ノースキャロライナ 旅日記
その5
紹介もそこそこに、先方のフイドラーが
「9時に出演するつもりだから、8時40分にここへ来てくれ。やる曲のキーはAパートがGで、BパートがDだから。じゃあ、あとで」
なんてことをいうやつだとおもった。俺のことをどの程度わかっているか知らないが、それにしてもそんな曲どうやって弾けばいいんだ。
サイトに帰って健ちゃんにバンドが見つかったと報告する。
楽器を用意して、少しずつ前に進んでいく。1バンド1曲だから、進行は早い。周囲は全部オールドタイムバンドばかり。こんな状況は本当に生まれて初めての経験だ。前のバンドは、60代の男4人、女3人のバンドでオートハープの入ったストリングバンドだ。「オールド・トラディション」というバンドで、バンジョーはフェアバンクスのNo.7というすごいのを持ってるし、年配の女性三人はおそろいの白いドレスで、地元では人気があるバンドのようだった。
「ジョン何とかって名前の奴だった。変な曲をやるらしい。」
「ああわかった。ジョン・シングルトンだな。変な曲ばっかりやるやっちゃねん。でも、フィドルはうまいで、良かったやないか。前に俺も一緒にやっとったことあるで。だけど、変わってるやっちゃで」
なんということなく四人で歩いていく。バックステージには、出演バンドが並び始めている。コンテストではバックステージで順番待ちしながらジャムをするというのは話しに聞いていたが、こういう事なのかと感激する。出演までには10バンドぐらい待つ位置だった。
その後、気がつくとず一っと列が長くなっていたので、良いタイミングで並んだってことだろう。ジョンたちは毎年来ているのだからそれをよくわかっていたんだろう。
「おみそれしました。」という意味らしかった。こちらこそ、ジョンのフイドルといい、ギター・ベースのコンビネーションも良く、いいバンドに入れたとうれしかった。趣味も、レベルもちょうどいいような気がした。
一、二曲、ちょいと弾いて、さあステージに行こうとなった。マサシが写真を撮ってくれるといっていたが、間にあいそうもない。
すぐ時間になったので、ジョンのところに行く。ギターとベースと4人編成だ。ベースの奴もジョンというらしく、「ジョン・Aとジョン・Bだ」と自己紹介。ギター弾きの名前はステイーブ・Bだったと思う。
いきなり曲が始まる。バンジョーのチューニングをDにして弾くがうまくいかず、みんなが弾いている間にすぐGに直す。Aパートに特徴のあるリズムが入る曲で、BパートはGチューニングでも適当にこなせるメロディーだった。「スキッピン キャット」というタイトルで、5分ほど弾いてうまくあっておわったところでジョン・シングルトンがいきなり帽子を脱いでお辞儀した。
その前にはジョン・ハーマンと、フィル・ジャミソンが立っていて、そこへひげもじゃのゴーディー・ヒンナーがやってきた。シングルトンが、まずいなコリャという顔でこっちをみる。俺もうなずく。
三人がいるということは、ラルフ・ブリザードのバンドがおれたちの前に出ちゃうということだ。こっちはかすんでしまう。だが肝心な人がまだ来ていない。あと4バンドというところで、突然暗闇からラルフが現れる。うヘー、このまま出るのかよと恐れ入ったが、さすがに楽器をケースから出したりしているうちに俺達のバンドが追い抜いた。
ステージでは、「オールド・トラディション」が受けている。