいた。

「見つけたぞ…悟能…」

男は一言そう呟くと身を翻し、消えるようにいなくなった。



暫く案内されるままに進むと一軒の家が建っていた。

「ここがわいの家や」

そう言いながらトウジは戸を開ける。

「ヒカリ〜!帰ったで〜!」
「おかえりなさいませ」

すぐさま一人の女性が迎えに来る。
髪を二つに結んだ可愛らしい女性である。

「紹介するわ。家内のヒカリや」

そう指差しながらトウジが言い、今度はヒカリの方に向き直ると。

「長い旅の途中のお坊さんと出会ってな、宿も無いようやから今日は家に泊めたろうと思ってな…ええや ろ?」
「勿論良いに決まってるじゃないですか…さあどうぞお上がりください」
「すいませんお邪魔致します…」

シンジがそう言って入った。

「お坊さん…そんな堅くならんと自分の家のようにしとったらええねん」
「トウジさん…」
「トウジで良いわ」
「それなら僕の方もシンジと呼んでくれませんか?お坊さんと言われるほど自分は修行が足りないし…」
「そうか?まあそう言ってくれるんやったらわいも気が楽や」

そして今度はアスカ達の方を見て、

「嬢ちゃんたちは何て言えばええんかの?」
「アスカで良いわ!」
「…レイ…」

二人は口々にこう言った。

「さてと…早速飯の用意でもせんとあかんな…」
「あっ、僕たち手伝います」

シンジがそうトウジに言う。

「せめてこれくらいしないと義に反します」
「真面目やのう…そんな気にせんでええのに」

トウジはやれやれと言った感じで肩をすくめると、

「でもまあそんなに言うんやったら手伝ってもらおうか?」
「はい!頑張らせていただきます!」

そしてシンジはアスカとレイの方を向くと、

「それじゃあ二人は何か材料でも取って来てよ」
「私たちもするの〜?」

嫌そうな顔をするアスカにシンジは溜め息を一つ吐くと、

「元々トウジに怪我させたのは誰?」
「う!」
「幸いにも掠り傷だから良かったけど一つ間違っていたら大変な事になってたかもしれないんだよ。そう したら観音様が来るだろうな…」
「わかったわよ!やればいいんでしょやれば!」
「うん、アスカならわかってくれると思っていたよ」

そう言ってシンジが微笑む。
もはやアスカに文句は言えなかった。

「レイもいいよね?」
「わかったわ…」

レイはあっさりと了解する。

「そんならわいは畑で野菜でも取ってくるかの」

トウジはそう言ってそれぞれの役割が決まった。
シンジとヒカリが調理担当。
アスカが肉の調達。
レイは魚。
トウジは野菜というようになった。

「しかし…アスカやレイに任せて大丈夫なんかの?」
「大丈夫ですよちゃんと取ってきますよ。ね?アスカ、レイ」
「あったりまえでしょ!アスカ様の力を見せてやるわ!」
「バカ力だけがとりえ…」
「何か言った?レイ」
「別に…」
「二人とも…」
「その様子やと大丈夫みたいやな…それじゃあ任せるで!」

そして3人はそれぞれの材料を取りに行った。



トウジは自分が耕している畑へと辿り着いた。
かなりの広さの畑には数種類の野菜がしっかりと実っていた。

「さてと…どれを取っていこうかの?」
「楽しそうだなトウジ…」

不意に背中から投げかけられた声にトウジはぴくっと反応する。
そしてゆっくりと振り向くと…

「久し振りやな…ケンスケ…」

苦々しげに名前を呼んだ。

「ケンスケか…今の俺は独角児という名を頂いている。昔とは違うんだよ悟能トウジ」
「それも昔の話やな…今のわいは八戒トウジ、ただの百姓や」
「ただの…だと?」

そう言うかケンスケはクックッと笑う。

「とても幾つもの町や村を滅ぼした大妖怪様の言葉とは思えないな。良く俺とつるんで楽しい事をやった よなぁ?」
「昔話は聞きとうない。それで…わざわざ何の用や」
「決まってるだろ?」

ケンスケは何を言うのかというように両手を横に広げて、

「お前のような逸材をあの御方は探しておられてな…俺と一緒に来い、トウジ…今なら幹部の椅子が待っ ているぞ」
「さっきも言うたけどな…」

トウジは拳を握り締めながら、

「わいは昔とは違うんや。そんな事には興味もないし…むしろ放って置いてくれんか?」
「つまらん男になったな…あの女のせいか?」
「ああ…天界から追われ傷ついた時…虫の息になっとるわいを助けてくれたんがヒカリや…
身よりもなく生活が苦しいゆうんに必死になって看病してもらって…嬉しかった…
その時わいは知ったんや、人の持つ優しさに…」

そしてケンスケを見据えると、

「そしてわいは決意したんや…妖怪の自分を今から棄て、人間として罪を償いながら生きてゆくんやと!」

ケンスケはそんなトウジを蔑んだ目で見ながらこう言った。

「失望したよトウジ…何年も会わないうちにすっかり腑抜けたな…
確かに今のお前はあの方にとってはいらない存在だな…
が、しかし…お前が実力のある妖怪だというのも事実だ…」

ケンスケはトウジを睨みつけると、

「あの方のためにお前は抹消する!お前と縁のある者全てと共にな!」
「何やと!」
「既に俺の部下がお前の妻と客を殺している事だろう…トウジよ、絶望するがいい!」
「くっ…ヒカリ!」

トウジはすぐに家に戻ろうとするが、ケンスケがその行く手を阻む。

「甘いな…ここでお前の無力を噛み締めるがいい!」
「くっ…!」

トウジは歯軋りをしながらケンスケを睨みつけた。



トウジの家にて…

「へ〜、なるほどそんな調理法もあるんだ」

シンジはヒカリと料理の事について話し合っていた。

「いや〜、こっちは精進料理しか知らなかったから助かりますよ」
「こちらこそお役に立てて嬉しいわ」

そう言ってヒカリがにっこりと微笑む。
(これでアスカたちももっと満足してくれるかな?)
そんな事をシンジが考えているとヒカリがクスクスと笑う。

「どうしたんですかヒカリさん?」
「今、アスカさんやレイさんの事考えていたでしょ?」
「え?!な、何でわかるんですか?」
「すぐ顔に出るからわかりますよ」
「そうですか…参ったな…」
「所でシンジさん」
「何でしょうか?」
「どちらが本命なんですか?」

ガタン!
思わず椅子からずり落ちるシンジ。

「な、何を言うんですかヒカリさん!二人とも大事な旅の仲間で…だから別にそんな感情を持ってるわけ じゃなくて…だから…ええと…」
「ふふふ…ごめんなさいね変な事を聞いて…」
「い、いえ…わかってくれれば…」

何とか気を取りなおして椅子に座りなおすシンジ。

「一夫多妻は当たり前ですもんね」

ズガタタン!
またもやずり落ちるシンジ。今度はさっきよりも派手にこけていた。

「ヒカリさ〜ん…」
「冗談ですよ、冗談」

ヒカリは笑いながらシンジに言う。

「全くもう…」

シンジはブツブツいいながら座り直す。

「大体僕はこれでも僧侶の端くれなんですからそんな結婚なんかできませんよ」
「愛の前にはそんな些細な事関係ないわ」
「はぁ…」

何だか別人のようになってしまったヒカリに思わず引いてしまうシンジ。

「ま、そのうちシンジさんもわかりますよ」
「そう言うもんですかね…」

とシンジが言った時だった。
バタン!
戸が蹴破られる音と共に数人の妖怪が入ってきた。

「な?!何で妖怪が…?」
「独角児様の命令でそこの女を殺すように言われて来たが…坊主もいるのは好都合だ」

妖怪の一人がそう言って舌なめずりをする。

「坊主の肉を食えば長生きできるって話だ。独角児様にへのいい手土産となるだろう」

そういいながらじりじりと間合いを詰めていく妖怪達。

「くっ…!」

ヒカリを後ろに庇いながらシンジは後ずさる。

「けっ、一丁前に女を庇ってやがるぜ…」
「だが…たかが人間風情が俺達に敵うわけ…ないだろ」

そう言って妖怪の一人が拳を振り上げて、
バギィィ!
シンジを殴り飛ばす。
吹っ飛んでいたシンジはそのまま気絶する。

「まず坊主には眠ってもらう…生きたまま連れて行った方がいいからな…」
「ああ…シンジさん…」

ヒカリはどうしていいのかわからなくなった。

「坊主の心配をする暇はねぇぜ…今からお前は殺されるんだからよ…」
「その後食ってもいいよな?」
「別にいいんじゃねぇか?」
「ああ…」

フラ…
醜悪な面に恐ろしい言葉を聞かされたヒカリは恐ろしさのあまり気絶した。

「眠っちまったよ、おい」
「生きたまま嬲り殺しが良かったんだがな…まあいいだろう」
「ああ、こっちとしても好都合だ」
「?!」

いきなり聞こえてくる第三者の声に妖怪達が振りかえるが早いか―――
ザスッ…
一人の妖怪の顔面に錫杖が突き刺さった。

「何っ?!」

そのまま倒れる妖怪以外の目に映ったのは―――
錫杖を片手に構えているシンジの姿だった。

「てめぇ…気絶してたんじゃ…」
「ああ、それには感謝してるよ…シンジが眠ってくれたおかげで俺が出てくる事ができたからな…」

シンジはそのまま無造作に錫杖を抜くと肩に載せる。

「お前…何者だ?」

妖怪達の訝しげな声が投げかけられる。
人間が妖怪を倒すなどとは…しかもこんな少年が…とても信じられなかった。

「そうだな…面倒臭いが冥土の土産だ…教えてやるよ…」

錫杖をずいっと突き出してシンジは名乗った。

「俺の名は金蝉…釈迦如来が二番弟子だ…」
「釈迦の?!」
「判ったようだな…それじゃあ…」

そしてシンジ…いや、金蝉が錫杖を手元に戻し…言い放った。

「安心して死にな」
「舐めるな!」

妖怪達が爪や刀を振り回し飛びかかるも金蝉はそれをことごとく躱す。
そしてそのまま両手に持った錫杖を振り下ろした。
何かの力が掛かってるらしく、その錫杖は妖怪の体を易々と切り裂いた。
次々と妖怪の躯が出来上がる。

「ひ、ひぃっ!」

そして一人だけになった妖怪が逃げようとする所を金蝉は飛びかかって…
グサッ!
上空から妖怪の体を錫杖で串刺しにした。

「ふう…」

金蝉は錫杖を抜き取り血糊を拭うと…

「そろそろシンジも目を覚ますな…俺はまた引っ込むとするか…」

と、呟きそのまま倒れこむように眠った。



「うん…」

シンジはゆっくりと目を覚ました。

「僕は…はっ!ヒカリさん!」

自分が気絶した原因を想いだし慌てて置きあがる。

「!?」

周りを見たシンジは絶句した。
まあ周りに妖怪の死体が散らばっていたら無理もないが…
そんな中ながらもヒカリが無事だと言う事を確認するとそのまま脱力した。

「良かった…でも…」

座り込んだ状態で周りを眺める。

「誰が助けてくれたんだろう?」

一瞬アスカとレイを考えたがそれなら彼女達がここにいないのは変である。

「…ま、良いか助かった事は事実なんだし」

わからない事を考えていてもしょうがない…
そう思ったシンジは取りあえずヒカリを起こそうとした。

「ヒカリさん…ヒカリさんっ!」
「うん…シンジさん…あ、あの妖怪達は?」
「誰かが倒してくれたようですよ」
「そう…でも良かった…無事で…」

そう良いながらヒカリはふとある可能性を思いつく。

「アスカさんやレイさんは?ひょっとしたら二人とも…」
「私達がどうしたの?」

そこにひょっこりと現れる二人、手にはそれぞれが取った獲物が握られていた。

「二人とも…良かった襲われなかったのね」
「誰に?」
「さっき妖怪達が襲ってきたのよ…こっちは誰かが助けてくれたようだけど二人の方は襲われなかったよ うね」
「ええ、別に襲われてはないわよねレイ?」
「ええ…獲物を狙ってきた奴らはいたけど…」
「は?」

ヒカリが聞き返す。

「そうそう!人がせっかく取った獲物を狙うもんだから隕石を落として追い払ってやったわよ」
「私は雷撃をくらわせたわ…」
「………」

ヒカリは何も言えなかった。
勿論追い払ったとは言っても「あの世」にである。

「あなた達って…」
「そ、そう言えばアスカ、レイ。トウジとは会わなかったの?」

慌てて話を逸らすシンジ。

「ええ?!まだ帰ってないの?遅いわね〜、野菜取るのに何、時間食ってるのかしら」
「まさか…あの人も…」

ヒカリが不安に震える。

「トウジのいる畑の場所は判りますか?」
「え、ええ…」
「トウジも襲われているかもしれない…アスカ、レイ一緒に来て!」
「しょうがないわね…」
「わかったわ…」
「ヒカリさん!案内を!」
「ええ…こっちよ」

そして四人は畑へと急いだ。



「フフ…トウジ…動きが鈍いな…」

ケンスケがそう言ってトウジの血の付いた手を舐める。

「弱くなったな…いや、俺が強くなりすぎたか?」
「ケンスケ…そこをどけぇ!」
「言ってるだろ?家に行きたかったら俺を倒して行けと…」
「わしは…お前とは戦えん!」
「仲間だったからか?つくづく甘いな…」

そう言ってケンスケは爪を振るう。
その度にトウジに切り傷が増えた。

「最早お前を見ることも苦痛だ…そろそろ一思いに…」
「待ったぁ!」
「誰だ!」

ケンスケが振り向いた先には高い木のてっぺんに登ったアスカの姿があった。
アスカはポーズを決めつつ名乗りを上げた。

「この世の正義を守るため!この世の悪を懲らすため!大地が創り上げし尊き存在!
斉天大聖、悟空=アスカ=ラングレー只今参上!」
「アスカ…そんな事するよりもトウジを助けた方が…」
「駄目よ!名乗り上げはヒーローの基本よ!」
「ヒーローって…」
「あなたは女だから言うんだったらヒロイン…」
「二人とも五月蝿い!」

呆れるシンジと冷静に突っ込むレイに注意すると、

「と、言う訳でそっちに行くわ!覚悟なさい!」

そう言って木から飛び降りる。
見事に着地を決めるとケンスケを指差して、

「さあ!掛かってきなさい雑魚!」
「だ、誰が雑魚だぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

と叫びながら襲いかかってくるケンスケ。
ばきぃ!
そこを如意棒で一閃し、アスカは簡単に叩き伏せた。

「ぐはぁ!」
「ほら雑魚じゃない」
「ば、馬鹿なぁ!あの御方に頂いた力が通用しないだとぉ!?」
「あの御方?」
「そこら辺をじっくり聞きたいですねぇ」
「えっ…ってうわぁ!」

思わず叫ぶアスカ。なぜならいつのまにか観音が後ろに立っていたからだ。

「あ、あの…観音様…今回は私は何も…」

すっかり観音に対しての態度が変わっているアスカ。

「ええ、わかってますよ」

にっこりと笑うと観音は叩き伏せられているケンスケを見て、

「今回はこっちに用があるのですから」

そう言って近付く。

「さて…あなたの言う『あの御方』について教えてもらおうかしら?」
「フン!誰が言うか!」

そう言って顔を背けるケンスケ。

「ええ、言う必要ありませんよ」
「は?!」
「心覗けばすむ事ですから」
「何ぃ!」

慌てるケンスケ。

「さてと…」
「や、止めろ!止めてくれ!」
「フンフン…なるほどね」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

覗き込まれるのが苦しいのかケンスケは苦悶の表情を浮かべる。

「なるほど…わかりました」

そう言うとやおらシンジ達に向き直って、

「どうやらあなた達の使命が増えたようです」
「どうやらって…何勝手に増やしてるのよ!」

たまらずにアスカが言うが観音が呪文を唱えそうになるのを見ると、

「何なりとお申し付けください」

と、あっさりと承諾する。余程あれは辛いらしい。

「ここ最近での人間界の混乱はすべて『あの御方』だと言う事がわかりました」
「それは本当ですか?観音様!」
「ええシンジ…そこであなた方に与える使命は…」

観音はそこで一旦話を切ると、真剣な表情になって後を続けた。

「『あの御方』の封印の手伝いをして下さい」
「倒さなくていいんですか…?」

レイの質問に観音は優しく答える。

「『あの御方』は例え天界中の勢力も集めたところで倒す事は無理でしょう…しかし、封印だけだったら不 可能ではありません」

そして観音はトウジの方を向く。
トウジは慌てて平伏した。

「頭を下げなくても良いですよ…八戒トウジ…」

観音はそう微笑むと立つように促す。

「あなたに頼みたい事があるのです」
「な、何でしょうか?」

緊張のせいかいつもと口調が違っている。

「この者達の旅に付き合って頂けませんか?」
「それは…」
「出来ませんか?」
「わい…いや私は昔数え切れないほどの罪を犯しました。そんな者がそんな大切な使命を手伝って宜しい のですか?」
「構いません…むしろこれを贖罪の一つと考えて結構です」
「あ、ありがとうございます…しかし私には家内が…」
「ヒカリでしたら私どもが保護致します。使命を果たし、天竺に着いた時会えるでしょう」
「ありがとうございます…」

そしてトウジはヒカリの方を向き、

「すまんなヒカリ…わい…色々と黙っとったことがあった」
「薄々気付いてました…」
「そうか…わいが嫌いになったか?」

ヒカリはただ首を横に振る。

「おおきに…ヒカリ…わいはシンジ達との旅に付き合う、少しでもお前にふさわしい男になるため…」
「あなた…」
「天竺で待っとってくれ…絶対にわいはお前を迎えに行く…」
「はい…」
「ヒカリ…」

そしてトウジはヒカリを抱きしめる。

「愛してる…ヒカリ…」
「私も愛しています…あなた…」

暫く抱き合っていたがやがてゆっくりと離れると、

「それでは…観音様、ヒカリを宜しくお願い致します…」
「わかりました…」

そう言って片手にケンスケをぶら下げた観音はヒカリを側に来させる。

「観音様…ケンスケはどうするんで…?」
「仏弟子として修行させます」
「そうですか…」
「それでは…私はここで…」

そうしてヒカリとケンスケを連れた観音は消えるようにいなくなった。
暫く見送っていたトウジだったがシンジ達の方を向くと、

「まあそないな事やさかい、これからよろしゅうな…シンジ、アスカ、レイ」
「こちらこそ宜しく…トウジ」
「足は引っ張んないでよね!」
「…お腹すいた…」



こうして三蔵一行に新たな使命と仲間が出来た。
この先三蔵たちを迎えるのは果たして如何なる出来事だろうか。
その答えを知るものは誰もいない…




あとがき by 関直久さま

作:うわ…今までで一番長いや…この話
由:っていうか前回の話のあとがき込みより話が長いじゃないですか…
作:何でだろ?
由:全然考えないで話を書くからです
作:はっはっはっ…
由:笑って誤魔化さないでください
作:しかしいきなりの急展開になってしまいましたね
由:何か敵出てくるし…これ何なんですか?
作:さあ?
由:さあってあんた…
作:気付いたら何時の間にか出てました
由:ひょっとして…
作:当然この正体はまだ考えてません!
由:堂々と情け無い事を言うなぁ!
どげしぃ!
作:ぐふっ!
由:またか!また正体の分らん敵を作ったんか!
作:す、すびばせん…
由:ったく…
作:ふう…(死ぬかと思った)…それでは今回もやりましょう!「うろ覚え西遊記講座!」
由:また無駄話するんですか?
作:無駄って言うな!ええと…今回は八戒と金蝉についての話です
由:八戒はいいとして…金蝉って誰?
そう言えばなんかいきなりシンジくんが二重人格になってるんですけど…
作:金蝉については本文の通りです。釈迦如来の二番弟子
由:それがどう関係が?
作:金蝉は説法を聞かなかったとして人間界に転生させられるという過去を持つんですが…
由:ひょっとしてその転生先が…
作:ハイ、三蔵です
由:なるほど…
作:ちなみにその転生をしたのは観音様だそうで…
そういう訳で観音様は三蔵は昔から知ってたと言う事になります
由:選ばれる理由があったんですね
作:そういう事。さて次は八戒ですね…メンバーの中で唯一の妻帯者
由:只のギャグキャラとかうっかり八兵衛並の扱いしかされてない気がしますが…
作:実際はそうでもないんですけどね
由:そうなんですか?
作:元々彼は仙薬を飲んで上仙、天界で天の川の管理人たる”天逢元帥”に任ぜられた高位の道士だったんです
由:エリートだったんですね?
作:はい、しかし蟠桃会に出席したのが転落の始まりでして…
酔っ払って月の女神に手をだしたのが運の尽き、下界追放の沙汰を受けてしまったんです。
そしてそのまま人間の腹の中に入って転生という所が豚の中に落ちてしまってああなったと言う訳です
由:やっぱり抜けてますね…
作:後、作中で悟能という名前が出てきましたがこれは前の名前です
由:それじゃあ八戒と言う名前は?
作:これは三蔵がつけたんですよ。
八戒が三蔵に会えるようにと八つの生臭モノを食べない誓いをしていましてね、
その決意を違えないようにと三蔵が八つを戒めるという意味でつけた訳です
由:そんな由来があったんですか…
作:そういう事…っとここら辺で今日は終わりにしましょう
由:次の話は考えているんでしょうね?
作:ハイ、何とか…沙悟浄編を考えています
由:また思い付きで書かないで下さいよ
作:大丈夫!他のもこんなんですから!
由:自信たっぷりに言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
(と、由香里の釘バットの直撃を受けて作者吹っ飛ぶ。そして由香里退場。
後には血染めの赤バットが転がっている中を幕は降りていった…)



素晴らしい作品を送ってくださった関直久さまに皆様も是非感想のメールを。