50万年の死角  伴野 朗

講談社文庫

これだけの発想が、どうして出たのか不思議に思ったが、解説でクレア・タンジアン「北京原人失踪」、松崎寿和「北京原人」という下敷きがあると知り、なるほどと思った。
しかしそれを別にしても、解説の題材、構成、時代把握、人物、文章、いずれも素晴らしい作品という評価に同感。
昭和16年12月8日、太平洋戦争の始まった時、北京の協和医科大学を日本軍1個小隊が襲い、総長トレバー・コーエンに北京原始人の化石骨の引き渡しを要求したが、金庫の中の骨は消えていた。
騒ぎの中、コーエンとドイツ人秘書のヒルシュブルグが失踪する。
天安門広場で、骨董屋をいとなむ元日本兵丸井陽太郎の射殺死体が発見される。
軍属通訳の戸田駿は、消えた化石骨の追跡を依頼される。
中国共産党、国民党系の暴力的な蘭衣社、松村機関なども化石骨を追い始め、暗闘が繰り広げられる。
そして戸田と八路軍の国志宏の出会い、八路軍の二重スパイの美少女張玉珍との淡い恋・・・・。
秦皇島に送られ、米国に送られる寸前だった化石骨はコーエンが作らせた偽物だった。
しかし、コーエンの死体と共に発見された化石骨も、偽物だった。
これは、北京原人の発見者ブラック博士が、将来の日米開戦を予測し、作らせたコピーだった。
コーエンは、真実と思って持ち込んだ化石骨が偽であったために、蘭衣社に殺された。
丸井と悲しい過去の関係を持つヒルシュブルグも、蘭衣社に襲われ殺された。
最後に北京原人の発見地周口店で、本物を前に、松村機関佐々木月心と戸田は、蘭衣社の十三妹と対決する。
戸田だけが助かるが、十三妹等は爆死する。
事件後、死んだ張玉珍の妹張秀珍が、国志宏後の郭沫若らしい男の命を受け、見舞いに訪れる。

・彼らの戦法は、毛沢東が編み出した四句に集約されていた。
 敵が進めば、味方は退く。
 敵が止まれば、味方は攪乱する。
 敵が疲れたら、味方は攻める。
 敵が退けば、味方は進む(102p)
・起爆剤として雷管につめる雷酸水銀、つまり雷汞は水銀から作る。(151p)
・この人形が、国民党とのレポのサインでした。人形が真正面を向いているときは、情報なし。 左右を向いているときは、人形の首の穴に、情報が隠されていました。(246p)