1007「私の学生時代」(10月8日(土)晴れ)

大学と大学院の頃、私の研究室は窯業研究のA研究室であった。
有機化学全盛の時代であったから、余り人気はなかったが、やがて半導体などに進み発展を遂げた。セラミックスの結晶構造を研究するために、X線回折装置が良く使われた。結晶、または粉末にX線をあてると、結晶構造の違いによってと特定の角度で反射する。これを測定して解析するのである。X線が人体に有害なことは分かっていたが、その頃は大して気にも留めずに実験しまくった。そのせいではないか、とささやかれるが、A先生は56歳?の若さで他界された。その後をうけたB先生は、研究に忙しく飛び回られているうちに、突然大腸がんを発症され、亡くなられた。そんなことでA研究室は、あとを若い人が継いだ形はとっているものの実質的には解散のような形になった。
そのA研究室の第3回の集まりが東京駅近くのレストランで行なわれた。中心になったのは私より一年先輩のCさんである。研究室発足当時の生徒だった人も多く、私はまだ全体では若い方に入ってしまう。現在70歳であるから、他の年齢は押して知るべし。もう功なり名遂げた人が多い。挨拶をした人などは今年窯業学会の会長になられたという。

私自身は優秀な学生ではなく、世間常識もなかった頃であった。サファイヤに似たムル石という鉱物の単結晶を作ろうとベルヌーイ炉と格闘した。サファイアを立て、その先端を酸素水素バーナーであぶり、2000度近くにする。すると先端がわずかに溶ける。そこに上方からムル石になるように調合した粉を落とす。粉は先端で融ける。わずかにレバーで下方に下げると、先端の温度が少し下がり、ムル石の結晶が出来るはずである。しかしレバーは1時間に1回くらいのゆっくりした速度で回さねばならぬ。そのうちにバーナーの熱であぶられて暑くなり、眠くなってしまった。ずいぶん変わった方法だが、後にその方法で大砲の弾ほどのルビーを作っている、と聞いて驚いた。
夏には先生の所有しておられる北軽井沢の別荘に集まって勉強会を開いた。私は仲間と、レンタカーを借り、4,5人で交代で運転していったが、初めての経験で苦戦した。車輪を側溝に落とし、タイヤの金属性カバーがへこんでしまった。それを後ろから布を巻いたかなづちで叩き、きれいにして黙ってレンタカー屋に戻したのを覚えている。照月湖という池のような湖があり、そこで釣り糸をたれたこともあった。しかし一番好きで会った某先輩は若くして亡なくなった。この年になると元気に生きている者が勝ち、という気がする。

こういう会では、大体各人が現況報告、思い出話などするのがしきたり。始まった。もちろん年齢順。もう引退しかかった人が多い。B先生のとき、名古屋にファインセラミック研究所ができた。そこの所長に成ることが内定したが、トヨタの会長との面接があると心配している人が居た。今はすっかり足を洗ってカラオケとゴルフを楽しんでいるという人が居た。どうもお年寄りの話は長くなり勝ち。「ここから先は手短に、一人30秒!」と誰かが叫んだ。予定の2時間はもう過ぎてしまった。
私の4期くらい先輩のDさんがきていた。アルミナに確か5つ水のついた鉱物を発見され「トーダイト」と命名した。その後、筑波のほうの研究所の所長など勤め、会社時代に訪問したことがある。賀状を今でも交換させていただいている。非常におしゃれで粋な人で、社交ダンスなど独特のスタイルで踊り、女性にもて、皆を羨ましがらせた。
夏休みには、同期の同期の友人とその岡山のDさんの実家に押しかけた。すると翌日船を用意してくれて、1日瀬戸内海を釣りして回った。小さなコチやキスが、始めての私でも50匹も釣れた。夜てんぷらにして食べたが実にうまかった。今日は、みなに「幸せに暮らしているか。」と聞いていた。気遣いのできる人である。

Eさんもきていた。あの頃では珍しい女性での工学部であった。A先生に「うちの娘みたい。」と可愛がられたとか・・・・。その彼女はドクターコースを終え、関係する分野の仕事をしていたが、引退したとおっしゃる。ご亭主がセメント会社に勤めておられ、私が年度末になると時々会う某君と入魂と聞いて驚いた。
ほかにFさん。彼は技術士として今でも活躍している。「カミサンがどこかで亭主がなくなっても今は3分の2の年金が支給されると聞いてきた。それ以来オレの扱いがぞんざいになってきた。まだ稼がねばならぬ。」と笑っていた。
2時半予定が3時過ぎの打ち上げになった。同期の友人は、これから奥さんとシドニーに行くと大きなバッグとともに成田に向かった。いい気持ちになって4時頃帰宅。
今思えば、私自身は民間会社に勤め、大学時代の研究とは縁がなくなったが、私の宝物のように懐かしい日々である。

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