1301「枕草子再読」(1013()曇り)

 

通信1292で徒然草を再読したことを書いたが、それに続けてこちらを再読。

やはり高等学校時代に買った書籍で枕草子通解、明治書院発行、金子元臣と橘宗利という人の共著。箱に入ったその本は読んでいるうちにばらばらになってしまいそうだった。金子氏は序に「私が枕草子研究の結晶としてつとにその評釈を発表し、学界に大いなる衝動を惹起したことは洵に望外の幸であった。・・・・昭和41月」とあり、橘宗利が昭和30年入試対策なども加味して大幅に改定したもののようである。

本文は上段に原文、下段に口語訳が並べられている。原文で意味のはっきりしないところは下段を読みながら進めていった。徒然草に比べると文章は難しく1か月くらいかかったように思う。また全体の理解を深めるためにNHKテレビテキスト山口仲美「清少納言枕草子」を読んだ。

清少納言はあまり身分の高くない官僚清原元輔の娘として966年ころ生まれ、993年というから27歳くらいから一条天皇の后、中宮定子に女房としてつかえるようになる。定子より10歳ほど年上の彼女は、彼女と相思相愛の様な中であったらしい。しかし中宮定子は父の藤原道綱が早逝し、宮中での勢力は藤原道長の娘彰子に移ってゆく中、24歳の若さで他界する。枕草子はそれまでの7年の間に書かれた者の様だ。

何しろお妃に仕えている女官である、たいていのことは言える。本人の性格も軽く前向きであったように見える。橘によれば「才気煥発で、その才気に任せて、いいたいだけの罵倒や皮肉を浴びせ、機鋒縦横、さすがの有髭男子もその手の中に翻弄していた。」

山口氏によれば「およそ三百の章段からなる随筆集です。内容は大きく見て三種類。「池は」「草は」など、あるテーマを示し、それに関連するものを列挙してゆく「類聚的章段」、宮中での経験を記した「日記的章段」、そしてそのときの思いや考えをつづった「随想的章段」の三つです。」

読み終えて作品が書かれた目的を考える時、中宮定子の無聊を慰めるためではないか、と感じる。随筆の特色は、後から書き加えたり、章段の順序を変えたりする事が出来る。

身分の高級な女官など、暇なはずである。時々一日をどのように過ごしていたのか、と思う。十二単を着て部屋の中に閉じこもり、夜になり男が通ってくるのを待っていただけであろうか。その無聊を慰めるために、和歌を交えたおしゃべりであり、読書であり、実際に書くことであり、人々の集まりであり、それに備えたファッションにも忙しかったか。

このなかでできあがったものを読みながら皇后とおしゃべりし、さらに加筆訂正していたものではないか・・・・。なにしろ「定子は清少納言に寵愛の情を示し、清少納言は定子の意向をいち早く察知し定子の意にこたえようとする。」(山口)間柄だったのだから。

特に才気と奔放さは「類聚的章段」に特に感じられ、同時にそこには非常に鋭い第三者的観察眼が光る。第一段「春は曙。やうやうしろくなりゆく山際少しあかりて。紫立ちたる雲の細くたなびきたる。夏はよる。月の頃はさらなり。闇もなほ、蛍飛びちがいたる。雨などのふるさへおかし。秋は夕ぐれ。夕日華やかにさして、山の端いと近くなりたるに、烏の寝所へゆくとて、三つ、四つ、二つなど飛びゆくさへあはれなり。まいて雁などの・・・・。」

何故春は曙が、夏は夜が、秋は夕ぐれが特にいいのか、など詮索しても始まらぬが、このように断定するところが凄い。美的センスにあふれ観察眼の鋭いことはこの文章だけで十分理解できる。なぜ「烏の寝所へゆくとて、三つ、四つ、二つ」なのか。二つ、三つ、四つのように行儀よく並べないのか。論理的に考えれば次々疑問の感じる文章でありながらそこに、人々は何とも言えぬ美的センスを感じるのか。

そして観察眼の鋭さ。たとえば橘氏訳で58段の「おぼつかなきもの」たとえば「12年間叡山からおりずに修業する母親の気持ち。」、「新しく来た奉公人の気心も知れないものに、大切なものを持たせて、人のもとに使いにやったのに、帰りがおそいの」、「まだ口もきけない乳飲み子が、のけぞりかえって、人にも抱かれず泣いているの」、「暗いところでイチゴを食べている気持ち」よほど普段気をつけてみていないと見落としてしまう。

知識の豊富なことも光る。第37段は「木は」で始まる。かつら、五葉、柳、橘、そばの木、まゆみ、やどり木、榊、ひの木、かへの木、あすはひの木、ねずもちの木、おうちの木、山梨の木、椎の木、ときわ木、白樫、ゆずりは・・・・ちょっとした植物図鑑でも見るような気がしないか。

私は彼女自身、これだけの知識はなかったのではないか、と思う。それが書けたのは一つには知人に有力な情報源(中宮定子、周囲の女官あるいは里方の人々)があったこと、もう一つは一度でなく何度も気が付いたたびに加筆訂正したのではないか、と思う。

枕草子をその作成過程を推測しながら読むのも一つの趣向かもしれぬ。みなさん、如何ですか。

 

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