アリバイのA         スー・グラフトン

ハヤカワ・ミステリ文庫 "A" IS FOR ALIBI 嵯峨 静江 訳

 夫殺しの罪で8年の刑期を終えたニッキから、キンジーは「私は犯人ではない。真犯人を捜して欲しい」との依頼を受ける。
 ニッキの夫ローレンスは、チャーリー・スコルソーニと弁護士事務所を共同経営していた。調査すると、彼は、夾竹桃の樹皮の粉末が入ったカプセルを飲んで死んだのだが、その事務所の経理を担当していたリビーもまた同じ方法で死んでいた。
 ローレンスは、女出入りの激しい、有能な、しかし冷たい弁護士だった。痴情関係の犯罪と考えたキンジーは、最初素行が悪く、ローレンスの愛人と考えられた秘書のシャロン・ネイピアを追うが、何者かに殺される。
 しかし地道な捜査を続けるうち、アリバイ関係から、裁判で負け、子供まで取られた前妻のグエンの犯行と分かる。しかしリビーやネイピアは誰が殺したのか。リビー、ローレンス、リビーの恋人ライルの三角関係と考えたが、ライルは、リビーに渡した薬が原因で死んだことに恐れおののいていただけだった。
 ふと思いつき、弁護士事務所で不正があったのではないかと考えたキンジーは、グエンの犯罪に見せかけたチャーリーの犯罪を見抜く。最後はチャーリーに追いつめられたキンジーが、逆に彼を撃ちぬく。

 「私の名前はキンジー・ミルホーン。カリフォルニア州でのライセンスを持った私立探偵である。2度の離婚経験があり、子供はいない。」と最初に書かれているとおり、この書ではキンジーシリーズの主人公たる私をまず紹介している。読み進めると、ひとつひとつ地道に捜査し、カードにまとめて行くキンジーの仕事ぶりがよく書かれている。情景描写も細かく現場に行っているような錯覚さえする程だ。

・問題はね、今の社会が太っちょを避けてることなんだ。太ってるだけでひどい差別さ。身障者より白い目で見られる。(109P)
・(ラスベガス)そこでは夜も昼もない。人々は激しくあらがえない目に見えぬ暖かい潮流にもまれるように、ただあてどもなくたゆたい、流されて行く。この町に存在するものはすべて焼き石膏でこしらえた、実物大以上の模造品で、人の手のぬくもりが感じられるものはひとつもない。(147P)

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