1101「私が眠る」(912日(水)曇り)

 

私の寝所は和室8畳間。その真ん中にせんべい布団を引いてもちろん一人で寝る。

東は押入れで襖になっている。亡くなったカミサンがお茶が趣味であった。

新しい家を建てるときに「和室はお茶もできるようにして頂戴。」

ほい、きた、と引き受けたが、「お茶をやるには、部屋に家具なんかあっちゃまずいわ。押入れに入れてね。神棚もそうよ。それから床の間がいるわ。掛軸がないとお茶をやる雰囲気にならないわ。水屋もいるわ。お客様が待つところもいるわ。」

結局8畳の和室は全部で15畳くらい占めることになり、おかげで予定していた洋間はずいぶんでこぼこのある小さなものになってしまった・・・・・。

西はその床の間である。

花はあればいいのだけれど、本来が無精でケチだからほとんどいけない。掛軸は最初は彼女の残していったどこやらの坊主の書いた書など飾っていた。しかしそのうちに「その部屋の主の考え方を示すものだ。自分の作品で埋めたい。」と考えた。結果私の書いた今年の干支である「龍」という文字一字。夏にタイから孫どもが来たとき「何と書いてあるのだ。」と騒いでいた。

南は障子の向こうに廊下。お客様がそこから入ってくるという想定である。おき水屋の設備もある。カミサンがなくなってから使ってない。今はただの場所ふさぎ。同じところにオヤジの油絵もある。趣味で積み上げたものは結局その人の死とともに雲散霧消する。

北はただの土壁。これも彼女がなくなってから塗り替えた。そして小さな襖の奥に仏壇。彼女が取ったお茶の師匠の看板、お花の看板がそこに放り込まれている。ついでにそこには遺影と位牌が父、母のものと一緒に入れられている。ただし無精の私は花もそえぬし、水もほとんど変えぬ。

せんべいぶとん。昔はこの下にクッションを敷いたこともあるが、体が沈み込むようで好かぬ。その上に横になる。空間が広く感じられる。誰かがぬっとあらわれて襲われるかも知れないと考える。しかし襲われればその時、位の割り切りができるようにだんだん訓練されてきた。体中の力が抜けて解放されるような感じになる。母親の懐に抱かれた幼児のような安らぎを覚える。一日が終わった、という感じになる。それなりにいっぱい詰まった一日だったように感じる。

一年に一度人間ドックに行く。その検査の結果、緑内障と前立腺がんの検査を定期的にするようになった。今朝は食事の後、ラジオ体操に行き、戻ってすぐに河北病院に向かった。眼科の医者は信頼していたが変わった。どんな先生かと思ったら、若いぽっちゃりした女医さんであった。

視野検査を11月末にもう一度行うことになったが、その他は特に変わりなし。前立腺がん可能性チェックのためのPSA値は前回より少し上がったが、こちらも先生は「この程度は誤差範囲、経過をみましょう。」ということであった。

昼食をして家に帰るとずいぶん疲れたように感じた。荻窪から2キロ弱歩いたが、夕食に買ったサバと梨が重かったからかもしれぬ。一寝入りして再び荻窪、書店で本を買い1時間ばかり過ごした。「為替相場はどうなるか。」そんなことを書いた本。夜はガールフレンドのAさんが来た。塩麹で味付けしたサバを焼いて夕食、デザートに梨、彼女が帰った後はカラオケの練習などした。そして今日もまた判官びいきで応援している東北楽天の敗戦を確認してから、床に入ったわけだ。

大してすることがない、とは人は案外我我の年齢の者に共通の一言ではないか。仕事がなく、そこそこの財産ができ、しかし性的能力は衰え、どんなことをやっても死んでしまえばすべてなくなってしまうと感じる我ら七十台。それでいてまだ生物的元気が少し残っている。

大の字になって見えるもの。部屋を照らす蛍光灯。ちゃちい和風の傘がついている。買ったとき、もうカミサンは亡くなっていた。娘が「毎日寝るのだし、お茶を万が一やるときは大切なのだから立派なのを買いなさいよ。」と言われたが、けちん坊をした。少少後悔している。

こういう時昔はいろいろ考えたものだ。子供の頃はずいぶん夢があった。山道を歩き冒険する事を考えた。海を泳ぐことを考えた。こうして手をバタバタさせ身体が沈まぬ様にすればいいではないか。カブトムシをどうやったらつかめられるか考えた。

大人になってくると仕事のことを考えた。僅かな金額を投資すべきかどうか、株のこと、ゴルフ場のことを考えた。政治のことを考えた。女のことを考えた。

しかし最近は考えるテーマがない。そのくせとんでもないつまらないことを考えたりする。さっきの電話はダブルブッキングになっていなかったか。二階の冷房がつけ放しになっていたのではないか。時計はどこに置いただろうか・・・・・。

眠れなくなる時がある。そんなとき私はとにかく目を閉じる。そして目を閉じている時間も寝ているようなものと考えるようにする。そのうちに本当の眠りに落ちる私。他人によれな私は鼾をかかずに静かに眠るという。みなさんの場合はどうですか。

 

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