伯林ー1888年 海渡英祐
講談社文庫
着想が素晴らしい。
1888年、若き日の森鴎外、林太郎はベルリンに留学していたが、そこで友人岡本の恋人ベルタの首吊り死に遭遇する。
林太郎は、閨秀詩人クララの紹介で、鉄血宰相ビスマルクの甥のベルンシュタイン伯爵の住むゲルマンの古城に招待されたが、ベルタの死を伯爵がらみの密室殺人と考えた岡本にその死の原因調査を依頼される。
古城での一夜、林太郎を待っていたものは当のベルンシュタイン伯爵の殺人事件、しかも現場は2重密室、伯爵は頭を撃ち抜かれていた。
完全に孤立しているはずの古城には伯爵令嬢アンナとの密会を企てた過激派のカール・レーマン、事件の成り行きを心配した岡本などの侵入などがあったことが判明し、事件の解明を複雑にする。
林太郎はクララの犯行で事前に伯爵を殺害し、事件発生時、自分で自分に向けて発砲し、騒ぎを起こしたものと考えたが、本人および当夜突然古城を訪れたビスマルクは頑強に否定する。
釈然としないまま帰国の途についた林太郎は、インド洋上でふとしたことで真実に気がつく。なお結局ベルタの死は自殺と分った。
地の文で19世紀末のドイツという悩み多き時代を浮き彫りにしている。
多くの謎と恋愛を結び付けながら、最後は老獪な政治家ビスマルクの策に委ねているところが、単なる密室小説という枠を越えている。乱歩賞受賞作品。