エヴァ遊記
第四話 三蔵、男により貞操の危機に陥るの事
作 関 直久




旅を続けていく上でシンジも色々と悩む事が色々ある。
それもその彼女達には話せない悩みが…

「ねぇトウジ」
「何や?」
「相談したい事があるんだ」
「おお、わいで良かったらいくらでも聞いたるで」

そしてシンジはトウジが仲間になるまでの旅についての悩みを打ち明けた。
例えば朝起きるとなぜかアスカが側でぴったりと寝ていて凄く驚いた事とか、
レイが習性で水浴びがしたいと河にいきなり入って上がった時に服が透けるので目のやり場に困るとか…
そんな事をトウジに相談したところ、

「それは…惚気話ちゃうんか?」

と返された。

「でも…そういう時に変な気持ちになるんだ」
「変な気持ち?」
「うん…何て言うかとても心臓がドキドキ言って…それにここがなぜか…」

そう言いながらそのある部分を押さえるシンジ。

「シンジ…お前…」
「トウジ、何でこうなるかわかるの?」
「何も知らんのやな…」

トウジは溜め息をつくと、

「まあ健康な男子なら当たり前のことさかい気にせんときや」
「そうなの?」
「ああ…でもそんな事アスカ達に言うとったら張り倒されてたで」
「そうなんだ…トウジに相談して良かったよ」

シンジは一層トウジの仲間入りに感謝するのであった。






さて、こんな事がありながらも順調に旅を進める一行。
ある日、大きな河に面した村にへと辿り着く。

「村なんか見たの久し振りだな…」

シンジが感慨深げに呟く。
それもそのはずシンジが寺から出てから今まで村一つ通らなかったからだ。

「やっと…野宿しなくてすむのね」

いつも野宿に不満を言っていたアスカも感慨の言葉をあげる。

「人里に下りるっちゅうのも久し振りやなぁ」

山の中でヒカリと暮らしていたトウジがどこか嬉しそうに眺める。

「お腹空いた……」

レイだけはどこか外れた事を言っていた。
まぁともかく一行は村の中へと入る。

「あれ…?」

シンジが疑問の声をあげる。
特に変化が目立っていたというわけではない、
ただ…全体的になんか雰囲気が違っていた…

「何で…皆うっとりしているんだろう?」

シンジの言った通り、村人はほとんど夢うつつでぼぉっとしていた。
しかも顔を赤らめて…

「旅の僧の方と見うけられますが…」
「うわっ!」

不意にかけられた声にシンジ達はびっくりした。

「な、何よいきなり声掛けるなんて…びっくりするじゃない!」

アスカが少し不機嫌に言い返す。

「これは申し訳ございません…何分影の薄い村長として親しまれております故…」
「それは親しまれてると言うんやろか…」

トウジのツッコミを村長は意識的に聞き逃した。

「そ、それよりも何か用なのでしょうか?修行中の身でありますが出来るだけ力になりましょう」

シンジがそう言うと村長は感涙を流し、

「おお…ありがとうございます。まずは立ち話もなんでしょうから私の家にて…」
「お茶菓子ぐらいは出すんでしょうね?」
「ア、アスカ…」
「餡子は漉し餡がベストよ…」
「レイまで…」
「はは…お美しいお嬢様たちですな…もちろん、それなりの持て成しはさせて頂きますとも」

そう言って村長は家まで案内した。






村長の家で皆が卓に付くとまずシンジが尋ねた。

「それで…一体この村で何が起こってるのですか?」
「はい…私どもの村ではあの河を使って生活しております。
魚を捕ったり、渡し守をして賃金を貰ったりと…
しかし、ここ最近この河に妖怪が住み着きましてな…」
「妖怪?!」
「左様…そのせいで村は今や危機に瀕しているのです!」

ぐいっと詰め寄る村長に怯えながらシンジはとにかく話を続けさせた。

「で…具体的にはその妖怪は何を…」
「その…実は…」

急に村長は口篭もる。

「何よ?言わないとわかんないじゃない」
「はい…実はその妖怪はなんて言いますか…村人達を口説いてるのです」
「はぁ?!(×3)」

3人(レイは聞いてなくて茶菓子を食っていた)は一斉に怪訝な声をあげた。

「何よそれ?そんなの別に危機でも何でもないじゃない」

アスカが馬鹿馬鹿しいとばかりに呆れた声をあげる。

「まぁ普通だったらそうなのでしょうが…村の様子はお分かりになられましたでしょう?」
「はぁ…皆何て言うかうっとりと夢心地でしたね」
「そうなのですよ!」

ドン!と卓をこぶしで叩く村長、
その後こっそり痛がっているのは見ない振りをした。

「とにかく…その妖怪のせいで村人が何もしないっちゅう事かい」
「そのとおりでございます。お坊様、どうかあなた様の法力であの妖怪を追い払って欲しいのです」

掴みかからんばかりの村長から逃げながらシンジは皆に尋ねた。

「と言う事なんだけど…皆手伝ってくれないかな?」
「わいはかまへんで、困っとるもんを見過ごす事はできへんからな」
「報酬さえ出してもらったら手伝ってもいいわよ」
「御飯……食べたい」
「もちろん追い払ってくれさえすればできる限りの報酬はお支払い致しますとも」
「なら決まり!」

パン!と手を打ってアスカが不敵に笑う。

「このアスカ様に掛かれば変態妖怪なんて一撃よ♪」






「で…何でこうなるの?」

そう呟いたシンジの問いに応える者は居なかった。
シンジは自分の状況を見て、
(死刑執行前の囚人の気持ちってこんな感じかな?)
と、ぼんやりと考えていた。
どうしてかと言うと、シンジは大きい岩の上でぐるぐる巻きになっていたからだ。
さて、何故こんなになったかというと…






「囮作戦ね」

開口一番にアスカはこう言った。

「おとり?」
「そっ。それで妖怪を誘き出してみんなで袋叩きにするのよ」
「で…誰がその囮をやるんや?」

トウジが疑問を投げかける。

「決まってるじゃない…私達がやっても妖怪だって気付かれたら引っかからないからぁ…」
「まさか…僕?!」

シンジは自分を指差してうろたえる。

「あったりまえじゃない、他に誰がいるって言うの?」
「いや…だけど…それは…」
「村人を助けるんでしょ!」
「え…うん」
「その為には多少の犠牲もやむないはずよ!」
「…そうだね。言い出したのは僕だから僕がするべきだ」

シンジは(逃げちゃダメだ…)と思いつつしっかりと顔を前に向けた。

「よろしい!それじゃあ……」

アスカはそう言ったかと思うとあっという間にシンジを縛り上げ、河の近くの岩に置いておいた。

「何も縛らなくてもいいちゃうんか?」

トウジの意見にアスカは、

「いかにも無防備に見せていた方が襲いやすいでしょう?」
「アスカ…お前さんこの展開を喜んどらへんか?」
「まっさかぁ」
「その顔は嘘をついているわね…」

白々しい顔でそっぽを向くアスカにレイが突っ込みを入れる。

「ほ、ほら!ちゃんと見張ってないと!」

アスカはそう言って話を反らした。

「そやな…いつ現れるかわからない…ってもう現れてるやん!」
「ええっ!」

トウジの言葉通り、縛られているシンジの側に一人の少年が立っていた。






「君…こんな所で縛られているなんて…大丈夫かい?」

シンジがふと声のした方向に顔を向けると、そこには銀髪の少年がいた。
しかもタダの少年ではない、
いわゆる”美”少年というやつだ。
もちろん背景にはバラが飛び交ってるし、顔の周りはキラキラと輝いている。
そして無意味に「ふぅ…」と髪を掻き上げるとずずいとシンジの側に寄り、

「今すぐ縄を解いてあげる代わりに僕といい事しないかい?」
「え、ええと…それは遠慮したいんですが…」

何度か寺の中でこういう経験を未遂に終わらせられたシンジはそう言う。

「ふふ…一次的接触を極端に避けるんだね君は…」

そんなこと言いながら両手でシンジの顔を挟む。

「ますますコウイに値するよ」
「そ、それってどういう意味ですか?」
「やだなぁ…したいってこ・と・さ(はあと)」
「い、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

今までの寺での未遂した経験が頭の中を駆けめぐる。






『なぁ…いいだろシンジ…』
『1年も女抱いて無くて我慢できないんだ』
『なぁに…すぐに終わるよ』
『痛くしないからさ…』
『出来ればこの格好で…』
『どうかこの鞭で俺をぶってくれ!』
『この○○を××してくれないか?』






「そこまでよ!」

その時にアスカ達が駆けつけて銀髪の少年を取り囲んだときにはシンジは何か人生を諦めかけていた。






「アンタね!この村の人を次々に手篭めにした変態妖怪は!」

アスカがびしぃっ!と銀髪の美少年を指差す。

「失礼だね君は…ただ僕は愛のある一次的接触をしただけじゃないか…」
「それが変態だって言うのよ!」
「あなたもそうかわらないと思うけど…」

レイがそうアスカに突っ込む。
アスカは憤然として怒鳴った。

「何でよ!」
「この間の晩のあなたの行動を教えましょうか?」
「う…そ、それは…」
「あなたは寝てるシンジ君に近づいて…」
「わー!わー!ストップ!」

慌ててレイの口を抑えるアスカ。

「余計な事は話さないの!」
「饅頭5個くれたら考えるわ…」
「…結構安上がりねアンタ…分かったわよ」

何にせよ一安心して改めて銀髪美少年に向き直るアスカ。
シンジはなんか世の中が信じられなくなってきていた。

「とにかく!私たちと勝負して負けたらここを離れてもらいましょうか!」
「僕が勝ったら?」
「…そいつを好きにしていいわ」
「勝手にそんな話つけないでよ!」

シンジが叫ぶも二人は無視した。

「なら…うちの種族に伝わる『スモー』で勝負だ!」
「…何よそれ?」
「円の中でふんどし一丁の男達がくんずほずれつ汗を流しながら戦う闘技さ!」

キラリと歯を輝かせて嬉しそうに銀髪美少年が言う。

「嫌よ!そんなの!」
「なら僕の不戦勝だね」
「こ、この…」
「まぁ待てやアスカ…ワイがソイツで勝負したるわ」

文句を言い掛けるアスカを押し留めるトウジ。

「トウジ……」

アスカは一瞬言葉を失うと、

「そっちの気もあったのね」
「何でやねん!」

ツッコミを入れながらトウジがずいっと前に出る。

「それにしてもなかなか男らしい戦いやないか!軟派な男かと思っとったけど気に入ったわ!」
「それはどうも…君も中々強そうだね」
「おう!力なら負けヘんで!」

そう言って力こぶを作って見せるトウジ。

「君の名を聞かせてもらえないかな?」
「八戒トウジや!今度はそっちが名乗る番やで!」
「悟浄カヲル…カヲルと呼んでくれると嬉しいよ。特に君には」

そう言ってシンジに微笑みかけるカヲル。
シンジは背筋に寒気を感じた。

「それならはじめようか!」

そういうが早いかカヲルはあっという間に河原に円が描き、ふんどし一丁になる。
トウジも同じくふんどし姿になるとと円の中に入り…
力いっぱいぶつかり戦いは始まった。






「トウジ大丈夫かなぁ」

心配そうに見ているシンジの横には冷静な二人。
まぁレイに限ってはいつもこんなものなのだが…

「あのカヲルとか言った奴の属性は水だからトウジの奴が有利なことは有利だわ」

ポツリとアスカが話し始めた。

「属性?」
「ええ、仏や妖怪にはみんな何かしらの五行の属性がついてるのよ」
「五行って確か火、水、土、木、金の5つだよね」
「そう、そしてそれぞれがそれぞれに強いと言う法則が成り立っているわ。トウジの属性は土のはずだから水属性のカヲルには強いって寸法よ」
「でも何か様子がおかしいわ」
「え?!(×2)」

レイの指摘で慌ててアスカとシンジが見た先には追い詰められかけてきているトウジの姿があった。






「くっ……なんで力が入らんのや」
「ふふ……君は強いけどもう少し注意が必要だね」

カヲルがうっすらと笑いを浮かべながら押していく。

「僕が円を書いた時に水属性の結界も張っておいたのさ、これで僕の力は増される」

そして逃げられないようにがしっと体を掴む。

「土属性の君にも負けやしない」
「くそ…謀りよったな!!」
「人聞きの悪い……戦術と言っておくれよ」

そしてさらに力をこめてトウジを潰しにかかる。






「まずいよ!このままだとトウジが負けちゃうよ!」
「まずいわね…結界が発動している今そう簡単に戦いに割り込めないし……」

アスカはしばらく考えてるとシンジ向かってこう言った。

「けど…まだ手はあるわ」
「ど、どんな?!」
「いい?これにはシンジの力が絶対必要なの!」
「ぼ、僕に出来る事だったら何でもするよ!」
「覚悟は出来てるのね…?」
「う、うん」

シンジに確認を取るとアスカは土俵に向かって声を張り上げる。

「カヲル!今から良いもの見せてあげるわ!こっち見なさい!」

その言葉に反応し、カヲルがチラッとこちらに注意を向けたとき…

アスカは作戦を実行した。

そう!『シンジの服を脱がしてカヲルに隙を見せよう作戦』を……

「う、うわぁぁぁぁぁっ!!」
「我慢しなさい男でしょ!」
「服脱がされたら誰でも叫ぶよ!」
「恥ずかしくないから!これでカヲルの注意がそれるはずよ!」

そう言いながらもしっかりシンジを見ながらアスカは顔を赤らめている…

一方、カヲルの目にふんどし姿のシンジの裸体が映る。
その透き通るような色白の肌、すらっとした足に心奪われそうになる。
しかし、それを血の滲むような忍耐でカヲルは目を逸らす。
愕然とするアスカ。

「な、何ですって?!」
「こ、この勝負に勝てばそんな姿は見放題!僕は未来の幸せを願う!」
「くっ……これまでなの?!」
「いいえ、まだよ…」

レイがずいっと前に出る。

「まだってどうするのよレイ?」
「だから…まだインパクトが足りなかったのよ…」
「へ?!」

と、アスカが聞き返す間も無くレイは作戦を実行した。












『シンジの全裸で隙を作ろう』作戦を…

「き、きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

女みたいな悲鳴を上げるシンジ。
そのまましゃがみ込んで前だけは隠す。
しかし、その姿はばっちり見えたらしくカヲルは鼻血を流しながら倒れていた。
ま、もっともそれはアスカも同様だったのだが……






「ま、少しの犠牲があったけど勝ったわね」

鼻血を拭きながらアスカが踏ん反り返っている。
ちなみにシンジは全裸の体育座りで岩の陰で何か人生について呟いている。

「おまえは何もしとらんやんけ」

トウジが肩で息をしながらツッコミを入れる。

「うるさいわねぇ、終わり良ければあたしのお陰と言う言葉を知らないの?」
「そんな自己中心な言葉知るかい」
「鼻血流しただけの癖に」

トウジとレイのWツッコミにうっと詰まりながらも、

「そうよ!先ずはあのカヲルを縛っておかないと逃げられるわ!」
「もう遅いよ」
「何?!」

ふと3人が振り向くとそこにはシンジを抱えたカヲルが立っていた。

「君たちが馬鹿で助かったよ。僕はこれからシンジ君と二人で愛の生活を築くのさ」
「そんな事はさせないわ!」
「ふふん…できるかな?僕のテリトリーで!!」

そういうが早いかカヲルは河の中に飛び込んでいった。






「わ〜!どないすればええねん!」
「河に入って追うっきゃないでしょうが!」
「ならお前まず行かんかい!」
「冗談!火属性のあたしにどうしろっていうのよ!」
「わいやってさっきのダメージで水中戦は無理や!」
「そうだレイ!」
「おお!元々河の中に住んどった竜やもんなぁ!」
「と!言う訳でレイ!出番よ!」

ぐるっと振り向いたアスカ、トウジの目の前には…












「く〜、く〜………………」
よだれを垂らしつつ幸せそうに寝るレイの姿が。












「寝るなぁぁぁぁぁぁっ!(×2)」
「むにゃ…もう食べられない…」
「ああっ!ベタな寝言までしよるで!」
「もうダメね…レイは一度寝たら自分の意思でしか起きないし…」
「じゃあどないするっちゅうねん」
「……ここら辺の河一帯蒸発させてみる?」
「それやとシンジも死ぬっちゅうねん」
「じゃあどうすんのよ!」
「喧嘩はいけないわよ」
「うるさい!じゃああんたは何かいい手はあるのか……て…」

恐る恐るアスカが振り向いた先には……

「か、観音様!(×2)」

慌ててアスカとトウジが地面にひれ伏す…

「面を上げなさい。今はそんなことをしている場合ではないでしょう?」
「そうだ!シンジ!」

アスカはばっと顔を上げると、

「観音様!どうかシンジを!」
「安心しなさい…彼が目覚めればシンジは助かります…」
「彼?」

観音様は静かに河を見つめていた。






一方こちらは河の中……

「シンジ君…さぁ、これから僕と永遠の愛を誓おう…」

そういいながらシンジを抱えたカヲルが潜っていった。
もちろんシンジには水の中で呼吸ができる術を掛けている。

「君となら僕のすべてを曝け出せそうだよ」
「生憎とそんな趣味はないから遠慮させてもらうぜ」
「…何?!」

いきなりシンジが出した声に驚いたカヲルは、そのままシンジが繰り出した蹴りを避けつつも呆然とした。

「誰だい君は?シンジ君じゃあないようだね」
「俺の名は金蝉…シンジと同一にしてシンジを守護するものだ…」
「なるほど…シンジ君だけじゃなくて君とも愛を確かめられるんだね…」

(聞いちゃあいねぇ…)

そう思った金蝉は、

「錫丈よ!来い!」

その声に反応して河の中に飛び込んできた錫丈を掴んだ金蝉はカヲルに向き直った。

「さて……一勝負といくか?」

そして不敵に笑いながら呟くと金蝉はカヲルに飛び掛った。
そのまま金蝉は錫杖を振りかざしカヲルに殴りかかる。
しかし、カヲルは本来水の中を領域とする水妖…
金蝉の水の中ながら鋭い攻撃は全てかわされてしまう。

「ふふん…意外とやるじゃないかシンジ…おっと今は金蝉君だっけ?」

カヲルが余裕綽々と行った表情で金蝉に微笑む。

「ちっ、どうやらタダの変態じゃあないようだな」

対照的に忌々しげに吐き捨てる金蝉。

「変態とは失礼だね…僕は君に素晴らしい快楽を与えるためにいるんだよ?」
「それが変態だと言ってるんだよ」

『とは言え…流石にこのままじゃやばいな……』

金蝉はそう心の裡で呟きながら念じた。
岸にいる仲間に向かって……






『アスカ…アスカ……』

不意に頭の中に響く声にアスカは驚く。

「な、何?!」
「どないしたんやアスカ?」
「いや、何か急にシンジの声が……」

トウジは心配そうにアスカを見つめる。

「アスカ……幻聴が聞こえてきたら色んな意味でお終いやぞ」
「違うわよ!」

『そんな漫才は言いからこっちの話を聞いてくれ…』

「ま、また聞こえてくる!」
「まさかシンジの生霊かい?!」
「違いますよ」

冷静にツッコミを入れる観音様。

「それは金蝉からの念話のようですね」
「ね、念話?!(×2)」

驚く二人(ちなみにレイはまだ睡眠中)

「ね、念話なんて高度な術を何でシンジが?」
「そ、それに金蝉って誰ですか観音様?」

アスカとトウジの問いに観音様は微笑むと、内緒話のように口に手を当て声を潜める。
二人はしっかり聞こうと聞き耳を立てて観音様の側に寄る。

「それはね……」
「ゴク……(×2)」












「…内緒♪」

ガッタ――――――ンッ!

こける二人。

「そ、それは無いんやないですか観音様……ここまで引っ張っとって」
「そうよそうよ!」
「私が言う事ではないですし…旅を続ければわかります」

そこで観音様は一息ついて、

「それに……そんな事している場合じゃないでしょ?」

5秒経過…

「……あ」
『やっと思い出してくれたか……』

なにか諦めかけた感じの念話がアスカの脳裏に響く。

「あ、ごめんごめん…で、どうして欲しいのシンジ?」
『今は金蝉だ……まぁどうでもいいけど河に雷落とせないか?』
「雷?それだったらレイが適任なんだけど……寝てるわよ」
『道理でそっちに念話が届かないと思った……』

何か気の抜けた声になる金蝉。

「なるほど…雷落としてカヲルを感電死させようとゆうわけね?」
『殺すまでしなくていいって……』
「わかってるわよ…それじゃあ……あ!」

とたんに名案を思いついたアスカ。

「別の方法ならできるわ!」
『別の方法?』
「ええ、待っててね……」
『な、何か嫌な予感がするんだが……』

<隕石………>

『や、やっぱりそうか?!』

慌てて金蝉が「止めろ」という前にアスカの術が完成した。

<……招来!!>

空の彼方から燃え滾る隕石が降ってくる。
それはアスカの計算どおりに河から突き出ている巨大な岩に激突した。

「ふっ……これぞ必殺がっちん捕縛!」

アスカがなんか誇らしげに言って「よっしゃあっ!」と言いたげにガッツポーズをする。

がっちん捕縛……『がっちん漁法』をアスカが改良。ちなみにがっちん漁法とは河の中にある岩などを叩いてその衝撃で魚を獲るやり方である。ちなみに外道の漁法なので真似をしてはいけない。

そして一同の目の前の河にはたくさんの魚と一緒に浮かぶカヲルと金蝉の姿があった……






シンジが目を覚ましてすぐに見えたのはぐるぐる巻きに縛られているカヲルであった。
その周りを一同が囲んでいる。

「あれ…?僕はカヲル君に水の中に連れ去られたんじゃあ……?」
「あ、シンジ気が付いた?」

アスカが心配そうにシンジの顔を覗き込む。

「アスカ……そうか、アスカが助けてくれたんだ…ありがとう」

そう言って微笑むシンジに顔を赤らめながらアスカは、

「べ、別にたいした事じゃないわよ」
「そやそや、むしろお前殺しかけとったしやな」

トウジが後ろの方でにやっと笑いながらツッコム。

「う、うるさいわね!ちょっと加減を誤っただけよ!」
「ちょっと……あれが?」

何時の間にか起きてきたレイが河の方を指差す。
そこには水面を覆い尽くすように魚とかが浮かんでいる。

「ぐっ……ま、まぁ過去を振り返るより未来を見据えるべきよね」
「少しは気にせいや」
「そんな事よりこの者をどうするかですが……」

観音様が遮る様に話題を変える。

「どうするって…こいつのせいで村が壊滅的な状態になってるわけでしょ?抹殺すべきね」
「それは…いくらなんでも……」
「そや、ケンスケみたいに観音様に預けた方がええんちゃうか?」
「さっきから気になってたんだけど……」

カヲルが口を開く。

「どうして村の人を口説いたぐらいでこんな目に遭うんだい?」
「は?何言ってんのよ。そのせいで村人全員動けないじゃない」

アスカが何を言うのかといった表情でカヲルを睨む。

「全員?僕が仲良くなったのは美少年だけさ…そう、シンジ君みたいな」

カヲルの向ける熱い眼差しを見ないようにするシンジ。

「へ?それじゃあ…何で村の人達が……?」

「ふ……ばれてはしょうがありませんな……」

「村長?!」

一同が目を向けた先には影が薄い事で有名な村長がいた。
しかし、そこから発せられる気は人間のものではなかった。

「何だ君は前に僕の縄張り争いに負けた妖怪じゃないか」

カヲルが呆れたような声を出す。

「そうだ!貴様に住処を奪われた恨みを返す為にこの村の村長と入れ替わり!村の奴等から生気を奪い力を溜めて仕返ししようと思ったが自信がないので旅の奴等に頼んで弱らせてあわよくば合い討ちを狙っていたのだ!」
「まぁ長々と情け無いこと言いよるのう」

トウジも呆れ果てる。

「うるさい!こうなっては我が力にておまえ等全員みなごろ……」

と言い終わらないうちに……

ズガシャアッ!

錫杖が妖怪の頭を貫いた。

「けっ!てめぇのせいでとんでもない目に遭ったじゃねぇか…」

と、錫杖を投げつけたシンジ…いや金蝉が吐き捨てるように呟いた。

「シンジ?」

また心配そうに覗き込むアスカを手で制すると、

「今は金蝉だって…それよりアスカ…聞いてくれるか?」

突然の申し出によく判らないままもアスカは頷いた。

「俺の存在はシンジには絶対言わないでくれないか?」
「え?何それ?」
「訳は…いつか話す…それまでどうか……」

神妙な金蝉の顔に何か感じ取ったのだろう。

「良いわよ、別にそのくらい」

わざとらしく素っ気無い素振りを取って、アスカは何故か胸を張る。

「このアスカ様にかかればそんな秘密なんて永久に迷宮入り事件にさせるくらい訳無いわ!」
「事件にしてどないすんねん」

トウジのツッコミに振り帰りながらアスカは怒鳴る。

「うるさいわね!良い?!あんた等も…喋ったら命が無いものと思いなさいよ!」
「喋らへんわい」
「あなたと違って口は固いわ」
「さっき脅迫しておいてよくそんな事言えるわね!」

話に割り込んできたレイに怒鳴るとアスカはくるりと金蝉に向き直り。

「まぁ…本当にその約束は守ってあげるわよ…」
「ああ、ありがとう…」

そう言って金蝉は目を閉じて……

「ん……あれ?僕また眠っていたのかな?」

アスカは少し戸惑いつつも約束を守る為に口を開く。

「え、ええそうよ。アンタ大分疲れてるんじゃない?」
「うん、そんな感じがする。今日は色々あったからね……」
「ところでこの者の処分ですが……」

いきなり口を出してくる観音様。
どうやら何か無視された感じになっていたのが我慢できなかったようだ。

「あ、観音様!」

シンジの方も今気付いたらしく慌てて平伏する。

「顔を上げて……で、この悟浄カヲルの件ですが…」

そこで咳払いを一つして、一同を見渡して続きを告げた。

「あなた達の旅の一員として加える事にします」
「んなっ……何でですか?!」

アスカが慌てて抗議を申し立てる。

「こいつはシンジを襲ったんですよ?!しかも下手したら……」
「アスカ?口答えする気?」
「いいえ、全くとんでもないですハイ」

観音様の一睨みで引き下がるアスカ。

「ま、確かに今回の件での彼の性格がシンジにとって危険であるのは判りました。しかし、だからこそこの旅にて更正させるのが良いと私は判断したのです」

それにお約束だしという観音様の呟きは誰にも聞かれる事はなかった。

「それでは…これからも苦難があなた達を待ち構えている事でしょう。しかし、それに挫けず使命を果たす事を私は信じています…頑張ってくださいね」

そう言って観音様は虚空に消えていった。






「いい?!カヲル!シンジをまた襲ったら許さないからね!」
「わかってるよ…僕もわざわざ君を敵に回してまでシンジ君の貞操を狙おうとは思わないから…2番目で我慢を…」
「わかってないじゃない!」
「ま、道中の連れが出来るのはええことや」
「……漉し餡のお饅頭…」
「冬月大僧正…待っていて下さい…三蔵は…役目を必ず果たします」






こうして新たな仲間を加えた一行は天竺への旅を続ける…
次に現れるのは敵かそれとも……?





あとがき by 関直久さま

関:と、言う訳で久し振りのエヴァ遊記第4話いかがだったでしょうか?!
由:ほんっきで完成するまでに時間がかかったわね…
関:まぁ、その間に色々別の小説書いてたからもあるんですが……
由:今回からはSS掲示板で連載していた文をまとめた形になるのよね?
関:そう、少しずつSS掲示板に更新して書き上げたわけですが…
由:まとめてみると前回よりさらに長くなってますねぇ
関:そうなんだよなぁ、まさかここまで長くなるとは思わなかった
由:このまま言ったら最終回ぐらいになったら文庫一冊分ぐらいに……
関:出来るかぁっ!!
由:ま、アンタにそんな根性ないのはわかってますよ…
関:やな理解のされ方……
由:で、今回もするんですか?
関:当たり前だろ?勉強になるって言ってる人もいるんだから
由:雑学にもなりゃしないのに…
関:いいから行くぞ!「うろ覚え西遊記講座!」
由:で、今回の話題は?
関:沙悟浄と五行についてですね
由:沙悟浄……孫悟空や猪八戒と比べるとあまり目立たないように見えますよね
関:そうですね…まぁ二人の個性が強すぎるってこともあるんですが…
由:これも元天界にいた人なんですか?
関:そう、霊霄殿で捲簾大将として天帝に仕えていたのですが蟠桃会にて玻璃の杯を割ってしまった事で下界に追放されたわけです
由:八戒とは原因がまるっきし違いますね…
関:まぁ、割ったぐらいで下界追放はきつい気はしますが…
由:で、気になっていたんですが中国でも河童っていたんですか?
関:もちろん違いますよ…本当は水怪なんですが日本の子供に馴染み易いように河童としたんじゃないでしょうか?
由:ほう…で、実際どんな姿?
関:中背痩身は青いようで黒くもあり、裂けた口には鋭い牙。髪は赤くして、眼光は闇を貫く…との事です
由:めちゃめちゃ不気味なんですが…
関:まぁモデルはヨウスコウイルカやヨウスコウワニらしいのでこんなもんでしょ
由:こんなのでカヲルなんて…ファンに怒られませんか?
関:まぁあくまで役柄だしね…ま、もっともその赤い髪は仲間になるときに剃ったらしいですが
由:そしてその外見から三蔵に「沙和尚」と呼ばれるようになったんですよね
関:そう、ちなみの悟空は「孫行者」…「猪八戒」も三蔵がつけた名前、本当は猪悟能だもんね
由:ん?…こうして名前を見ると…
関:そう、孫『悟』空、猪『悟』能、沙『悟』浄、と全員の名前に『悟』の文字が入ってるわけです
由:偶然?
関:猪悟能と沙悟浄は観音様がつけたのですが…悟空の時には既にこの名前で『悟』繋がりでめでたいとしています
由:悟…つまり悟りを開いたものと掛けているわけでしょうか?
関:むしろ開こうと誓った者って意味でしょう…三蔵のお供となるにはぴったりの名前な訳です
由:次に五行ですが……
関:本文中でも言いましたが実際の西遊記のキャラも何かしらの属性はあるんです
由:へえ?
関:悟空は「金」八戒は「木」悟浄は「土」だったそうです
由:この小説とは違いますね…
関:そうですね…僕の方はPSソフト「西遊記」から使わせてもらいましたが…
由:やっぱりアスカ悟空は「火」のイメージですよね
関:そう、ちなみにこの小説ではレイは「木」トウジは「土」カヲルは「水」そして金蝉は「金」としています
由:わっかりやすう
関:その方が術のイメージも出しやすいからね……
由:さて……一応メンバーは揃ったわけですが…これから先の展開は?
関:どうしましょうかね?
由:コラ
関:いや、他のエヴァメンバーを出す話の予定はあるんですがそれをどうしようかとか…
由:問題のお釈迦様もいつ出すんですか?
関:出来れば早い話にしたいですねぇ…
由:じゃあまぁ、早く次を書き上げられるように私が喝を入れてお別れといたします
関:さようなら……って何でじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
(と、直久が騒ぎ立てる前に由香里の手が首を掴む。そのままかるく捻り上げると鈍い音と共に直久は崩れ落ちる。そのまま直久をアイアンメイデンに入れるとゆっくりと蓋を閉めはじめる…閉まりきる前に何か声が聞こえたようだが気にせずに幕は降りていった……)



LIEの蛇足的コメント

関直久さまより投稿作品を拝領致しました。
ふはぁ、久し振りのエヴァ遊記ですねぇ…。
中々の文量な上、SS掲示板からのサルヴェージとあって骨が折れましたよ。
ふっ、いつか目に物見せてやるぞ、関直久<おひ
って、じょ、冗談ですよ…本気にしないで下さいね。(汗)

しかし、もしかしたらパラグラフの繋ぎ方とか間違ってたりして…。
ので、おかしな所があったとすれば、それは私の所為でしょう…恐らく。
見つけたら教えてね。(笑)

では、コメントにも似たものを…。

謎『あはは、呼んだ?』

いや、呼んでませんけど…。
だからもういい加減にして下さいってば。

謎『良いじゃない…これだけがこのページにおける私の存在理由なんだから』

……ふっ。

謎『何?』

…いえ、別に。
まぁ、良いです。じゃあ、早速寸評などお願い出来ますかね?

謎『ん?あぁ、これね…むぅ、あんまり好きなシリーズじゃないなぁ…ちっとも私が出てこないし』

…それはもういいです。
出来ればもっと客観的かつ冷静な評価を。

謎『読み読み…』

…金蝉さんかっこいいですね…。

謎『──ホ、ホモ…』

カヲル君もシナリオ通りに…この配役はイメージ通りですよね。
無論、ケンスケでも良かったんですが…ヤツは消えたし。(笑)

謎『……綾波さんって』

綾波さん…寝てるだけ。(笑)

謎『…うぅぅぅ…可哀想にぃ』

いや全く…って、可哀想?
泣くような話でしたか?

謎『そ、村長さんがぁ…(T-T)』

って、やられ役の妖怪ですか?そりゃ、憐れではありますが、しかし…。

謎『じゃなくて本物の!』

本物?
あぁ、入れ替わられた方の…。

謎『折角観音様まで降臨されたのに救われないこと極まりないじゃない…うぅ』

………。

謎『村は赤毛ザルとナルシスホモの所為で壊滅状態、村人の労働意欲もなくて復興もほぼ無理…。もし、生きてたって、当事者が去った所為で責任の所在が有耶無耶になって、結局、その身代わりにされて支持率低下で罷免なのよ。誰も村八分を恐れて頼る親類もなく、一人廃屋で孤独死するのね…うぅ』

…そ、そうですかね…。

謎『そうよ。一発キャラに冷たいのよ、この話…』

うぅむ…。ギリギリの発言ですね。(汗)
しかし、暖かい作品もそうないと思いますが。

謎『むぅ…後、シンジが可哀想』

こんなもんでしょう、シンジ君は。

謎『いつも酷い目に遭って、美味しい所は全部金蝉が持ってっちゃうし』

きっと彼にも何か誇れることが…。

謎『あぁっ、私を今すぐ出して!関さん!!私がシンジを救うんだからぁ』

キャストは埋まってますが…。

謎『…ふ、ふふふ…ふふふふ…余ってるなら、減らせばいいのよ…減らせば…』

あの〜…その妙に研ぎ澄まされたナイフは…。

謎『ふふふ、ふふふ、ふふふ』

…………。(汗)



ちなみに今回の私のお気に入りのセリフはこれです。

『だからこそこの旅にて更正させるのが良いと私は判断したのです』
だからこそなんすか…観音様。(笑)


素晴らしい作品を送ってくださった関直久さまに皆様も是非感想のメールを。