1114「「「アラブの春」の正体」を読む」(11月7日(水)晴れ)
書店で作者の名前を見ておや、と思った。履歴を見てやっぱり。
重信メイ・・・あの日本赤軍のリーダー重信房子とパレスチナ人の父を持つ娘さんである。ベイルートのアメリカン大学を終えて、日本国籍を取得、同志社大学大学院で学んだ後、現在はジャーナリストとしてパレスチナ問題を主体に広く講演活動を行っているとか。37歳?
自分自身の知識の整理も含めてまとめてみたい。
一昔前と今がとんでもなく違うこと。ネットの存在であると思う。ちょっとしたことがネットで広がり、それが大きなうねりになってゆく。そこにそれを利用しようとして個人や権力が群がる。
この書によればアラブの春は、チュニジアから始まった。「チュニジアは経済的には比較的発展している国、しかし経済的な恩恵を受けているのは大統領家族など一部で大多数の間には不満が積み重なっていた。」きっかけは許可を取らないで野菜露店を開こうとした男が、市の女性検査官につかまった。資材を没収されたうえ、彼女に平手打ちを食らった。彼は、これに抗議して焼身自殺してしまった。そのことがネットで広がり、左派やリベラル派の大規模なデモ等につながった。そしてベン・アリー大統領がサウジアラビアに逃亡するまでに至った。
しかし革命後、主役は入れ替わった。それまで逮捕を恐れて潜んでいたムスリム同胞団などイスラム原理主義者が表舞台に出てきた。選挙が実施されたが、既存のモスクなどを通じた宗教センターが機能し、イスラム教回帰を求めた結果である。ムスリム同胞団とは、アラブに広がる一種のムーブメントで、イスラム教をもと基づいて行動することが決められているが、具体的行動は国や地域で異なる。革命後、左派・リベラル派の思いの通り行かなかったのは人々の思いを一つにするリーダーが出なかったからだ、と著者は述べる。
エジプトは、警察官当局の中で麻薬の分配が行われている写真を得た男が、警察官に暴行された。これをグーグルの幹部が見ていてフェースブックなどに書き始めたことが発端。
エジプトでは軍が強い。政治的にも経済的にも大きな影響力を持っている。1981年サバト大統領が暗殺された後、その影響力に助けられて政権を握り続け、米国など西欧もこれを支持してきた。
しかし一部政府高官の腐敗、再選反対、労働条件、対イスラエル政策などで不満が高まっていたところへ「ジャスミンの春、チュニジア革命」の影響があって、大規模デモや焼身自殺が相次ぎ、大混乱となった。そしてついに軍がムバラク政権を見限り、スケープゴートにされた。
しかし革命ののち、ムスリム同胞団系政党が大きな支持を集め、ムハンマド・ムルシーが大統領になった。リベラル派とみられていた二人は三位、四位に終わってしまった。革命によって対米一辺倒から、幾分離れたが、イスラエルとの平和的関係に変わりはない、とする。
リビアのカダフィは、1969年リビア革命によって政権を獲得したのち長期に合渡って独裁政権を維持していた。彼はナセルにあこがれて「社会主義的要素」を取り入れた稀に見る福祉国家を作ったが、一方でアラブ・ナショナリズムを標榜していた。宗教は別にしてアラブのアイデンテイテイを求めるもので、共通語にアラビア語を据えようとしていた。しかしリビアには西と東の争いもある。リビア革命は東の西に対する権力奪取とみることもでき、おかげで軍は力を失った。
外交政策は、一時は反欧米であったが、2000年代に入ると、それらは影をひそめていた。欧米はしかしリビアに対する警戒を緩めていなかった。膨大な石油や石炭は国営国家に握られ、欧米の入り込む余地がなかったし、中国に接近する動きやアフリカ連合を作って欧米と対峙しようという動きもあった。金本位のデイナールという地域通貨を作ることさえ検討された。
きっかけは拘留されていた人権活動家の釈放を要求するデモであった。そのデモに対する抑圧、デモ側からのNATOへの援助要請、帝国主義の再来を彷彿させるNATOの空爆、11年末の政権の崩壊へと進んでいった。しかし革命は成功してもその後の行方についてはいまだにはっきりしない。もともと各部族が強く、それをカダフィという強力な人間がまとめてきた。そのたがが外れた今・・・・・。現在リビアについての情報はあのカタールのアルジャジーラ放送も含めてほとんど入っていないようだ。
シリアアサド政権はアサド父子が引き継ぎ40年続いている。政治的には反イスラエル、パレスチナ支持を打ち出した福祉のそれなりに充実した国家、一部の腐敗をのぞけばそれほど問題がないように見えた。きっかけは子供の落書きと連行、その親の抗議であった。それが不満分子、特に国外のムスリム同胞団などが中心になってことを大きくした。やがて内戦状態・・・・大国の影がちらつき混沌状態を導き出している。
この書はそのほかサウジ、イラク、オマーンなどの動きにもふれている。不満を集めてもなかなか理想の国家はできぬ、さらにそもそもアラブにとっての欧米民主主義を取り入れた社会とはどのようなものであるか考えさせる一書かもしれぬ。
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