【総括】
以上の結果より、今回の実験では溶存酸素濃度の制御に困難な点がいくつかあり、安定して溶存酸素ストレスを与えることが難しかった。溶存酸素濃度の制御方法を再検討することが、今後の溶存酸素制御を利用した高糖度トマト生産の最重要課題の1つとされる。今回の実験から高糖度トマト生産に適した溶存酸素濃度を判断するならば、植物体の状態からDO2区では植物体は萎凋症状を呈したものの十分健全に育っており、N+A区では顕著な萎凋症状を呈し栽培終了時には処理区の約9割の植物体が枯死したことから、DO1〜2ppmに適値があると考えられる。しかし、糖度が栽培期間中期待どおりに上昇しなかったことから、本実験では高糖度トマト生産に最適な溶存酸素濃度は明確にできなかった。溶存酸素ストレスを与えすぎても植物体は枯死し生産には繋がらず、適切な溶存酸素濃度の制御が栽培における必要条件である。本実験では、栽培中期の一時期、培養液が高濃度であったため、その影響も少なからず植物体は受けていたことを考慮しなくてはならない。溶存酸素制御による植物体への影響については、生育の抑制が確認できたこともあり、植物体は溶存酸素ストレスを受けていたと考えられる。全処理区で処理開始時から徐々に葉色が薄くなったことから、栽培が長期にわたると溶存酸素ストレスにより水分の吸収とともに葉緑体を構成する養分の吸収、転流までもが抑制され、結果的に葉の能力が落ちていったと推察される。しかし、摘心後にはシンクの減少により葉色は再び濃くなり、これにより高糖度トマト生産が可能な能力の高い葉になったと考えられる。栽培終了時にはN+A区の植物体の約9割が枯死に至ったことから、溶存酸素ストレスの限界強度はDO1付近にあると推察される。ただし、これは常時その濃度下にあった場合の結果であって、一時的なものならばより低い濃度の溶存酸素ストレスにも耐えることは可能であると思われる。溶存酸素制御による果実への影響については、溶存酸素ストレスにより着果数には影響がみられなかったものの、尻腐れ果が増加し果実重が小さくなり総収量が少なくなる傾向にあった。外観や空洞などの果実品質は、溶存酸素ストレスが強すぎると悪化する、あるいは、溶存酸素濃度がある程度低濃度で一定であった方が良い影響を与えることが考えられた。植物体には溶存酸素ストレスがかかっていたにもかかわらず、糖度と酸度は摘心後まで処理区間で差はみられなかった。しかし、摘心後に全処理区の糖度の上昇が確認でき、更に処理区間にも差が現れ、N+A区では糖度10以上の果実が得られた。栽培が長期にわたると低溶存酸素濃度により水分と共に糖の合成に必要な養分の吸収、転流が抑えられることが考えられ、これが糖度の上昇しない要因と考えられた。摘心後はシンクの減少により、葉に十分養分が供給され、糖の合成が進み積極的に果実に転流したと考えられる。DOが十分な状態で正常に生育(養分吸収)していて、急にDOストレスがかかると、水分吸収は抑えらえるが養分の蓄積があるため、葉色が濃くなり、高糖度トマトが生産される。しかし、常にDOが低い状態で栽培していると、水分とともに糖の合成に必要な養分の吸収も抑制され、葉色が薄くなることも考えられる。結果として植物体自体が小さくなるに留まるため、果実は高糖度トマトの形状にはなるが糖度が乗らないと考えられる。今回の実験で、高糖度トマト生産を可能にするポイントをつかんだ。生育初期はむしろストレスを与えずある程度まで健全に生育させ葉面積を確保し、養分を十分蓄積させる。その後、急激に溶存酸素ストレスを与えることにより能力の高い葉を形成し、果実は濃縮効果により糖度が上昇する。これに、更に摘心効果を付加し果実への糖の転流を促し糖度を上昇させる。この点を栽培方法に考慮し、今後、低段摘心密植栽培により高糖度トマト生産技術の確立を考えている。これは、低段摘心であるため植物体がそれほど大きくはならず、密植が可能で、高糖度トマト生産のデメリットの1つである収量減をクリアでき、誘引作業の簡略化や摘葉が不必要となるなど作業が簡略化し、かつ栽培が安定するというメリットがある。高糖度トマト生産では糖度も大切だが、なによりも食べたくなるようなトマトであることが最も重要だと考えられるが、この方法により果実の見た目が元気そうで、食べてもおいしいトマトができると思われる。本実験により、栽培方法を考慮すれば溶存酸素制御を利用した高糖度トマト生産技術の確立が可能であることが示唆された。本大学附属農場の慣行水耕栽培トマトはM式水耕を用いていることから、この栽培技術を確立すれば、システムを変更せずして高糖度トマト生産が可能である。今後、水耕栽培における溶存酸素制御を利用した高糖度トマト生産技術が確立され、高知大学ブランドトマト「だいがくトマト(仮)」が、広く市場に出回ることが期待される。