1071「教科書でよむ「宗教」」(5月8日(火)晴れ
著者藤原聖子氏は3年生まれ、東京大学大学院人文社会系研究所卒。シカゴ大学で学び、大正大学文学部教授を経て現在東京大学文学部准教授。2009年より高等学校倫理教科書の執筆・編集に参加。
日本人は特定の宗教についている人が少ないだけでなく、宗教に対する不信感も強い。アメリカやイラクでは「宗教心の強い人が公職に就いた方が自国のためになる。」と考える人が半分くらいいる。
コーランを焼くという宣言した牧師が出て大騒ぎになったが、非難する方もされる方も「コーランの重要性」を認識している。我我が直面している問題は宗教対立が引き起こしている、と考えがちだが、近代化によって人々が宗教を離れ信仰を失うにつれて激しくなった、ともいえる。この本の目的は@外国では他人の宗教を認めるように教育しているのか、それとも否定するように教育しているのか A世界の宗教の姿を各国の現地の人たちの目を通して理解する。
科学技術が発達した段階で宗教に戻ろうとする傾向が一部に見られるのはなぜか。著者は自由にお互い好きなことや利益を追求すれば社会が成り立たなくなる、また何も自由では自分に不安を感じる、との危機感からかもしれない、と著者は言う。
宗教科の授業は二種類ある。一つは「統合型」でキリスト教徒もイスラム教徒も無宗教も一緒に教育するもの、もう一つは「分離型」で宗教別に授業を受けるのである。それぞれ自分以外の宗教をどう見ているか、或いは平等が実現されるか、等が問題である。国別にポイントを書く。
アメリカ:キリスト教徒が75%を占めるが、政教分離制をとっている。公立校ではクリスマスなども祝わない。2001年テロ以降、ともすればイスラム教徒=テロリストの考えが広がりがち、それを抑えようというのか「異文化理解教育」には熱心。しかし時に行き過ぎ、「ムスリムになった気持ちで、ムハンマドの死を知ってどう思うか書いてみよ。」などの問いかけに、一部反発を呼んでいる。
イギリス:72%がキリスト教徒であるが、「統合型宗教教育」の草分けで、宗教教育は必須。イギリス人同士の相互理解を促進する考え方で複数の宗教について学ぶ。学び方は日本のように歴史からではなく、現在のそれから学ぼうとする。アクテイビテイにはたとえば「自分に結びつけて考えよう」「よく考えてみよう」などの視点に立っている。
フランス:イギリスがキリスト教以外の宗教も等しく公教育に取り入れようとしているのに対し、こちらはあらゆる宗教を排除しようとしている。イスラム教のスカーフ、ユダヤ教のキッパ(男性用帽子)、キリスト教の十字架ペンダントなどは禁じられている。歴史教科書で宗教が取り扱われるが、特にユダヤ教の説明などに多くのページが割かれている。キリスト教の扱い方も日本と違い、十字軍の影響など客観的な目で描こうとしている。
ドイツ:原則カトリック、プロテスタント、それ以外は倫理を受けるという形で、分離型の教育を行っている。授業は教会が管轄している。ただ自分の教派だけ教えるわけではない、という思想は貫かれている。「ユダヤ教は独自の宗教でキリスト教徒はそれに敬意を払うべきだ。」とされ、ホロコーストの説明にも多くのページが費やされている。宗教を通して身近な暴力にどう対処するかセクトやオカルトをどう考えるかなど、自ら考えることを要求している。
トルコ:政教分離が徹底され、教育も宗教ぬきが良いとされたが、圧倒的にイスラム教が多いお国柄、徐々に宗教教育が認められてきている。イスラム教徒の立場から知りたいことを取り上げるというスタイル。宗教を啓示宗教と非啓示宗教に分けた記述などはユニーク。しかし中立は保とうとする主張は貫かれ、宗教を紹介したうえで目指すところは同じ、などとしている。
タイ:政教分離、公認宗教に仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンドウー教、シーク教があり国家の援助を得ている。仏教は国境ではないがその存在感は圧倒的、幼いうちから出家して僧院で勉強しながら成長する者がいる。仏教を「文明を発展させるもの」「社会に平安をもたらすもの。」として教育されている。
インドネシア:90%がイスラム教徒だが、やはり政教分離制。まずアラビア語によるコーランを暗記させるなど「信仰を頭や心の中にとどめず、行動を通して理解させる。」ようにしている。「マンゴーを盗もうと誘われたときに私が取るべき行動は。」と言った設問がなされ、他人の間違った行動をただすよう教えられる。高学年になると寛容を勧め、アッラーの神は多様性を恵みとしているなどと教えられる。布教についても自らで決めるスタイルが求められている。
フィリピン:キリスト教徒主体だが、政教分離。多様な民族を一つの国民としてまとめ上げる点に苦心している。「「家族を大切にすること」「助け合うこと」「敬うこと」などフィリピン人はこういった特徴を持っている。」と繰り返し語られる。
韓国;ここもキリスト教が主流。政教分離制だが宗教系の私立学校が多い。教科書は宗教色抜きで自ら考えてもらうという姿勢が強い。
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