1027「独身、暮はすることもなく」(1227,28日(火)()晴れ、晴れ)

 

昭和50年ころであったろうか、高度成長期にあった日本は景気がよかった。私も会社に入って7,8年がたち前途洋洋?別荘地などもブームであった。

私は新聞広告などで見かけた不動産屋に電話をかけてみた。暖かいところがよいと最初は伊豆高原が目当てであったが、そのうちに不動産屋に勧められて南伊豆になった。別荘なら下田も伊豆高原も大した変りはあるまい、位だから私の伊豆に関しての知識もひどいものであった。結局ある農家の裏の100坪ばかりの農地を弟と共同で取得した。下賀茂温泉から松崎に向かう途中にあるところで、下田からは車で20分以上もかかる田舎であった。当初はやがて建物を建て、二家族夏にいっしょに過ごそう、など考えた。しかし家族が大反対をしたのである。「そんな観光地に行って掃除に食事の準備、冗談じゃないわ。そんなお金があるなら海外旅行でも連れてゆきなさい。」

結局そのままになり、弟とは1,2年おきに下田に行き、法務局で登記簿をチェックし、土地を見にゆくようになった。「無駄な投資」と双方感じ、弟の嫁からは「お兄さん、あの土地の私たちの分、買い取らない?」などいわれたこともあった。ところが事態が変わった。父が亡くなったころ南伊豆町から電話があり「県道を作ろうとしているが、土地の所有者から、代わりにお宅の土地をほしいと言ってきた。売ってくれないか。」どうもあの農家らしい。結局、取得価格の5倍近い値段で売れたから大いに喜んだ。私の唯一の成功した投資!そんなことがあって私は下賀茂温泉の前は車でよく通った。

年末に皆の忙しいところをしり目に温泉で優雅に過ごす、というのは、やはり独り者で高校同期のA君が言い出したこと。一昨年あたりから始めた。彼は妙なところがあって「温泉は絶対に源泉かけ流しがいい。」調べるが案外少ない。しかもなるべく今まで行かないところと考えて、やや遠いがこの下賀茂温泉に目を付けた。ウイキペデイアでは下賀茂温泉の開湯は永禄年間、最初は湯治場であった、泉室は塩化物泉とある。道理で湯が口に触れると塩辛く、体が湯船の中で浮くように感じる。

「花のおもてなし南楽」という旅館である。木々で囲まれた農家の入り口の様な所に入る。大きく切った囲炉裏、立派な垂木、かまど、薪、壁にはなにやらをつけ込んだらしいビン、つるし雛、爺や婆のにこやかなぬいぐるみ、甕や皿などのそれなりにいなかびた陶器、いなかののんびりした家屋を見事に人工的に作り出している。すぐに茶菓子がふるまわれ、抹茶とともに館内の説明・・・・見事な演出。

そしてエレベータの前に連れて行かれてびっくり。7階まであるのだ。私たちは5階501号室。和風の室内、控えの間には、ここも大きな囲炉裏が切ってある。眼下には青野川がゆっくり流れ、その向こうには緩やかな岡が伊豆の海とここを隔てている。しかし男二人、湯につかるくらいだが、湯が素晴らしい。使い放題の家族風呂が10個もある。あいているところに入り、中から鍵をかけてしまえば二人だけの空間・・・・。もっともA君と二人ではぞっとすると、二人で2つの家族風呂をちゃっかり利用。

夕食はまずまず。女性向けで実にきれいに作った懐石料理。若い人には少し量が不足というものもいるかもしれぬが我々には充分であった。にごり酒も入りよい気持ちになった。

酒を飲みながら昔話は老人の特色かもしれぬ。私は高校生や大学生のころ、それから社会人になっても比較的まじめ、よい子であった。珍香もたかず、屁もひらずというところかもしれぬ。A君は、小学校中学校では神童とささやかれるほどであったが、勉強しなかった、遊んでばかりいたと言う。その理由を彼は親がほめてくれなかったからだ、としている。K大学に入った。お小遣いがほしく神社の御札を書いたり、テキヤみたいな仲間に入ってお祭りの露店の売り子などもやって授業にはろくに出なかった。それでも一流不動産会社に入り営業で活躍したが、若くして途中退社し、後は株などやって悠々自適という。どちらの人生がよかったのだろう。同期のまじめでT大を卒業して医者になった女性の言葉を思い出す。「私、まじめすぎて損をしちゃった。もっと遊んでおけばよかった。」・・・・・人生はほぼ決められた時間、それが一度しかない。それがよかったかどうか、もう終わり真近になってわかるのかもしれぬ。

翌日ものんびりして10時ころ旅館のバスで下田に戻った。改めて外からこの旅館を眺めると普段通りながら気が付かぬ理由がわかった。7階建てになっている部分は外観がくすんだ緑で何か老人ホームを思わせる。

下田の街をぐるりと回ってみた。ペリーの記念碑や了泉寺のあり場所を初めて知った。何度も来ているのに、私は寄り道をしない性分だったようだ。

 

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