2冊目は辻邦夫著の「背教者ユリアヌス」。少々飛ばし読み・・・・。
最初に塩野七生の「ローマ人の物語」等を参考に時代の流れを考える。
ローマ帝国は五賢帝時代が終わると、歴史的には正統性のない軍人皇帝が出現し始める。そしてその頃キリスト教が社会に勢力を伸ばし始めた。4世紀に成るとやはり軍人のコンスタンテイヌス一世が即位し、おそらくは自己の政治的な地位を確立・安定化させるためにミラノ勅令により、キリスト教を公認した。都をコンスタンテイノープルに移した。
337年、コンスタンテイヌス崩御後、実子3人が、ローマ帝国を分けるが、次第に東のコンスタンテイウスが権力を握る。一方、一世の弟ユリウス一派は掃討される。しかしふとしたことからユリウスの息子ガルス、ユリアヌスは助かる。
コンスタンテイウスはキリスト教への免税範囲を広げるなどキリスト教優遇策を進める一方、東ではペルシャ、西ではガリア、ヒスパニアの蛮族侵攻に悩まされる。351年にガルスを副帝に起用し、東方の統治を任せたが、反旗を翻し、処刑する。こうしたなか長い間幽閉生活を強いられていたユリアヌスはアテネに戻され、学究生活を続けていた。彼はキリスト教の進出を苦々しく思い、ギリシャの神々に憧れていた。
355年、コンスタンテイウスは、ガリアの統治に当たっていたシルヴァヌスが反乱、これを処刑するが、その後任にユリアヌスを採用、妹のヘレナと結婚させる。学級肌であったはずのユリアヌスだが、アレマンノ族、フランク族との戦いなどで次々勝利し目覚しい活躍を見せる。
しかし東方の脅威に悩まされた、コンスタンテイウスは、側近たちの言をいれて、東方行きを命じる。これに怒った西方中心勢力がユリアヌスをアウグストスとして担ぎ、ユリアヌスも承認する。
361年、ユリアヌスは東方に、これを下すべくコンスタンテイウスもペルシア戦線から西に向かうが途中でコンスタンテイウスが病死。その遺言によりユリアヌスは正帝となる。ユリアヌスはキリスト教への優遇策を撤廃し、ギリシャ・ローマ宗教の再興を図り、キリスト教徒側と激しく対立する。
しかし363年、ユリアヌスはペルシャ軍と対戦、勝利を得るものの、補給が続かず退却する。その過程でペルシャ軍の奇襲を受け、負傷、32歳のわかさで他界する。その後皇帝護衛隊長のヨヴィアヌスが皇帝となるが、彼はユリアヌスの政策をすべて取り消す。
以後キリスト教と西欧の権力者は不即不離の形で中世を形作ってゆく。キリスト教は宗教としての域を超え、政治に介入しようとする。一方王は王権神授説を振りかざす。塩野七生によれば「「従来の市民が国王を選び、王権を与えるやり方では、市民が認めなくなればすぐに権威は失われてしまう。キリスト教では、「人間」ではなく「神」が統治ないし支配の権利を君主に与える。実はこれは、17世紀に現れた王権神授説そのものなのだが・・・。これならば自分の王位を保証させ、意中の後継者に権威を与えることも出来る。」
歴史小説とはどのようなものであろうか。小説は小さな説を述べるのであり、何を書いてもいいが、これに歴史とカンムリをつける以上、時代背景は崩してはいけないのだ、と思う。しかしそれ以外は想像をたくましく面白くしてかまわない。どこまで真実であるか、判然としかねるがこの作者もそれを守りながら、上手なメイクストーリーをしていると感じる。ユリアヌスとサーカス一団の女性デイアとの愛がその典型で物語を面白くする。そしてコンスタンテイウスの后エウセピアのユリアヌスへの愛、そしてヘレナとの確執などもそうだ。さらにユリウス一族が襲われる様子、がリアやペルシャでの戦いの様子なども、臨場感を持って読ませあきさせない。
反キリスト教政策を取ったために、彼は「背教者」と呼ばれている。しかし彼の取った行動の奇跡はこの本を読む限りごく自然であった様に思われる。迫害を受け続け、やっとコンスタンテイヌス帝になって認められたキリスト教など邪教に感じられたのであろう。さらにキリスト教が影響力を持ったその後の暗黒の中世時代を考えれば、彼は、正義の人のようにも見える。
彼がキリスト教徒との対応にどのように悩んだかは必ずしも明快ではないように思う。「帝王であるから好きなようにやった。」では何か物足りない感じがする。彼を使ってこの際キリスト教徒を追い落とそうとした別の見えない影が存在したような気もする。
私の個人的考え。結局は若かったのではないかなあ、学窓育ちで世間のことを余り知らなかったのではないか、と感じる。自分がキリストを信じないにしても何か妥協策があったのではないか、また何もペルシャの遠征に自らが行くことはなかったのではないか、と感じる。足元を先に固めるべきであった。
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