1365「「父という病」を読む」(6月14日(日)晴れ)
著者岡田氏は1967年、香川県生まれ。京都大学医学部卒業後、長年、京都医療少年院に勤務したのち岡田クリニックを開業。パーソナリテイ障害、発達障害の最前線に立ち臨床医として若者の心に向き合う、とあった。
こう見えても3人の子の父親役を果たし、またそれぞれが築いた家庭の父母と子達の関係を見て来た私には教えられるところが多かった。特に世間の父親より母親にこの書を勧めたいと感じた。
父親とはなんであろうか。前書きを抜き書き的に書き出してみると・・・・。
母親との関係は妊娠、分娩、哺乳と言った生物学的結びつきによってお墨付きが与えられている。しかし父親との関係は生まれてくる1年近くも前に、母親となる女性と愛し合い精子を提供したという事以外に、生物学的結びつきは乏しい。
父親が子育てにかかわる種は、哺乳類のせいぜい3%程度とされ、しかもその役割は母子を外敵から守るなど補助的なものだ。牧畜狩猟時代はそうであった。しかし農耕生活では社会のおきてやルールに沿った行動様式が求められ、父親は家父長として一家を率いるとともに子供に共同体の掟を教え一人前の構成員に育て上げる役割を担った。この段階で父親は畏怖すべき絶対的存在であった。
ところが近代工業化社会のもとでは父親は大規模な工場や社会に吸い取られ、再び子供の前からいなくなった。黙って仕事に行き、給料を持ってくればいい存在になってしまった。
今や母親と子供だけで暮らす世帯は111万世帯、父子で暮らす12万世帯に比べ圧倒的に多い。子供にとって父親の母親に対する必要度は10分の1というのが冷厳な評価なのかもしれない。
然し父親不在が、子達に影響がないかというとそうではない。子供の非行の問題で考えると圧倒的に母親のみで育てられた場合が多い。・・・・つまり母親はより重要だが、母親だけではやはり子供の成長に困難を抱えやすい状況だ。
父親が不在でも母親がしっかりした父親像を持ち、肯定的な気持ちを持っていれば子供は父親の不在を乗り越え好い父親像を取り入れ自分の中に取り込むことができる。母子家庭の場合、これができないと母親を卒業できず、融合したままの状態に陥る。結果:@母親に執着A誇大な願望と自己コントロールの弱さB不安が強くストレスに敏感C三角関係が苦手D学業や社会的な成功にも影響Eセイテキアイデンテテイの混乱F夫婦関係や子育ての問題 などを抱えかねない。
親の不在を抱えて育った子供は、その不在をどうにかして埋めようとする。書店に最近国際政治学者ハンナアーレンという人の本が並んでいる。ドイツ出身のユダヤ人女性で、読書好きの子であったが、幼くして優秀な電気技師であった父親と死に別れている。そして子ずれの新しい父親が出現する。その気持ちからか、あの哲学者ハイデッガ―と不倫関係を結ぶようになる。しかしナチス政権下でハイデッガーは彼女との愛を清算するが、ナチス政権崩壊。二人は再開し、以後彼女はハイデッガー擁護に回るようになる。著者は「ハンナの生涯は父親を痛ましい形で失い、その試練を乗り越えて父親を取り戻し回復させようとする闘いだったともいえるだろう。」と著者は述べる。・・・・このようにこの書には多くの例が書かれ、興味深い。
時折母親によって悪い父親像がつくられてしまうことがある。核家族化したうえに子供の数が減り、夫も不在がちになる中で母子の結びつきは強くなり、双生児親子とか母子カプセルと呼ばれるものになる。子供をめぐる母親と父親の戦いにおいて、母親は「父親がいかにひどい存在であるかを吹き込む」ことがおこる。子供は父親を追い出す母親は当然と思い、母親に同情し、父親にひとかけらの憐れみを賭けることすらない。
ただそれは青年期に達するまでの話である。早い子であれば中学生になるころから母親のまやかしに気付き始める。父親を排斥するために並べ立てる口実に苛立ちを覚えるようになる。お前なんかに独占されたくなかった、お前の勝手な都合で私の父親を奪わないでほしい・・・。
子どもは怒りを母親にぶつけ始める。母親はあわてる・・・・。
また母子の結びつきが強いと子の将来にまで影響を与える。密着しすぎていた場合、友人も、恋人も、配偶者も、母親に比べれば、本当には信頼できない。結婚した場合も恋愛状態が覚め、性的な結びつきが薄れて行くころには、異物感ばかりが強まり次第に違和感を覚えてくる。驚くべきはそうした状況における母親の態度で離婚を思いとどまらせるどころか、娘に旦那の悪口をいい離婚をたきつける・・・・・。
この書の結論であろうか、著者は言う「結局子供には母親も父親も必要なのだ。乳幼児期においては母親の役割は圧倒的に重要なのだ。・・・しかし子供が大きくなるにつれて父親の役割は増大してくる。母親からの分離を助けるとともに、子供に世の中の掟や厳しさを教える…行動や知的好奇心を刺激する。・・・・社会へと誘う導き手として、エスコート役、コーチ役、ときには反面教師役を果たす・・・。」
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