1230「「永遠の0」を読む」(14()晴れ)

 

久しぶりの長編文庫本。作者百田尚樹は昨年「海賊と呼ばれた男」で本屋大賞を取った人。1956年つまり昭和31年生まれ、多くの人に是非読んでもらいたいと感じた。巻末の何十冊の参考文献と聞き取り調査などでまとめた者だろうが、ルポルタージュの趣があり、現代の我々に改めて太平洋戦争や特攻隊の意味を考えさせる。映画にもなって大層ヒットしているとか。

主人公大石は司法試験に失敗し続けている浪人、出版社に勤める姉からの依頼で、亡くなった祖父のことを調べ始める。亡くなった祖母は再婚していたが、姉と私は連れ子であった。本当の祖父、宮部はゼロ戦のパイロットであった。しかしのちに戦局が思わしくなくなった頃、特攻隊員になり、帰らぬ人となった。二人は懸命に当時の経験者を訪ね歩いてゆく。

最初に合った長谷川は「あいつは臆病だった、命が惜しくてたまらなかった。」と非難する。姉が「命が大切という事は自然な感情だと思う。戦場から逃げ回っていたことは素晴らしい。みんなが戦争から逃げ回っていれば戦争なんか起こらない。」と非難すると「戦争が悪だという事は誰でもわかっている。しかし戦場は戦うところだ。逃げるところじゃない。戦場に出れば目の前の敵を撃つそれが兵士の役目だ。和平や停戦は政治家の仕事だ。」と怒り出す。

そんな彼がなぜ飛行機乗りを、さらに特攻隊を志願したのか・・・・その辺の疑問解明が話の一方の軸になっている。次の武田に対し、同行した新聞記者の高山は「特攻隊員は志願であったはずだ。特攻隊員は時代や軍部に洗脳されていた、それが戦後に解けた、それ故戦後日本は民主主義になり、あれだけの復興を遂げた。私は特攻はテロだと思っています。彼らの遺書を読めばわかります。国のためにつくし、国のために散ることを、そこには一種のヒロイズムさえ読み取れました。」

武田は「黙れ!」と退けた後「日記や遺書だって検閲がなかったと思うか。遺族に書く手紙に「死にたくない!辛い!悲しい!」など書けるか。テロリストだと、ふざけるのもいい加減にしろ。我々が特攻で狙ったのは無辜の民が生活するビルではない。爆撃機や戦闘機を積んだ航空母艦だ。貴様は正義の味方のつもりか。あの戦争を引き起こしたのはマスコミだと思っている。ポーツマス条約では講和条件を巡って怒り、5.15事件、2.26事件では首謀者たちの減刑を主張した。あの辺こそマスコミの分水嶺で、その後国民を戦争に煽った。戦後は逆にまるで国を愛することは罪であるかのような論陣を張るが、愚かな国民に教えてやろうという姿勢は全く同じだ。今日、この国ほど、自らの国を軽蔑し近隣諸国におもねる売国奴的な政治家や文化人を生み出した国はない。」

まさに作者が言いたかったことであろうが、作者は同時に軍の作戦のありかた、海軍の官僚的体質についても激しく糾弾している。「将官クラスは、海軍兵学校を出た優秀な士官の中から選ばれた。彼等はエリートゆえに弱気ではなかったのか。真珠湾攻撃では、南雲長官は徹底的な打撃を与ええた第三次攻撃隊をあきらめ、ガダルカナル緒戦でも敵輸送船団の撃破が目的だったのに、三川長官は追い詰めずに撤退している。その極めつけがレイテ海戦の栗田長官の反転、わざわざ小沢艦隊が敵を引き付けたのに、丸腰の輸送艦隊のいるレイテ湾を目前に反転している。エリートたちはどうやって敵を撃ちやぶるかではなく、いかにして大きなミスをしないようにするかを第一に考えて戦っていたような気がする。査定も軍艦を沈めることが一番のポイントだから、輸送船、艦艇修理用ドック、石油タンクを破壊しても点にならない。」

ゼロ戦は航続距離の長い、小回りの利く格別優秀な飛行機であったが、防弾装置が皆無であったこと、急降下速度に制限があること、ターボチャージャーが無く高空での性能低下などの欠点もあった。アメリカはやがて頑丈で、操縦者の安全を十分に考慮し、かつ性能も勝るグラマンF6Fやシコルスキーを開発し、投入してきた。一方日本に、ゼロ戦を改造させる余力はなく、しかもベテラン操縦士のほとんどをガダルカナルなどで失ってしまった。

日本の戦争の考え方は将棋にようで、現場の人間を将棋の駒のようにしか考えない。しかしアメリカは戦争を囲碁のように全体でとらえて作戦を練る。大和魂を誇るがアメリカ軍人にもガッツはある、ミッドウエーでは撃墜することが分かっていても護衛の戦闘機なしで爆撃機を次々出撃させた。結果それらに気を取られたすきに攻撃し4隻もの航空母艦を沈めることに成功した。そんな記述も興味深かった。

宮部はやがてゼロ戦を降りて新米操縦士や学徒などの特攻要員を教えることに成った。特攻隊はもう沖縄以降はアメリカの防空体制が完備し、ほとんど成果を上げられない。それでも次々と繰り出させる。技能の優秀な教え子から順次呼ばれて南の海に散ってゆく。故郷に結婚して間もない妻を残し、あれほど無事で帰りたがっていた宮部であったが・・・・・。

(追記)映画を見た。非常によくできていると思うが、作者の太平洋戦争そのものに対する考察は欠けている感じがした。ただしこちらもぜひ若い世代に診てもらいことに変わりはない。反戦の主張が弱い、などと愚かなことを言う向きがいると聞くが間違っている。

 

註 ご意見をお待ちしています。

e-mail address   agatha@ivory.plala.or.jp

ホームページ    http://www4.plala.or.jp/agatha/