1304「「バカな外交論」を読む」(1024()晴れ)

 

高橋洋一。あさ出版。著者は1955生まれ、東京大学理学部、経済学部を出た後大蔵省に入省。内閣参事官等を経て、2008年に退官、とある。現在の政府の考え方と。書きぶりは一致しているように見え、説明が分かりやすく明快であるところがいい。

外交とは「貿易」と「安全」の話をすることである。「貿易」と「安全」は両者が密接につながっているという視点が必要だ。外交に国益がかかわっている以上その動向は国民の利害に直結する。経済的な結びつきが強ければ、軍事的結びつきも強くなる。その反対も然り。貿易は戦争が起こる可能性が極めて低い国、すなわち安全保障条約が結ばれており、軍事的結びつきが強い国と行うことが前提となる。貿易が盛んなことは必然的に安全保障上の関係も強まる。

先ず貿易について日本のみならず世界を良い方向に導くためには「自由貿易を進めること」が最良の解である。なぜかと言うと「貿易が自由になるとそれぞれの国が豊かになる。」からだ。そして豊かになった国同士は戦争をしなくなる。

貿易を論じる時に「日本の貿易収支が赤字になって大変」と騒ぐ者がいるが間違っている。貿易収支ではなく経常収支が赤字になってそれ続いた時に初めて問題になるのだ。

貿易自由化がそれぞれの国を豊かにすることをグラフにより、生産者余剰と消費者余剰の和が大きくなることから説明している。こういうと「打撃を受ける分野は見捨てるのか。」と言われるが、自由貿易によって増える国内消費余剰は自由貿易によって減る国内生産者余剰を必ず上回り、国際市場で勝負できる自国産業が、外国で得る生産者余剰も上回る。その全体的なメリットを国内で再配分することにより、文字通り「誰も損をしない状況」を作り上げることができる。

そのような観点からTPPの意義は大きい。日米の安全保障を考えれば、やはりTPPに参加することが日本の生き筋といえよう。自由貿易体制についてただ一つ気を付けなければならないのは「勝てる」分野すら見込めない国もあるという事だ。先進国が率先して発展途上国を優遇するような規制は必要だろう。

安全を「民主主義の国同士は戦争をしない」は「民主的平和論」という国際政治学の理論をベースにしている。国内外で民主的プロセスを踏むことが当たり前になっているため、たとえば軍部が暴走して侵略戦争に突き進む、相手国との対話を無視して攻撃を仕掛ける、といった極端な軍事局面が起こりにくい。逆に同じ国家体制であっても独裁国家同士は戦争になる可能性がある。日本にとっては体制が異なる中国と北朝鮮が最も身近な脅威になるであろうから、先手を打って同じ体制の国々たとえば米国、韓国と手を結んでおくことが必要である。集団的自衛権については「人間同士と同様、国同士でも「困ったときはお互い様」という信頼関係があってこそ、自国の危機のときも助けてもらえる。気構えを見せる必要がある。

なお「紛争は国連で解決すればいい」はおめでたすぎる。国連は機能するときもあればそうでないときもある。安全保障は国家の自己責任、いざというとき困らないような体制を自分で作っておく必要があるのは当然である。

自由貿易はウイン・ウインの関係になるが、中国はどうしても積極的に自由貿易を勧めることができない。固定相場制は一部の特権階級の利益を守るものである。自由貿易を勧めると、一党独裁制が崩れる可能性が高いからだ。「国際金融のトリレンマ」という理論がある。次の三つの政策は同時に勧めることができない。

@    固定相場制 A金融政策の独立性 B自由な資本移動

自由貿易を進めるためには、自由な資本移動と金融政策の独立性を取る必要に迫られる。つまり固定相場制をあきらめなければならない。

そんな中、これまで順調であった経済成長がそろそろ頭打ちになるとみられ、中国経済が抱える闇が噴出する恐れがある。アーサー・ルイスの唱えた「ルイスの転換点」という経済理論がある。経済発展初期の国々は小さな「近代的セクター」と農民を中心とした「伝統的セクター」から成り立っている。伝統的セクターは余剰労働力の源であり、彼等が「近代的セクター」に移ってくることで経済発展する。然し余剰労働力はいずれ限界点に達し、そこで経済が一気に停滞へ転換する、これがルイスの転換点だ。これを乗り越えるにはこれまでの余剰労働力とは別種の経済のけん引力が必要となる。たとえば経済構造の変革だ。いままさにルイスの転換点に差し掛かっているのが中国なのだ。どのように越えるか、日本にどういう影響があるか十分にウオッチングする必要がある。国民の眼をそらそうと軍事力に訴える可能性が無いとは言えない。

最後に外交問題で分からない時「川を上れ、海を渡れ」(歴史を見よ、海外を見よ)は至言。また報道には間違ったものや誤解に基づく物が多々ある。そんなとき「英語で説明できるか」と問いかけることが重要という考えに賛成!

 

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