池澤夏樹の「母なる自然のおっぱい」に、動物はその個体の大きさ、能力、環境などによって感じとる世界がものすごく違う、というようなことが書いてあった。それに触発されて「ゾウの時間ネズミの時間」という本を再読した。
10年ほど前に中央公論社から発行され、評判になった本である。著者の本川達雄という人は昭和19年生まれ、動物生理学の専門家。この本は人間も含め、生物の働きをきわめて工学的に捉えているところが面白い。
ミミズは蛇ほどふとくなれるか、などと問題を提起し、「呼吸系も循環系もなく、唯一の血液系だけで酸素をからだの隅々に送り、そこから先は拡散で体中にいきわたらせなければいけない、そう考えるとミミズの半径は1.3センチが最大だ。」というように答えている。
この本に「心拍数一定の法則?」ということが書いてある。
「寿命を心臓の鼓動時間でわってみよう。そうすると、哺乳類ではどの動物でも、一生の間に心臓は20億回の鼓動を打つという計算になる。」
著者によれば息を一回スーッと吸ってハーッと吐く間に、心臓は4回ドキンドキンと打つ。これは哺乳類ならサイズによらず、みんな同じなのだそうだ。著者はここから下のような結論を出している。
「寿命を呼吸する時間で割れば、一生の間に約5億回、息をスーハーと繰り返すと計算できる。これも哺乳類なら、体のサイズによらず、ほぼ同じ値になる。」
面白い、と思った。私の心拍数は1分間に80回、計算すると1年間では4200万回ということになる。すると私の寿命は50年?少し短すぎる、でも人間はうまいものを食っているから哺乳動物一般に比べると長生きしてもよいのかなあ、などと考えた。
しかし少し利口になったような気分になった。利口になるとすぐ人に吹聴したがるのが昔からの私の欠点。さっそくガールフレンドのAさんにシタリ顔で披瀝する。
「哺乳動物というものは一生の間に約5億回呼吸をする。人間も同じ、逆に言えば5億回スーハーすれば死んじまうのさ。」
彼女は感心したような顔をしていたが
「確か女性の方が平均寿命が10年ほど長いのよね。そうすると男性のほうが1回のスーハーする時間は短いのかしら。人間の寿命ってだんだんのびてきたのよね。江戸時代の人はもっとぜいぜいしていたのかしら。」
むむっ!
確かに5億回が一定とすればそういうことになるのだが、本当かなあ。
そう考えだすと疑問がわいてきた。
この本の出だしに時間は体重の4分の1乗比例するとある。その後「この1/4乗則は、時間がかかわってくるいろいろな現象に非常に広く当てはまる。たとえば一生にかかわるものでは、寿命をはじめとして、大人のサイズに成長するまでの時間、性的に成熟するのに要する時間、赤ん坊が母親の胎内に留まっている時間など、すべてこの1/4乗則にしたがう。」とある。
女性のほうが小さいのに長生きするが、あれは苦労が少ないからか?犬のチンはシベリアンハスキーに比べて短命か?馬はロバに比べて長命か?どうもわからなくなってきた。この先は個体によっていろいろ事情があり、それを知ろうと思ったら、本川先生の授業を受けなければいけないのかな、などと考え出す。
そこまで考えてオリジナルの「心拍数一定の法則」の下には?マークがついていることに気がついた。きっと本川先生もおなじことを考えたに違いない。
(11月14日)