1328「アパートの新しい客」(116日(金)晴れ)

 

アパート経営は私にとっては社会のいろいろな面を見られる良い機会である。世間には本当にいろいろな人がいるものと思う。

今日もa不動産屋から電話

205号室はまだ空いていますか。すぐ住めるようになっていますか。」

205号室のあるアパートは実に古いアパートである。築40年以上。いまだにバランス釜を使い、洗濯機は外に置く。しかしその分家賃を安くして募集している。

「空いているよ。」

「大阪から来た若者二人ですがどうですか。今夜から泊まれますか。」

「私のアパートはホテルではないよ。どんな人たちかわからぬし、申し込みも契約もまだではないか。それがすんでからだ。」

正直こんな客は初めてと感じる。しかし205号室は7月に客が出て以来、空いている。客は欲しい。

咄嗟に私はつい二、三日前に起こった話を思い出した。b不動産屋から「奈良から出てきた友人同士なのですが、借りられますかね。」「どういう職業なの。」と聞くと「まだ無職です。これから就職先を探すそうです。」「保証会社は保証するならいいよ。」「収入が無いから保証委会社は保証してくれません。親じゃだめですか」「親は何をしているの。収入は。」「まだ聞いてません」「親がはっきりした収入があるならいいよ。或いは親と契約して保証会社に保証してもらうか。」

このケースは、結局何も言ってこなくなった。今日も同じようなケースに見える。ひょっとしたらこの前の客がa不動産屋に回ったのかもしれない。この話は、私はまた潰れるだろうと、其のままにして外出した。ところが戻ってくるとファックスが入っていた。

岡山出身の大阪の若い男二人。身分証明代わりに運転免許証。c君、d君。

c君は就職しているが、d君は無職。c君の親が大阪で商売をしており、年収600万とあった。

不動産屋に電話すると

d君はお父さんの関係の会社で働くらしく、あてはあるようですが、まだ決まっていないようです。契約書とお金は夕方持参します。」

よさそうな人間か、日本人か、生活に困窮していないか、猫や犬はいないか、など聞いてみるが全く問題なさそう。

「契約は二人で共同契約は嫌だよ。責任が不明解だ。」

「一人にしてもらいます。保証人は両方の親になっていただきます。d君の方は最近お父さんが亡くなったとのことですが、お母さんに保証人です。彼女はアパートなど持ち収入は安定しているようです。」

そこまで言うのならいいだろう、という話になった。

「日割り分を払いますから、今日からお願いします。」

どうやらホテル暮らしをしているらしい。ホテル代に比べて家賃の方が安いから今日から利用という事なのだろう。

「今日からって、夜具はあるのかい?」

「ないでしょうね。でも構いません。7時ころ彼等を連れて伺います。」

その時刻になって不動産屋がやってきた。金を受領し、契約書に捺印。

「彼等を車で連れてきていますから会いませんか。」

若い一見したところでは感じの良い男たちであった。子供っぽい顔をしているが、二人とも24歳というからそれなりの社会経験を積んでいるのであろう。

挨拶をかわし部屋に案内する。彼等は海外旅行でも行くようにキャリーバック一つでついてきた。

いまどきの冬は寒いだろうと、不動産屋が帰った後、ありあわせの毛布を持って行ってやった。

23日借りていいですか。」「どうぞ」

205号入居顛末記は以上であった。

無茶だなあ、と思いながら彼らの若さに任せた行動力を羨ましく感じた。そして最近は自分自身こういう当たって砕けろ、みたいなワイルドなところが無くなったな、と感じる。海外旅行でさえおっくうに感じパックツアーを利用している。

追記(翌日) 205号室は私の茶の間から見て塀の向こうに或る。食事が終わってそっと見上げると電気がついており落ち着いた様子。22日に引っ越し荷物が届くのだと言っていた。さっき電話があった。「インターネットを引いていいか。」了解した。彼等はこれからどういう道を開いてゆくと言うのだろうか。

 

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