簡素な部屋だった。 正面右に頑丈そうな造りのベッドが一台、それに対する壁際に造りつけのクローゼットがある。部屋の調度はそれだけだった。 いわゆる軍の宿舎と大した違いがあるわけではない。軍隊ほど厳密な階級の存在しない聖騎士団でも居住空間の大小は実績が左右する。 新入団員はまず大部屋、相部屋からスタートすることを考えれば、破格の扱いであったかもしれない。部屋の入り口に立った男は関心の薄いまなざしを室内に向けた。 表情の半分近くを覆い隠す無骨なヘッドギアが人目を引くが、いっそ滑稽なほど頑丈なプロテクターが何の違和感もなく見える彫りの深い、男臭い顔立ちをしている。 精悍というよりもどこか剣呑な、蹲った猛獣のような男だった。 ヘッドギアのベルトの上を通して無造作に落としている 束ねた髪は日に焼け、褪せた黒い色をしている。乾いた髪の間から色違いの瞳がやはり剣呑な光を湛えて光っていた。 その底の知れない色彩が男の印象をさらに不穏なものにしていた。 彼は担いでいた布袋を床に落とすと、もう一方の手に抱えていた布の小山をベッドに投げた。 濃い赤に縁取られた白い衣は聖騎士団の騎士のみが着用を許される法衣に他ならない。その制服は男の雰囲気とはそぐわないものであった。 男にも自覚があるらしく、袖を通してみる素振りもない。 手持ち無沙汰になったのか、男は色褪せ、擦り切れたジーンズの尻ポケットから潰れた煙草を引っ張り出して来た。咥えたそれに同じように引っ張り出してきたライターで火を点ける。 カチリと硬い音がした。使い込まれている物の鈍い輝きを持ったライターを、掌の内で弄びながら男は煙を吸い込んだ。 「ここは禁煙ですよ」 細く若い声がかけられた。 男は驚いた様子もなくゆっくりと振り返った。 年の頃は十・・・四、五といった所だろうか。まだあどけなさの残る少年が真白な聖騎士の衣服を纏って立っている。 襟の高い上着は身につけておらず、そのため細いラインの肩が剥き出しに見えて体全体が華奢なのが良く分かる。まだ成長途上の子供に他ならなかった。 「あなたが新規入団のソル・バッドガイですね?」 白い歯を覗かせて、少年は綺麗な笑みを浮かべた。 「はじめまして、わたしは第一大隊副隊長のカイ・キスクです」 男は応えず、煙草を燻らせている。少年は秀麗な眉をひそめたが、気を取り直して言葉を続けた。 「出撃の際、あなたにはわたしと組んで頂く事になりますのでご挨拶に参りました。どうぞよろしくお願い致します」 丁寧な挨拶をして会釈した少年に男は低く言った。 「……好きにしろ」 「……は?」 顔を上げたカイは怪訝そうに相手を見上げた。 「そっちはそっちで勝手にすればいい。俺は俺のやり方でやる」 口出しはするな。 そう告げた男にカイはあからさまにムッとした顔になった。 「上官の指示には従って頂かないと困ります!」 大隊副隊長と名乗った少年は語気も荒く言い放った。しかし男に動じた様子はなく、 「……足手まといはともかく、邪魔はするな」 冷ややかな声を返す。 「あ、足手まとい!?……邪魔!?」 カイの白い頬が鮮やかに朱を帯びた。 「その発言……取り消して下さい」 輝く宝石のような青緑色の瞳が怒りを湛えて男を睨みつける。 「わたしは後ろ盾の威光で副隊長になったわけではありません!」 男の表情がかすかに動いた。 「……後ろ盾?」 問い返すような呟きに少年はハッと我に返った様子で口元を抑えた。顔が紅潮しているのは、今度は怒りの為ではなく羞恥の為だった。 「声を荒げてしまいました・……すみません」 「……そうかお前が爺さんの言っていた……」 少年の謝罪に男の呟きが重なった。 「爺さん?……!まさかクリフ団長の事ですか?!」 ぎょっとしたように問い返すカイに、男は答えなかった。 「団長が……何か仰ったんですか?」 かすかに男は笑った。 「そうか……」 『なるほど……確かに『雷』だ』 いささか楽しげな、しかし口元だけの男の笑みに、カイは気圧されたように口を噤んだ。 「……とにかく、前言は撤回して頂きますからね」 気を取り直してそう告げる。男が咥えたままの煙草に非難のまなざしを向け、更に何か言いたげに口元を歪めるが平然と無視される。 「……!」 少年の手が素早く動いた。細い指が男の口から煙草を奪い取る。初めて虚を突かれたように表情を動かした男に、カイは小気味よさそうに微笑んだ。 「禁煙だと聞こえなかったんですか?没収しますので手持ちの煙草を出して下さい」 突き出された手と少年の顔を見比べ、男はゆっくりとその言葉に従った。 「……煙草は健康に悪影響を与えるのですよ?」 知らないわけでもないでしょうに。 「あぁ、あと……明日に模擬試合がありますから、そこであなたの技量を見せて頂きます」 あんな傲慢な言葉を吐くからにはさぞ自信があるのだろうと言外に言う。 「わたしと当たるまで勝ち抜いてくださいね」 楽しみにしていますから、とこちらも聞き様によっては傲慢ともとれる科白を吐いて踵を返す。 「……ガキだな……」 幸いにして男の呟きは聞こえなかったようだった。 ひときわ大きなざわめきが走った。続いて苦鳴のうめき声があがる。 無様に石畳に転がった男は打たれた肩を押さえてのたうちまわっている。見物していた周囲から驚嘆の声が次々に上がった。 「す、すげぇ……あの新入り、さっきから全部一撃で相手を沈めてるぜ」 「何者なんだ?」 「……凄腕の賞金稼ぎだったとか……」 「団長直々の誘いで入ったって話だぞ」 それらの声高なやりとりが聞こえないわけではないだろうに、大振りの剣を持った男はただ舌打ちして区切られた区画を出た。 誰も近寄ろうとはしなかった。男の群を抜いた強さに恐れを為したとも言える。 第一男の纏う雰囲気は友好的とは対極に位置するもので、よほどの馬鹿か怖いもの知らずでなければ声もかけられたものではなかった。 古代の建物を模した石組みの闘技室はかなり広い造りになっているのだが、今はざわめきに満ちていた。 模擬試合であるから騎士達が手にしている武器に刃はなく、法具としての力もないただの模造品である。 しかし先ほど男が見せたように圧倒的な力で以ってすれば十分凶器となり得る物でもあった。自然騎士達の態度も真剣になる。室内の空気は盛り上がる一方だった。 ソルの相手であった男は結局自力では立ち上がれず、救護係に支えられて医務室送りとなった。それにはもう目もくれようとはせず、ソルは壁の一角に背を預けて次の呼び出しを待った。 『くだらねぇ』 正直な所、ソルにはこうした試合ごっこに参加するつもりは毛頭なかった。 しかし早朝から部屋を訪れた昨日の『坊や』があれこれ煩く騒ぎ立てた挙句、ここまで彼を引っ張り出して来たのだ。 それほど面倒ならわざと負けてさっさと切り上げても良いようなものだったが、いざ立ち会ってみれば彼にして見ればわざと負けるのも馬鹿馬鹿しい程度の相手しかおらず、不本意ながら勝ち進んでいるのである。 「本気を出すようにと言ったはずですよ」 綺麗な響きの声がソルの聴覚を刺激した。何ものにも関心を示すようには見えない男がふと顔を上げ、声の方向を見た。 人の輪の中に件の坊やの姿がある。細身の剣を手にし、どうやら勝ったらしいが不本意そうだった。 「本気を出せって言われてもなぁ」 誰かの囁き声が聞こえた。 「あのガキのバックは団長だぜ?下手に怪我でもさせたら困るぜ」 「だよな、本気なんて出せるかよ。だのに子供がいい気になってよ……」 「天才だかなんだか、取り巻き連中に祭り上げられて……」 それらの囁きは坊やの耳にも届いているようだった。あるいは常に言われ慣れているのだろうか。表情を硬くして立ち尽くす少年は何かを堪えるような表情で俯いていた。 「……次の相手は『坊や』か」 背後からの声に慌てて振り向く。そこに立つ男を認めて、少年の顔から憂いの影が飛んだ。 「坊やじゃありません!!」 全身から怒気を漲らせて怒鳴ったカイに、男はかすかに笑う。 「……『お嬢ちゃん』か?」 「!!!!」 造作の整った顔を怒りに紅潮させて、カイは男を睨んだ。 「……その発言、取消して頂きますからね」 試合場が明け渡され、審判の声が彼らを呼ぶ。カイは待ちかねたというように小走りに、ソルはやはり面倒そうに足を運び、試合場として区切られた場に立った。 空気が静まる。 カイの纏う雰囲気が変じる。先ほどの試合後に見せていたような憂いも、ソルにからかわれて見せた激昂もなりをひそめる。 そこにいたのは一人の戦う者、だった。 「…………」 ソルの目が細められる。彼は他の誰よりもカイの変化を的確に掴んだ。幾分愉しむ色が瞳を掠める。 始めの号令がかかる。先に動いたのはカイのほうだった。 鋭い踏み込み。相手の間合いに自ら飛び込み、懐を抉るような攻撃は相応の敏捷さがなければ成立しない。カイのスピードと攻撃の鋭さは大抵の相手に反応する暇さえ与えない。 だが、ソルはあっさりとその一撃を跳ね除けて見せた。構えるわけでもなく、ただ持っていた剣で弾き返す。 カイの表情に驚きが走る。 『動きを見切られている……?』 かつてなかったことに少年は動揺し、しかしすぐに冷静さを取り戻した。弾かれると同時に後方へ跳び退く。 今度はソルの方が剣を振るった。無造作に見える一振りをカイは避けたが、ぐらりと重心が傾いだのを知覚する。 『剣圧……?当たってはいないのに、なんて威力だ』 愕然と、その事実を認める。それはカイが持ち合わせていない力だ。 カイの表情が一段と引き締まった。碧を帯びた蒼い瞳が生命力に溢れた輝きを満たして男を見据える。 「……っ!」 見物していた騎士達はざわめいていた。彼らにもこの試合が尋常ではないレベルであると知れるのだ。 どちらも今までの相手を一撃かそれに等しい短時間で打ち倒してきた。しかし今度の試合では違うらしい。 やはり先に動いたのはカイだった。 ざわめきが大きくなる。カイのスピードは先程までのそれとは段違いだった。目で追うのがやっとの攻撃が次々に繰り出される。 ざわめきがどよめきに変わる。ソルはその剃刀のような攻撃のことごとくをあっさりと撥ね退けた。 カイの顔に動揺はなかった。全てを受け止められるのは予測していたようだった。その間にやや距離 を置き、片足を引く。見る者が見れば、その場の空間のエネルギーが増大して行く様を捉えただろう。 「……」 また、ソルはかすかに笑った。そして無造作に足を踏み出した。 激しい音が鳴り響く。打ち鳴らされた剣は火花を散らし、空気を引き裂く耳障りな音が続く。 『重い……!』 カイはともすれば突き転がされかねない強い衝撃を巧みな重心移動でいなす。じっとりと汗をかいているのが分かった。自分の攻撃を相手は余裕で弾き返すが、自分は正面から受け止めることさえ出来ない。 その事実が何を意味しているか、分からない彼でもなかった。 勝気な表情が覗く。 今の自分では及ぶべくもないと分かるだけの力はある。ただ負けを認めるのは癪だ。せめて一矢報いたい。この男の余裕綽々たる態度を崩してやりたい。 半分以上、そんな意地で以ってカイは剣を振るい続ける。 少年は知るべくもないが、そうして何合も剣を合わせること自体が稀有なのだ。男の口元に浮かぶ冷笑に似たかすかな笑みは、侮りでも嘲りでもなくむしろ賞賛に近いものなのだと誰が看破しただろうか。 見物人の誰もが息を呑んで見守る中、激しい剣戟は続いた。 「……!」 ついにカイは重みを受け流し損ねた。じゃりりと足元で砂が鳴く。大きく傾いだ体は、次の攻撃をかわせそうにはなかった。 「くっ……!」 カイの上体が傾ぐ。その瞬間、ソルの方もまた上体を傾けた。それが何の為か、カイは一瞬理解出来ず反応が遅れる。 地を蹴る音。それにはっとしてカイは思い切ってバランスを取ろうとしていた努力を放棄した。大きく崩れた体のすぐ脇を、ソルの蹴り上げた足先が掠めた。 かろうじてソルが繰り出した不意打ちの蹴りをかわしたのだ。正統的な試合の常道に慣れたカイにはその攻撃は意表を突いたものであった。 かわせたのは偶然と生来の反射によるものだ。 一息つく隙もない。 体を沈ませたカイは、背後に異変を感じた。 普通に考えれば、蹴りをかわされたソルの体勢も崩れてしまっているだろう。こちらも条件は同じだ。ひとまず距離を取るべく後ろへ跳ぼうとしていた動きを止める。 カイの動きを止めたのは音だった。じゃりりと砂を噛む音。耳障りなかすかな音はソルの足元からしていた。 それはそこに強い力と摩擦が加わっていると教えている。片足を蹴り上げた不自然な体勢で、軸足に力がこめられている。 『後ろ……!』 どういう状況か推測したわけではない。それこそ反射的にカイは崩れていた体勢をさらに崩した。 重心を後方へ移し、支えるもののない中空へ身を投げ出す恐怖感もあったが思い切って力を加える。 倒れこむより先に床に尻餅をついた。それより先に眼前を蹴り戻されてきた爪先が通り過ぎた。 少しでも行動が遅れていたら背中か、あるいは後頭部に当たっていたに違いない蹴りは空気を鳴らしさえしてカイの前を通り過ぎた。 カイの背中に冷たいものが走る。 彼は分かった。自分は完全にはその蹴りをかわせてはいなかった。両者の軌跡はほんの少し重なっていたはずで、それが当たらなかったのは一重に爪先の方がほんの少しながら引かれたせいだ。 『わざと足を引いた……』 カイにはそれが何故なのかは理解出来なかった。しかし事実だけは分かる。自分は避けきれなかった。 そして今度こそ完全に自分の動きは止まってしまった。無様に床に座り込んでしまった以上、次の攻撃に対処出来るはずがない。 自分の負けだ。誰よりも早く彼はそう悟った。 ぜぇぜぇと息を乱しながら相手を見上げる。男は追撃をする素振りを見せなかった。彼もまた勝負がついたことを知っているのだ。 カイは気が付いた。ソルは息一つ乱してはいない。その上わざと攻撃の手を緩めたのだ。 カッと血が上るのが分かった。手加減した、いや、この男は自分との立会いに手を抜いたのだ! そう思って悔しげに唇を噛んだ少年を、男は端然と見下ろす。その顔に愉しげな色が揺れたが、気がついた者はいなかった。 彼は本気を出すつもりなど毛頭なかった。ただ、あの神器を使えるという坊やがどこまでやれるのかという点に関しては興味があった。 礼儀正しい騎士剣法しか知らなさそうな坊やだからわざと傭兵流の喧嘩剣法をふっかけてみた。それであっさりやられるなら容赦なく頭を蹴り上げてやるつもりで。 しかし坊やはかわしてみせた。ぎりぎりではあったが崩れた体勢からかわしてのけた。それが意外でもう一段階踏み込んでみた。 恐らく彼以外はなし得ないような無茶な体勢からの蹴り戻しを繰り出す。今度は当てるつもりはなかった。上から彼の重みとスピードを乗せられた蹴りを無防備に喰らったら、 坊やの骨など砕けるのは明らかだった。下手をすれば死んでしまう。折角の神器の使い手をそんな事で損なうのは彼にとっても得策ではない。 ぎりぎりの所で引くつもりで踵を落とした。 坊やはそれにも反応した。結果的にそれは少しばかり及ばなかったにしろ。 『なかなかやるじゃねェか……』 それはこの男にして最上級の賛辞に等しい評価だったかもしれない。 周囲の見物人達の目にはカイが蹴りをかわし損ねて尻餅をついたようにしか見えなかったとしても、攻撃を繰り出していた彼はきちんと理解した。 そして少年もまたそれを理解し、悔しげな光を瞳に宿して睨んできた。 彼の攻撃をしのいだことよりも、その勝気な目に男は評価を与えたのかも知れない。 負けてこんな目をする者は必ず強くなる、と。 「……卑怯だ!」 静まり返った試合場に声が響き渡った。 カイは弾かれたように、ソルはゆっくりと、声の主の方を見やる。 年若い男の顔に、カイは見覚えがあった。同じように見知った顔が数人、口々にソルの行動を批判し始めた。 曰く、騎士として相応しい戦い方ではない。正々堂々と礼節をもってしたカイに対して恥ずかしくはないのか。こんな形での「勝利」など認めない。 「や、やめてください」 うろたえたのはカイの方で、いまだ座り込んだままの彼を案じて駆け寄って来た青年達を諭す。 「わたしの未熟さ故の結果なのです。それをそのように言うのは止めてください」 『どんな攻撃でもまともには喰らわない自信があったのに』 ソルには圧倒的な余裕があった。攻撃の手を緩めるほどの。対して自分はどうか。 「……わたしの完敗です……」 ソルは平然としている。勝ちを認めないというのなら、敗者は引き上げても良いということだ。 罵られたことに対して不快感を表するわけでもなく踵を返す。 それで気が済んだのか、ソルを批判していた青年達はカイを囲むと慰めるように言った。 「しかし、封雷剣を手にした貴方様にかなう者はいませんよ」 「……え?」 カイは何を言われたのか、理解出来なかったという視線を上げた。 「成人の折には拝領されるのでしょう?」 「あの雷の神器を」 「封雷剣を扱えるのは貴方様しかおられない」 熱心な言葉にカイは戸惑いを隠せない。神器の拝領はまだ内々の事で決定したわけではない。それを決まった事のように称えられるのにも戸惑ったし、困惑もした。 「あの剣を手にされた貴方はまさに最強です」 カイは目を伏せた。 『……確かに封雷剣の力をもってすれば勝てるかも知れない……』 あの剣には、神器にはそれだけのパワーがある。しかし――。 『けれどもし彼もまた同等の力を持つ武器を扱えたなら……?』 神器『封雷剣』と同等の力を持つ剣――ともに宝物庫に眠る神器『封炎剣』 かつて一度だけ目にしたことのある、結界の中の剣の姿を思い描く。 振り向きも立ち止まりもせずに去って行く背中を見つめて、カイはぶるりと身を震わせた。 『この男もまた……神器を扱えたとしたら……』 その仮定はひどく現実味を帯びていた。そしてカイは思う。 『見てみたい……』 自分以外の誰かが、自分には出来ないような方法で神器を操る様を見てみたい。この男ならそれをかなえてくれそうな気がした。 それが自分の決定的な敗北を意味しているとしても。 『いつかは……勝てる時が来るのだろうか』 打ちのめされた思いで、カイはただ遠ざかる背中を見送っていた。 >>>>>戻る |