1234「「これからの「正義」の話をしよう」を読む」(122()晴れ)

 

マイケル・サンデル、早川書房。ハーバード大学での講義がベース。

2004年夏メキシコ湾岸で発生したハリケーンがアメリカ南部を襲い甚大な被害をもたらした。一袋2ドルの氷が10ドルで売られ、家の屋根から2本の木を取り除くだけで23000ドル要求された。便乗値上げだ、と騒ぐ者がいる一方、自由主義者は「人々が慣れ親しんでいる価格に比べ、たまたま高くなっただけ、売り手と買い手の価値観が価格を形成しているだけ。」と論じた。確かに一見法外な価格も遠くの業者にさえ必要な商品の生産を促すインセンテイブをもたらす。

あなたは路面電車の運転手。時速60マイルで走っている。ところが突然ブレーキが利かなくなった。気が付くと前方には5人の作業員。側線に入ろうとしたがそこにも一人の作業員。とっさにあなたはまっすぐ進むべきか、側線に入るべきか。

これらの問題は何が正義なのかを改めて考えさせる。先ずは魅力的なベンサムの功利主義。

道徳の至高の原理は幸福、すなわち苦痛に対する快楽の全体的な割合を最大化することである。

路上の物乞いは情け深い人の心を痛ませ、非情な人には不快感を催させる。どちらにしても社会の効用を減少させてしまう。そこで排除して救育院に入れてしまえ、と提案する

反論1・・・・個人の権利を尊重していない。品位や敬意など基本的規範と考えるものを侵害するやりかたを認めることに成る。ローマではキリスト教徒をライオンの餌として与え、人々を楽しませた。テロリストには拷問をかけて白状させろ。これらは正しいか。

反論2・・・・道徳にまつわるあらゆる事物に単一の価値の通貨に換算することは可能だろうか。

ガソリンタンクに欠陥のある自動車の改造にかかる費用と、事故がおきた場合の賠償金額を計算し、改良しないことにした自動車会社の決定は正しいか。

次に自由至上主義リバタリアニズム。

アメリカは貧富の差が大きい。そこで富裕層に課税して貧困層に回すことは正しいか。

リバタリアンは強制や不正行為によってではなく市場経済での選択を通じて経済的な不平等が生じるならばそれは不公正ではない、とする。そして小さな国家を要求する。

@    父親的温情主義の拒否。・・・ヘルメットをかぶらないでバイクに乗ることは自由だ。

A    道徳的法律の拒否・・・・売春で稼いで何が悪い。

B    所得や富の再分配の拒否。・・・・富者が強制されるべき筋合いのものでではない。

然し拡張すると腎臓を金のために売ることは正しいか、自殺ほう助は正しいか、殺され、食べられたいと思う者を募集することは正しいか・・・・・。

功利主義者やリバタリアンの問題点ははっきりしてくるが、それでは何が正解なのか。議論を国家と言うコミュニテイのあり方に発展させてゆく。

アリストテレスは@正義は目的にかかわる。正しさを定義するには問題となる社会的営みの目的、本質、最終目標を知らなければならないA正義は名誉にかかわる。その営みが称賛し、報いを与える美徳が何かを考えることである。

しかし彼によれば「政治の目的は多数の意向を反映する。」であったり、其れが奴隷制の擁護につながったりする。寡頭政治と民主制支持者との議論に発展するが成功していない。

ロールスは、国民が国家と全ての人が平等の原初状態において仮説的社会契約を結んでいると考える。「ビルゲーツに成る可能性がある一方でホームレスになるかもしれない社会。」人々はきっと後者を考え、底辺層を切り捨てるシステムは無難だ、と考えるだろう。しかし同意したからと言ってその契約が正しい物とは限ら無かったり、同意のない契約なども飛び出し限界に直面する。

最後のマッキンタイヤの主張はほぼ著者の考え方に近いのかもしれぬ。

「我我は、有る国家の国民であり、民族であり、同業組合の会員であり、そして家族の一員である。

その様なものとして過去から様々な負債と遺産を受け継いでいる。私にとって善いことはそうした役割を生きる人々にとっても良いはずだ。これが私の道徳的出発点となり道徳的特性を与える。」

彼は一方で個人主義とは違うとして「奴隷制がアフリカ民族に与えた影響を取ろうとしないアメリカ」や「1945年以降の生まれだからナチスドイツのユダヤ人に対する行為に対して責任はないとするドイツの若者。」の考え方を排している。

しかしこれらの議論もまたジレンマに陥る。愛国者は美徳か、と言うような問題もそうであるし、ある兄弟のように犯罪者の弟をかくまう行為は正義かなどの問題にも直面する。

当然のことではあるがこの書は結論がはっきりしない。そこがもどかしいところだ。私個人としては「それはそれで正しいだろうが、なかなかイスラム文明など他の価値観との相互理解は難しいのかもしれない。」とも感じる。また日本の問題でついても同じように感じるただそれらを考えるきっかけを与えてくれるという点ではお薦めする。

 

註 ご意見をお待ちしています。

e-mail address   agatha@ivory.plala.or.jp

ホームページ    http://www4.plala.or.jp/agatha/