1311「「戦国大名の失敗と研究」を読む」(1116日(日)晴れ)

 

歴史を考える時にそのようになった根本的原因は何か、ほかに道筋はなかったか、現代に生かすべき教訓はないか、そんな眼で見たい。この書は戦国史そのものを俯瞰し、そこから現代の政治に対する助言をくみ取ろうとする観点から描かれていて興味深く思えた。

著者は1965年生まれの作家・政治史研究家。

冒頭に映画「ゴッドファーザー」でボスが瀕死の重傷を負った時の部下の会話が紹介されている。

「もし親父が死んだらどうする。そうしたらなんと助言する」相談役の答「おやじさんの影響力無くしては力は半減してしまう。」いつの世も人は計算だけで動くものではない。人間関係をベースにゆっくりと動いてゆく。それが出来まいというのだ。

マフィアのドンの死と同じようなことが武田信玄が死んだあとにも起こった。

武田勝頼は武力、知力のある男ではあった。長篠の戦では、ここでは資金、物量両面でかなわぬ相手への挑戦であった。しかし著者が指摘するのは織田、徳川という強力なライバルを前に上杉謙信の跡目争いで、従来の盟友北条との関係を捨て、自分には助けにならない上杉と軍事同盟を結んでしまったことからおかしくなった。

しかし多くの日本人はその誤りを知りながら、太平洋戦争直前に日・独・伊三国同盟を結んだではないか。あの同盟は日本に何のメリットをもたらす、あるいはもたらす可能性があったのだ?

TVでは官兵衛が終わりを迎えようとしている。

「戦国時代の外交の特異なケースとして徳川家康の「対織田基軸外交」がある。織田信長という表向きはパートナー、実質的には隷属に近い同盟は、変転の激しかった戦国時代において、奇跡的なほど一貫した安全保障関係を保った。」

としたうえで、著者は戦後の日米関係をあげ、本質は変わらないとする。

有事に米軍の支援を想定し国土を守る、米軍の影響力を利用しつつ安全保障を測る、逆に米国は日本を足掛かりにアジアに安全保障上の影響力を誇示する、日本は米国と協調しながら世界への発言力を確保する、ともに同盟関係に基盤をおい経済的利権を測る、などである。(50P)

家康の戦略はその後の「対秀吉基軸外交」においても変わらなかった。そしてその秀吉が他界する。

情勢はおおきく変わったのである。関ヶ原の天下分け目の戦い。西軍が勝てなかったのは、石田三成の人柄と戦略そのものにあったのかもしれない。

西軍1124000石、東軍968万石、西軍82000、東軍74000の兵士、

三成は大阪城を抑えていたし、解任されたとはいえ豊臣現政権を長く支えてきた実力者。

ところが南宮山の小早川秀秋の寝返りだけを基点に形成は一挙に逆転、西軍の大敗となった。

大阪城に戻り、立て直すことも考えられたが吉川広家が家康に「毛利輝元は秀頼公をお守りするため大阪城に入ったのであり、石田三成とは何の関係もない。」と内通し、家康は西軍敗北後に粗略にしないことまで受け入れていた。もちろん淀殿にも秀頼にも家康と戦う気など全くなかった。

しかしその後家康は、かなりの時期、豊臣政権をつぶそうとは考えていなかったのではないか。

家康はいつ豊臣家を滅ぼそうと考えたか。著者は4つの時期に分けて考えている。

@    関ヶ原の合戦から1605年徳川秀頼が征夷大将軍に就任するときまで

「秀頼さまを支えて行く」と公言している。豊臣系の大名を優遇している。この時点では自己の正当性を強調し、勢力を温存するのに精いっぱいであった。ナンバー2は常に狙われるのである。

A    1609年に篠山・亀山に譜代大名を配置した当たりまで

豊臣家を尊敬しつつ、対抗措置を取り始める。伊達正宗など有能なものを残す一方、前田茂勝を改易し譜代大名を送り込む。従来の西国=豊臣自治権不介入政策を改める。

B    1611年二条城で豊臣秀頼と徳川家康が会見するまで

家康70歳、秀頼19歳。加藤清正、福島正則等が必死で秀頼を守り、家康は彼等の結束の強さを認識する。同時に立派になった秀頼を見て、倒さねばならぬと実感する。家康は自己の死後を考える。全国の大名には「三か条の誓紙」をださせ徳川への忠誠を誓わせる。

C    方広寺鐘銘事件を経て開戦まで

この段階では家康はもう戦うと決めている。太平洋戦争におけるハルノート、中国のチベット侵攻時と同じである。中に入った片桐旦元や大蔵卿は翻弄される。

・・・・自分の死後についてあの秀吉もおそれた。しかし晩年彼はボケて、時代を見通す余裕を失った。朝鮮出兵や関白秀次を死に追いやったことなどその表れか。秀頼の天下がかなわなかったのは自然の流れというものか。最後に天下餅を食うことに成った徳川家康。その言葉には重みがある。

「人生は重荷を負うて、長き道を行くが如し。急ぐべからず」

 

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