1270「アルゼンチンタンゴ」(6月2日(月)晴れ)
大学生の頃、よくダンスパーテイに行った。誰かがダンスは「三点接触の喜び」と言った。賢明な諸君ならいかなる三点か察しがつくであろう。もちろん私もその楽しみを味わいに、大学で、ダンス教習所で・・・・。しかし下手であった。理由は分かっている。音感が無いからである。運動神経が鈍いからである。私のダンスを友人が評して「ラジオ体操みたいだ。」と言った。
それでいてダンスにあこがれていた。隣の研究室には全日本学生社交ダンス第一位と第五位という男がいた。あんな風に女性を抱えてさっそうとタンゴかなにか踊りたい。人ごみに紛れてほとんど動かぬブルースも。それはそれでいいけれど飽きてしまう。
秋に友人とパック旅行で南アメリカに行く。飛行機で一日以上飛び、ブエノスアイレスに朝着く。そしてブエノスアイレス観光。そして夜はアルゼンチンタンゴを見に行く。
あの鋭いスタカートを多用する。2/4拍子、4/8拍子、あるいは4/4拍子2拍子のきびきびした踊り。女性が男性の体に巻きついたり、男の足が女性の足の間にぐっとはいってゆく情熱的な踊り。ブエノスアイレス、モンテビデオ近辺のラ・プラタ川流域、労働者の間ではやったもので、カンドンベ、ミロンガ、ハバネラなど複数の音楽が混ざり合って19世紀半ばに生まれたとされる。ただし日本で本格的にはやりだしたのは1980年代とか。
1252「4月、心が弾む」で銀座の「アルゼンチンタンゴ教室を覗いたこと」を少し書いた。あそこは実は中々の名門らしい。私の会社で同期の男も、アルゼンチンタンゴにはまっていたが、彼もそこで勉強したと言っていた。
結局私はあれから今日が最後で初級コースを4回受けた。
アルゼンチンタンゴで一番難しいのはインテンションという奴だと思う。
リズムに合わせて男性がどう踊ろうか考え、女性をリードしてゆかなければならない。
アルゼンチンタンゴで立つというのは、普通に立つのとは違う。
肩と肩を一致させ、胸と胸をつけ、腰から下はやや離れている。人という字のように互いに支えあわねばならない。それ故やや前のめりで立つ感じになる。
腹をひっこめ、ひざとひざが会うくらいに内またにし、内足に重心をかける。ところが元来O脚で悩んでいる私は、すぐに膝が開いてしまう。小さな屈伸をして重心のかかる位置を確認するがすぐにかわってしまう。これでたとえば左足に体重をのせたまま、右足をすり足で右足のかかとあたりを通るようにすっと前に出してゆく。右足に体重を移し、少し伸びあがるようにして左足を引き付ける。もしくはそのまま前に出す。カミナンドという奴らしい。あるいは左足に体重をのせたまま右足をすり足で前、横、後ろとうごかし、最後に立ち位置に持ってくる。
右手は女性の背中、肩甲骨をやや持ち上げるくらいの位置に置く。顔は互いに左にむく。肘は揚げず、その手に女性の腕が絡みつく。左手は肩くらいの高さに上げ女性の手を取る。肩と肩は正面に向き合ったまま、このままの状態で前に進み、後ろに進む。
動き出すと、肘をどうしても無意識に曲げてしまう。此れではこちらの意志が女性に伝わらぬ。「これが基本です。これができれば後は基本ステップを覚え、曲に合わせて自由にやればいいのです。踊れない女性でもこちらの意志が分かるから、このようにちょっと肩を開いてやれば女性は回転するのです。」と先生は言うが・・・・。
先生は次々とパートナーチェンジを命ずる。この踊りは、女性は男性に合わせていればいいから存外優しいのかもしれぬ。女性はすぐにベテランのような顔になり、こちらの意味不明のリードには困惑した様子をみせる・・・・その連続である。
何となく歌舞伎か能の所作をしているような感じ。この様なスタイルで1時間練習するのだから存外に疲れる。大腿部がばんばんに張ってくる感じ。特に足の調子が今一つの私にはかなり答える。
先生は商売だから「大丈夫、必ずものになります。」というがこの先続けるかどうかわからぬ。もっともデイサービスか何かに通うことを考えてみろ!若い女性と接触し、運動にもなる、そう考えれば1時間2000円はやすいのだが・・・・。
友人たちからは「君がいくらなんでも・・・」とあきれられた。しかし所期の目的、アルゼンチンタンゴを見に行くためにそのさわりだけでも知っておく、それは達成したことに成るのかもしれぬ・・・・。アルゼンチンに一緒にゆくa君に聞いてみた。音感が良く、運動神経も抜群、遊ぶのも大好きな彼「どうだ、君もやってみないか。」というつもりであったが、あっさり「アルゼンチンタンゴ。むかし、やっとことがある。コンチネンタルタンゴとは全然違う動きをする。」など言っていた。負けた・・・・・。
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