1086「「青山杉雨の眼と書」展を見る」(7月26日(木)晴れ)
その生誕100年を記して、青山杉雨の作品と所蔵品を一堂に展示した「青山杉雨の眼と書」展に行ってきた。上野の国立博物館、その一番奥の平成館。
読売文化教室で書を初めて2年になる。先生はNという大東文化大学出身の二十台の書家である。
書をはじめなければたぶん気にも留めなかったであろう、杉雨の名前を何度となく聞かされるようになった。インターネットによれば
1912年生まれ、愛知県出身。幼くして上京。同郷の書家大池晴嵐の師事を受けるようになる。
1942年から西川寧の指導を受ける。1983年日本芸術院会員、1992年文化勲章受賞。1993年没・・・・・・
その程度の予備知識であったが、今日の展覧会で感じるところがいくつかあった。
一つは臨書をベースにしたものすごい練習量である。
もっともこれは杉雨に限ったことだけでなくN先生でもそれを知った。
先生はプロの書家のなるんだと、朝から晩まで書に取り組んでいるらしい。1年に10回近くいろいろな展覧会に出品する。一つ出品するのに、その作品を1000回も書くとか。文化センターで趣味にいくらやっても追い付かぬ、と感じたものである。もちろん杉雨は其れを越える書きぶり・・・・・。この基礎があって応用が利く・・・・・。展覧会で彼のビデオを見ていて「書は歴史を踏まえねばならぬ。」と言っているのが印象的。
書はどのように書くべきなのだろうか、日ごろわからなかった。臨書をしてお手本のとおりに書くものだろうか。最後は五体文字など昔の書を集めた本から字を拾って書けばいいのだろうか。文字の意味を知らなくてもいいのだろうか。書は、何かを人に読ませるために、つまりは自分の意志からスタートすべきではないか。真似しているだけでは何の面白味もない・・・・・。
彼も臨書からスタートして随分悩んだようだ。臨書は千字文など大いに感動した。それでも練習量が多いせいかのびやかに書きながら、一字一字が整然と並び、空間の美しさが際立っている。くせのないこういう字を書きたいと折書など見ながら感じた。
篆書に興味を持ち、石鼓文からスタートして呉昌碩の臨書を始めた。かってN先生から「呉昌碩は篆書で有名」と聞いて、私は何が面白いのだろう、と思った。普通の文字を書くときに大切な、例えば永字八方なんてものは必要ない。ただ形だけをまねればいいように見える。印刷機ではないか!彼もそのように感じたらしいが、そこから遡源して文字の本質をつかもうと努力したようだ。その結果が象形文字をさらに模様化したような、文字を大きな紙に堂々と書いている。独自の世界を開いたのであろう。文字がなんの意味を持つのか、と感じたが、見ているうちに何か味が感じられ惹かれた。こうなると書なのだろうか、絵なのだろうか。
実際に書かれる様子がビデオでうつされていた。実に早くのびやかに大胆に書いていることに驚く。
今私が取り組んでいる隷書は右払いの線が鋭く、素人目には隷書らしくなく感じられた。解説によれば「様式に特異なものを加味しようとしたためで、これは日常親しんでいる黄山谷(知らぬ書家である)影響かと思う。」とあった。
帰りに2500円也のカタログを買ってきた。展覧会に出品されているほとんどの作品の写真が載っているようだ。しかし小さな本という型に押し込められてあの感動は感じられなかった。
杉雨は、63歳の時に董其昌という人の書を見て強い刺激を受けた。
董其昌も知らぬが明代末期の文人で康熙帝が敬慕したという。「書の精髄は魏晋にあり、王羲之の精神を把握し、形ではなくその神韻を受け継ぐべきで、そのために書は天真爛漫であるべきとした。」とウイキペデイアにある。一緒に狂草のような文字が掲載されていた。
其の後、杉雨は特に明代、清代の書を研究したようだ。
購入したカタログの巻末に年譜が紹介されており、そこに杉雨の発言がちりばめられている。そのうち印象的なものを上げる。
「紙面の構成だとか効果だとかは意識されていない。目の前に或る文字をトツトツと書いてゆく。字が多少曲がろうが、字間が開こうが行がふらつこうが意にかけない。大事なのは一点一点ゆるがせにしないで書き抜くことだけで、そこに自然に立派な董書が出来上がっていることを、目の当たりに感じたのは大きな収穫であった。」
「ところで僕なんかの作品はですね、書くたびに皆違う。僕はこれを一作一貌と言って自画自賛しております。一つの作品には一つの顔がなくてはならない。これが僕が作品を作る上での鉄則というわけじゃないけれど、狙いであり、理想です。」
杉雨の書斎が復元されていた。これもまた一興。多くの文筆道具、多くの書、彼の生活スタイルが感じられた。上から見ても下から見ても徹底した書家であり、趣味の人であったようだ。
註 ご意見をお待ちしています。
e-mail
address agatha@ivory.plala.or.jp
ホームページ http://www4.plala.or.jp/agatha/