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◇星に願いを◇
 玄関先に置かれた大きな笹を前にしてカイ・キスクは思案中だった。
 今日は7月7日。失われた国「ニホン」ではこの日を「タナバタ」と呼んで祝っていたという話である。 目の前の笹は、その話を小耳に挟んだチップが騒いだために闇慈が手に入れてきてくれたものだ。 それが何故カイの元にあるのかといえば、単に闇慈が持ってきた量がものすごかったための「おすそわけ」である。
「ニホンの伝統『オチュウゲン』だっ!」
とチップが言っていたとかいないとか。それはともかく。
 カイの手には長方形に切り取られた色とりどりの紙の束がある。笹と一緒に届けられたもので「タンザク」というものだ。これに願い事を書いて笹に飾るというのだが……。
 最初の一枚はすぐに書いた。
『世界中の人々に笑顔がありますように』
 続いて二枚目。
『世界が平和でありますように』
 さらに
『犯罪が減りますように』
『死病に倒れる人が一人でも減りますように』
「……」
 カイは少し考えて次の短冊にはこう書いた。
『素敵なティーカップに出会えますように』
 願い事というとその程度しか思いつかないカイは悩んでしまった。 別に全部書いて飾らなければならないというものでもないし、 色紙をそのまま飾ってもいいのだが妙な所で几帳面な(そういう問題でもないような気もしないではないが)カイは一枚一枚にきっちりとした字を書き込んでいく。
『美味しい紅茶の葉が手に入りますように』
『ルゼールの写本が手に入りますように』
 まだまだ短冊は余っている。
 また少し考え込んで。
『ジャムさんが諦めてくれますように』
 この一枚には思わずため息がもれた。悪気がないのは分かっているのだが、 女性とのお付き合いというものに免疫が皆無に近いカイには彼女の『情熱』は脅威的でさえあったのだ。
『暗殺集団が改心しますように』
『メイさんやジョニーさん達が快賊から正道に立ち戻ってくれますように』
『ディズィーさんが羽と尻尾を上手く隠せるようになりますように』
『ミリアさんが過去の呪縛から解き放たれますように』
『アクセルが元の時代に戻れますように』
『チップさんが大統領になれますように』
 これは無理だろうとは思うが、と。かすかに笑みを零してカイは書いた。いつの間にか自分の願い事から人のことになっているのだが、その辺りがらしいといえばらしい。
 その調子で書いていくと最後に一枚だけ短冊が余った。
 カイは考え込んだ挙句に、ペンを動かした。
『ソルが目的を遂げられますように』
「ま、一年に一度だからな」
 あいつのために祈ってやるのも悪くない。
 ペンを置いたカイはかすかに笑うと短冊を笹につけた。



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