1174「「銃・病原菌・鉄」を読む」(614日(金)雨のち曇り)

 

ジャレット・ダイアモンド。草思社。日本経済新聞記事に世界史の書ベスト101位の山川出版の「世界史」は問題ないとして二番目にこれが入っていて驚き、それが購買へとつながった。著者は、1937年ボストン生まれの生物学者。カリフォルニアロスアンゼルス大学教授、とある。10年以上前に上梓されたものだが、読んでない人にはぜひお勧めの一冊。

人類社会は世界のさまざまな場所でそれぞれに異なった発展を遂げてきた。氷河期が終わって13000年。その間に文字を持ち、金属製の道具を用い、産業を発達させた地域がある。文字を持たぬ農耕社会しか登場しなかった地域がある。石器を使って狩猟採集生活を続けた地域がある。こうした歴史的不均衡が現代の世界にも長い影を落としている。それは金属と文字を持つ社会が金属も文字も持たない社会を征服し、あるいは絶滅させてしまったからだ。地域間の格差は人類史を形作る根本的事実であるが、なぜそのような差異が生まれたのか、その理由を明らかにすることが本書の目的である。

15321116日、スペインの征服者ピサロとインカ皇帝アタワルパがペルー北方の高地でであった。この時ピサロは168人のならず者を率いているだけで、土地にも不案内であった。一方アタワルパは何百万の臣民を抱える帝国の中心にいて、8万の兵に守られていた。それにも拘わらず、数分後にピサロはアタワルパをとらえ、金による世界最高額の身代金を治めた後、彼を処刑してしまった。そして最終的にはインカ文明を滅ぼしてしまった。なぜこんなことがおきたのか。彼を成功に導いた直接の要因は、銃器・鉄製の武器、そして騎馬などにもとづく軍事技術、ユーラシアの風土病・伝染病に対する免疫、ヨーロッパの航海技術、ヨーロッパ国家の集約的な政治機構、そして文字を持っていたことである。

それでは次にはなぜ、インカ人はヨーロッパのようになれなかったのか。700万年前、アフリカで類人猿の系統から枝別れして以来、人類は野生動物をとらえたり、野生植物を採集して暮らしてきた。11000年くらい前から食糧生産に従事する者があらわれ、野生動物を飼いならし、植物を栽培し、家畜や作物を食するようになった。

動植物を育てれば、単位面積当たり狩猟採集民の100倍もの人口を養うことができる。また家畜は肉や乳などの蛋白源、肥料を提供し鋤をひくことで食糧生産に貢献する。動植物の栽培化、家畜化は定住生活を招来し、女性たちの出産等に伴う負担を和らげ、人口の増加、稠密化に貢献する。また食料は貯蔵・生産できるので、食糧生産にかかわらない人たちを養ったり、特別な仕事に従事する、例えば王族、官僚などを生み出す。やがて刀剣や銃器などの開発技術に従事する者、文字も生まれ人の記憶を上回る書記、征服戦争に正当性を与える宗教家などが誕生する。食糧生産の発祥地は世界に数カ所あり、周辺地へと広がって行った。

しかし小麦、トウモロコシ、米、大麦など今日人類の食の源となる植物が地球上のどこでも得られるというわけではない。膨大な種類の植物のほとんどは栽培に適しない。またある地域で栽培化されても、気候や土壌の関係で他の地域では栽培できない場合も多くある。人々は僅かに残った植物を育て改良してようやく現在のものに近づけることができたのである。

野生動物もほとんどは、家畜になりえない。たとえばシマウマは歳を取るにつれ気性が激しくなり、手が付けられなくなる。家畜化を試み多くの人がかみつかれた。野生の動物が家畜になるには餌、成長速度、繁殖、気性、パニックなりやすい性格、序列制のある集団を形成、それらの問題をすべてクリアーしなければならぬ。犬、羊、ヤギ、豚、牛、馬などが、やっとこれらの基準に合格するもので世界のどこでも得られるわけではない。

動物と人間が接触するようになると動物のまき散らす病原菌にさらされることになる。同時にそれは接触する人々に病原菌に対する耐性を与える。アメリカ先住民の人口はヨーロッパ人の征服過程において激減したが、銃や剣の犠牲になった人よりも、病原菌で命を落とした数の方がずっと大きかった。

地球上数カ所で起こったこれらの技術?は世界各地に広がって行った。しかしそれには方向があった。ユーラシア大陸は東西に広く伸び、其のベルト地帯の気候は似ていた。其のためひろがりやすかった。しかしアフリカ大陸や南北アメリカ大陸は南北に長く、技術?が人が類ためにはひどく暑い地域や山岳地帯などを越えねばならず、しかもそのようなところは人口も希薄であった。またオーストラリアやニュージランドのように海が隔てている場合もあった。

そうして離れた文化が互いにぶつかり合ったときに起きた現象が冒頭のピサロとアタワルパの遭遇であった。本書は世界の各地で起きた同じような現象を地域ごとに捉え、読むものの理解を深めさせている。16世紀に文化がぶつかり合った時にできた優劣関係は現代にまで引き継がれているのである。

 

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