1187「胆振線北湯沢」(8月6日(火)晴れ)
72歳、良くここまで元気で生きてきたものと思う。しかし振り返れば恥かき、汗かきの連続であったような気がする。あんなことはするべきでなった、こうするべきだった、ひどいことをしたものだ等々。その多くは口を拭って誰にもしゃべらずに来た。しかしそんな話を墓まで持って行くべきか、もう暴露しても差し支えないような気がする。
「マデイソン群の橋」という小説がヒットしたことがある。あれは子達がおかあさんの恋愛を書くというスタイルだ。ブログでは・・・・「一見日常に満足しているようでも、人には隠された理想があるときがある。そんなとき、伴侶と違う価値観を持った人間に出合うと、恋が芽生えるときがある。しかもそれは、時によっては若い頃に劣らぬ激しいものになる・・・・。」
私には、結婚してから浮気するチャンスがなかったけれど、その前であるなら、懐かしい、甘酸っぱい想いでがなかったわけではない。
今回の北海道旅行で鉄道地図を広げ、北湯沢という駅を探したが見つからなかった。
昭和40年、大学院1年の時北海道旅行をした。8月17日から30日まで2週間の旅。ユースホステルを渡り歩いた。九州旅行に行った折、都井岬で知り合った函館出身のぽっちゃり型の美人A嬢がいろいろ案内してくれ、A嬢の親戚らしい人が経営している北湯沢のユースホステルに二日間泊まった。其の時の日記が残っている。抜き書きしてみる。
「青函連絡船津軽丸、満員、しかし船はゆれもなく列車の旅よりずっと快適だ。そろそろ函館の山が見えてきて音楽が流れる。・・・・・A嬢に合う。彼女の案内で、朝のうちは函館公園、教会の方を歩く。日射し強し。山小屋風喫茶でコーヒーを飲む。青柳町とはこの辺り、啄木が愛した街である。・・・・食事とゲームで時間をつぶし、観光バスに乗る。立待岬、函館山、展望台から見る函館の街はいかにも可愛く美しい。風が涼しく気持ちがいい。」
この後、五稜郭やトラピスト修道院にも行っている。トラピスト修道院は、ベネデイクト派で、戒律が極めて厳しく、新聞は兄長のみが読み、ラジオ、テレビはない、完全な自給自足の生活で自分には考えられぬ世界、などとしている。北湯沢で再会することを約し、A嬢と別れ、私は大沼公園などに向かう。そしてその北湯沢。
「・・・準急「いぶり」はわずかに一両だ。久保内で一人客が降りた。のんびりした列車だ。豪華な北湯沢ユースホステルが見えてきた。到着後A嬢と外に出る・・・・。」
夜はジンギスカン鍋をごちそうになり、翌日近くをのんびり歩いてみることにした。
「・・・・・関大の学生が牛乳を買いに行ったという農家まで、歩いて行こうかという事になる。日の照り返しが強い。舗装道路を仕方なく一歩一歩歩く。・・・・」
北湯沢の取水所を過ぎ、人に聞くなどして山道を登る。
「・・・・あれだ、しかし疲れた。ところが誰もいない。」
木造の粗末な牛小屋のようなところを見つけたのである。
「虎模様の猫がじゃれついてくる。「あれは北海道ではヨモギというのよ。」とA嬢。仕方なく弁当にする。何とも妙なもの。牛のにおいのするところで、女の子と二人だけできゅうりにマヨネーズをつけて食う。「もう帰ろうか。」と立ちかけたころやっと管理人?が来た。「牛乳が飲みたい」というと「朝と晩にしか出してないが我が家で飲ませてやろう。」という。喜んで少し下がったところにあるその人の家に行き、おばさんに牛乳をごちそうになる。冷えていてうまい。それに濃い。そのうえ雛鳥と野菜を煮込んだものまで出してくれた。その雛鳥のうまいこと。臭みがなくうまいこと。礼をして戻りかけると三輪が来たので載せてもらう。三輪はずいぶんがたがた揺れた。・・・・・。」
A嬢とは、北海道を出るときにもう一度函館を歩こう、という事になっていたが、船の都合がつかず連絡船待合室でのお別れとなった。
「・・・・A嬢はライトブルーのツーピースを着ている。全く申し訳ない、行かれない旨を述べ陳謝。A嬢が写真と記念にと黒の十勝石をくれた。・・・・」
十勝石とは黒曜石で北海道ではそう呼ぶのだそうだ。東京に戻って帯留めに加工してもらった。おふくろと亡くなったカミサンが使っていた。たぶん今でも引き出しの奥に残っていると思う。
その後、私は亡妻と結婚することになった。結局九州と北海道であっただけで、身勝手に私はもう会えぬと連絡したように記憶する。彼女はその後どういう人生を生きたか?
ウエブサイトを調べてみる。胆振線は1980年に廃止されていた。あの時は、昭和新山等を見物した後、壮瞥から乗り、久保内、蟠渓をへて北湯沢に到着した。帰りは伊達紋別まで戻り、室蘭に行っている。また北湯沢ユースホステルのホームページを開くと、懐かしいとんがり屋根の建物が出てきた。しかし2009年から長期休業、とあった。北湯沢は温泉地ではあるが、胆振線が廃止されればアクセスは「室蘭本線伊達紋別駅より、倶知安行45分、北湯沢温泉下車徒歩2分」とあるから、なかなか人が来ないのかもしれない。
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