「残雪期無酸素有麦酒山スキー」記録
1999.6.9 梅本 眞
今年も森川孝雄・平田和男・梅本眞の3人で恒例のGW山スキーに出かけた。
この3人での山スキーは歴史が長く、以前は東北に足を延ばして岩木山や八甲
田山を滑ったりしたが、ここ10年位は北アルプスが中心になっている。
北アルプスも様々で、栂池から蓮華温泉ベースで雪倉岳、立山室堂から剱沢
小屋泊まりで剱沢・長次郎谷・平蔵谷('91-92)、新穂高温泉から双六岳・三俣蓮
華岳・黒部五郎岳('93-96)、神岡から薬師岳('97)、上高地から槍・穂高(槍沢/涸
沢='98)とかなり広範囲にわたっている。今年は今までに入っていない山域という
ことで、白馬八方からのアプローチも良い後立山連峰の唐松岳・白馬岳に入山し
た(岳人99年3月号でこの山域の山スキーが紹介されていたこともある)。
【4月30日(金)】
<いざ出発>
例年は連休開始日前夜出発が恒例となっていたが、今年は平田の仕事の都合
で30日夜の出発となった。夜9時過ぎ、我が家に森川号で二人が迎えに来てくれ
た。途中で翌日の朝食を調達しながら、R246/中央高速/長野道を経て八方の
村営第3駐車場に午前1時過ぎ到着。早速車の中で宴会モード。明日からの晴天
を祈りつつ、ビールとウィスキーで乾杯!寝たのは3時近くになっていた。
【5月1日(土)】
<機動力を活かしたアプローチ>
寝不足と若干の二日酔いの頭を抱えながら、7時に起床して行動の準備を開
始する。準備が終わった頃、八方ゴンドラ行きのシャトルバス(無料)が駐車場に
迎えに来た。駐車場泊の他の登山・スキー客と一緒に乗り込み、ゴンドラ乗り場へ。
ゴンドラ券の他に、10Kg以上のザックは荷物切符(¥200)が必要である。
ゴンドラとリフト2本を乗り継いで、八方池山荘(1840m)に9時前着。本日の
行動を八方沢と不帰沢の滑降後、八方池山荘泊にすることを決め、宿泊の予約を
する。一部の不要な荷物を小屋にデポし出発。雪がなく岩混じりの稜線を歩き、石
神井ケルン・第2ケルンを経て八方池(2090m)に到着。唐松岳のピークは陰で
見えないが、不帰の嶮の一峰・二峰・三峰がよく見える。ここで大休止をしてからス
キーをつける。
<快適な滑降とつらい登り>
休憩後、八方池北側の八方沢(地図上は無名沢)を唐松沢との出合(138
5m)まで滑降。広くて雪の状態も適当に締まっていて快適な滑降だった。ここか
ら唐松沢・不帰沢を登る。雪の状態が良くツボ足で行けそうなので、スキーをは
ずしザックにつけたり、細引きで引いて、唐松沢を登高する。今日は雲一つない
快晴で、歩くと暑い。途中から唐松沢に別れを告げ、不帰沢に入る。天狗沢から
のデブリを避けるようにして、分岐を通過し不帰沢を進む。この辺から傾斜がき
つくなってきて、他の2人に引き離される。例年のことで、急になると私が遅れを
取り、マラソンの時の早さの順序になる。持久力の差か?
たびたび休憩を取りながら高度を稼ぎ、2000m付近で大休止。雪が一部固
い所があるので、ここでアイゼンを着ける。このとき上から雪の固まりが転がっ
てきて森川に当たる。雪で良かったが、結構固くて痛かったようだ。落石だったら
怪我をしているところだった。このあとコル(不帰のキレット)まで200m余りの所
まで登ったが、上部の雪の状態が良くなさそうなのでコル迄行かず、2180m地
点から滑ることにする。
<苦労した挙げ句のひどい雪>
不帰沢は傾斜はきついがデブリで雪が悪く、まったく面白くないどころか滑る
のに苦労する。我慢して滑り降りると、天狗沢との出合付近から傾斜は緩くなり、
少し重たい雪だがザラメの快適な斜面になる。朝滑り降りた八方沢を登り返して、
最後は少しトラバース気味に稜線に出る。ここから八方池山荘までの岩だらけの
夏道下りは疲れた足にこたえる。まして、森川と私はスキー靴(平田は兼用靴)。
これも例年のことで、多少不便でも滑り重視でこれでどこにでも行ってしまう(去
年はこれで槍の頂上まで登ってしまった)。よれよれになって小屋に到着。早速
平田がビールを買いに行って外で乾杯!
小屋は登山客・写真撮影の客で結構込んでいる(中高年が多い)。小屋を仕
切っているおばさんの愛想が良くないせいか、従業員全部の雰囲気が良くない。
リフトの降り場の隣なので普通の山小屋と違って、消灯はない。9時頃まで平田
持参の日本酒で話が弾む。
【山行タイム】八方池山荘
1850m(9:10)→八方池2090m(10:15-10:35)→唐松沢出合1400m (10:55)
→不帰沢分岐1525m(11:25)→2180m地点(13:45-14:05)→八方沢出合1400m
(14:30-14:40)→稜線2040m(17:00)→八方池山荘(17:35)
【本日の標高差】登高: 240m+780m+640m=1660m、滑降:690m+780m=1470m
【5月2日(日)】
<今日も快晴>
6時過ぎ起床、今日も快晴。写真目的の客は八方池付近での日の出の撮影
を終えて小屋に戻って来始めている。
すぐ出発できるように、荷物の準備をしてから朝食。不要な荷物はデポしたので
今日は背中が幾分軽い。7時30分行動開始で、昨日と同じように岩混じりの尾
根道をひたすら登る。約3時間で唐松山荘(2675m)と唐松岳の間のコル(2640m)
に到着し、滑降の準備に取りかかる。
<森川滑落!>
上部から唐松沢を覗くと、今日の物らしいシュプールが2本残っている。滑り
出しは50度位の急傾斜。ここに飛び込んでくる二人の写真を撮ろうと、先に降り
る。斜滑降で入って、右ターンして再び斜滑降に移ったところまでは良かったが、
カリカリの急斜面で(かろうじてエッジが引っかかっているだけ)滑落の危険があ
り恐ろしくて次のターンが出来ない。仕方なく、少し横滑りしてターン出来そうなと
ころを探す。
無線で状況を連絡したら判ってくれたが、このとき上で待っていた二人はなに
をモタモタやっているのか不思議に思っていたようだ。なんとか次のターンをして
いくらか安全な場所へ、写真はやめた。後続の二人が降り始めたが、やはり私
と同じ場所で立ち往生。森川が少し先に強引に進んだ所で転倒、50m位滑落し
た。そこの雪が少し柔らかかったのと、
スキーが谷側にあったので何とか止まる。サングラスは行方不明になったが、怪
我がなくほっと一安心。
ここから不帰沢との出会いまでは、30度以上の斜面が標高差1000mにわ
たり続く。昨日の不帰沢より北向きのため雪が腐っていなくて、非常に快適。途
中写真を撮ったりしながら滑りを楽しむ。出合で昼食後、緩い傾斜を更に滑り降
りて、昨日の八方沢との出合で板を脱ぐ。
<登り返しとゲレンデ>
体の疲労がすくないのと、荷物が軽いせいか昨日よりここからの登りが楽に
感じる。途中で八方池から滑ってきた4人組(一人はスノーボード)に出あう。この
パーティは唐松沢の出合までの途中までで登り返していた。装備から、ゲレンデ
に来ていて足を延ばした感じだった。
八方池山荘でデポした荷物をザックに詰め、ここからゲレンデを滑る。さすが
に八方、例年より少ない雪にスキーヤー・スノーボーダーがわんさか詰めかけて
いる。ゴンドラの山頂駅(1450m)の外でツマミまで出してビールで祝杯(いや、無
事のお祝いか?)。ゴンドラで下りると、例のシャトルバスが駐車場まで送ってく
れる(オフシーズンで駐車場は無料なのに、至れり尽くせり)。
<露天風呂と白馬錦>
明日の行動を白馬大雪渓と決めたので、猿倉荘まで下見に行った。帰りに
「おびなたの湯(\400)」に入ろうとしたら、受付時間が終了していた(お風呂の終
了までは15分あった)。でも、交渉したらいやな顔ひとつせずに終了時間を10
分位延長して入れてくれた。昨日の山小屋の不愛想と思わず比べてしまう、サ
ービス業はこうでなくっちゃ。なかなか、良い露天(のみ)風呂だった。
コンビニで朝食を調達して駐車場に戻り、寝る準備をしてから白馬の町に繰
り出す。そこは鼻の利く3人のこと、たちどころに良さそうな居酒屋を見つけ夕食
(?)。聞くと御主人は大町とここで店を出しているが、八方の店はこのゴールデ
ンウィークで店を譲ってしまうそうだ。美味しいツマミで白馬錦をしこたま飲んで
ご機嫌で車に寝に帰る。
【山行タイム】八方池山荘 1850m(7:30)→丸山ケルン2450m(9:40-55)→
唐松山荘2680m(10:30)→コル2640m(10:40-11:05)→唐松沢→不帰沢出合
1620m(11:45-12:10)→八方沢出合1400m(12:15-12:20)→稜線2040m(14:25)
→八方池山荘1850m(15:05-15:20)→ゴンドラ山頂駅1450m(15:40)
【本日の標高差】登高: 830m+640m=1470m、滑降:1240m+400m=1640m
【5月3日(月)】
<猿倉荘から白馬大雪渓へ>
6時過ぎに起床。今日も頭が重いが、取り敢えず猿倉荘まで車を走らせる。
昨日夕方に下見しておいた時には何とか駐車スペースがありそうだったが、行
動が遅いのですでに満車。少し下ったところの道路際に駐車する。今日は大雪
渓往復なので、余分な荷物は車にデポ。ゆっくり準備を済ませて7:30出発。昨日
まで雲一つない晴天だったが、天気予報通り今日は曇り空。1時間に1回の休
憩を取りながら黙々と標高を稼ぐ。2100m付近から傾斜がきつくなってくる。時々
スキーで下ってくるパーティーがいるが、圧倒的に登山客が多い。さすがに有名
な場所だけあって、昨日までとは大違いだ。
途中で傾斜がきつくなったあたりで登山客の滑落者が二人も出たが、2回と
も下にいた登山客がなんとか止めた。1回は100m以上滑って、止めた人まで巻
き込まれそうになった。今のオールウェザーの登山ウェアは滑り出すと止まらな
いようだ。登山客には初心者も多いようで、滑落者を見てすっかり怖がって後ろ
向きに下りている人もいた。
<標高差 1600mの滑降>
白馬山荘の少し下まで登り、滑降することにする。登山が目的だと、スキーを
デポしてピークハントするところだが、我々はスキーが目的なのでこだわらない。
雪渓の真ん中は登山者の踏み跡がたくさんあって滑りにくいので、左右の傾斜が
きつめの所を選んで滑る。雪はそれほど良くないが、なかなか快適な滑降だ。
白馬尻の上部あたりまで下りると傾斜が緩くなるので、左右の壁にトラバース
気味に上がっては傾斜のあるところを滑る。途中数パーティーの山スキーヤーを
追い抜く。見ていて気の毒な位下手な人もいて、スキーを担ぎ上げただけ大変だ
ったのではないかと思ってしまう。
最後は夏道の林道に出るが、猿倉荘まで雪がつながっていたので、登った分
の標高差を滑ることが出来た。6時間20分かかって登ったところを、途中の休憩
を差し引くと45分で滑り降りてしまった。
八方に戻り、第一郷の湯で汗を流して、帰途につく。途中高速の渋滞に何とか
捕まらずに走り、日頃の行いが良いせいだと思っていたら、足柄の近くになってか
らR246で渋滞に巻き込まれる。やはり、GWの真っ最中であった。
【山行タイム】猿倉荘 1245m(7:35)→白馬尻1550m(9:00-9:15)→葱平岩室2350m
(12:00-12:15)→白馬山荘下2870m(13:55-14:20)→大雪渓滑降→猿倉荘(15:15)
【本日の標高差】登高/滑降=1625m