ヴェニスの商人

新潮文庫

解題にあるように、この話は4つの筋から成り立っている。
(1)箱選び
父親の遺言で金、銀、銅の箱を用意し、ポーシャの絵の入っている箱を選んだものが結婚する資格があると決められている。外見だけではわからない、中身が大事だということで銅が正解、ポーシャの好きなバサーニオーが選びめでたし、めでたしという訳だが金、銀を選んだ方だってそれ相応の理由があるというもの。
(2)指輪の紛失
博士と召使いにばけたポーシャとネリサが裁判のお礼に夫たちから結婚指輪を巻き上げ、後で「指輪はどうした。」と攻めるもの。カカア天下の出発点みたいなものだな。
(3)人肉裁判
バサーニオーの友人アントーニオはユダヤ人の金貸しシャイロックとの契約で金が返せなかったら肉1ポンドを与えると約束した。本当に返せなくなって困るが、博士に化けたポーシャが「血は一滴もとるな。」と難癖をつけ、逆転してしまうもの。しかし
* 返せなかったら肉をやるという契約をするとはずいぶんトンマな連中だ。
* 肉をやるという違法な行為を前提とした契約は、法的にみて正しいだろうか。
* そもそも血は肉の従属物ではないのか。それならポーシャの理論は通らない。
* ユダヤ人が全くの悪人という書き方は人種差別そのものだ。むしろシャイロックの発言の方が人間的だ。
* キリスト教おしつけの目立つ書きぶりだ。なんでも改宗することが前提だなどというのは、キリスト教侵略主義以外の何者でもない。
(4)ジェシカの駆け落ち
親の宝石やら金やら持ち出し、しかも親の嫌うキリスト教徒と駆け落ちするなど悪以外の何ものでもない。それが正義としてまかり通らせているところ、ずいぶん独りよがりだ。
現代流に見ると、確かにストーリーの選び方、問題の捉え方が安直で、大衆劇という感じが非常に濃いように思った。


アントーニオが裁判にかけられることになったのは、商船が難破したからだが、塩野七生の「イタリア遺聞」には、当時のヴェニスの習慣として、財産を一つの船にすべてかけるようなことはしなかったはずだ、としている。

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