1381「「国を守る責任」を読む」(8月12日(水)晴れ)
集団的自衛権行使を可能とする安保法案が衆議院を通過し、参議院でいろいろ議論されて国民の関心を集めている。自分の意見を声高に主張する以前に、この問題で直接影響を受ける自衛官の声をまず聴くべきではないか、という気分でこの本を読んだ。
著者折木氏は防衛大学卒業後第三代統合幕僚長になった人。1950年生まれ。
著者はまず国民の自衛隊に対する印象が改善したことを喜んでいる。内閣府による「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」によると自衛官に対して「良い印象」を持つ人の割合は1972年には58.9%であったものが2015年には91.2%に改善している。
然し一方でわが国では安全保障に関する議論が成熟しきっていないと嘆く。冷戦時代以降、世界の安全保障状況は大きく変わっている。「平和」を今後も謳歌し、確固たるものにしてゆくには世界情勢や、脅威をもたらす「相手側から見た視点」を踏まえた議論が前提となる、そこを理解してもらうために書かれた書である。
冷戦時代は「恐怖の均衡」のもとで世界は安定していた。それが終ったと考えてアメリカの政治学者フランシスフクヤマは「歴史の終わり」という仮説を立てた。国際社会において民主主義と自由経済が最終的に勝利し、それからは社会制度の発展が終結し、社会の平和と自由と安定を無期限に維持するという仮説である。これに対しサムエル・ハンテイントンは冷戦が終わった現代世界においては、文明と文明との衝突が対立の主要な軸であると述べた。
実際には冷戦終結の翌年には「武力で国境線を変更しない」という国際社会のコンセンサスがイラクのクウエート侵攻によって簡単に破られてしまう。中東は日本の命綱である。各国の幕僚が集まる作戦会議。日本は直接作業は行わなかったが130億ドルを拠出したと主張した。しかし有る高官は「日本国民一人1万円か、それさえ払えばペルシャ湾に来なくてよいのであれば、俺はいまここで払うよ」とったとか。
日本の場合、喫緊の問題は隣国中国。中国の「核心的利益は「共産党一党独裁体制の維持・強化にある。」そのための最終的到達地点は南シナ海や東シナ海の支配、新疆ウイグルやチベットの独立阻止だけでなくいつかはアメリカと張り合う、あるいは分け合うくらいの強大な国家になることか。
尖閣列島問題は2010年の中国漁船拿捕、そして変換から始まるがその一部に過ぎない。
中国の戦略は「危機を利益追求の好機としてとらえる傾向が強い。」第二に「危機を作り出した原因は相手側にあるとして、自国を受動的な立場に置き、行為の正当性を主張し、行動する。」。そして世論戦、心理戦、法律戦からなる参戦を仕掛ける。都合の悪い安倍内閣には憲法改正論議、積極的平和主義を「戦後の世界秩序に対する我儘な挑戦」と位置付け、尖閣諸島の領有権主張、首相の靖国神社参拝問題、教科書問題という歴史認識三点セットを国内、海外向けの宣伝ツールとし、アメリカ、韓国などを巻き込んで国際問題化しようとしている。
既に中国、特に海軍は三十年、四十年前から近代化を進め、まだアメリカ等との差はあるものの国産空母を進化させるなど急速に軍事力を強化している。台湾、尖閣尉列島を含む第一列島線、日本本土どころかグアムまで含む第二列島線を定め、2020年には第二列島線まで進出。其の後も実績を積み上げ海軍大国の仲間入りを狙っている。
地図を我々は日本を中心にいつも見ているが中国を中心に見ると日本から南西諸島における国や島々がぐるりと取り囲んでおり、これを打ち破りたいのだ。南シナ海は現在米軍の軍事支援基地があり守っているが、いくつかの島の領有権を主張し、埋め立て作業を強行し、軍事目的の滑走路等を作りつつある。しかし日本にとっては中東から石油などを運ぶシーレーンにあたる。その自由な航行は日本として譲れない。
2013年に閣議決定されたわが国初の「国家安全保障戦略」は「国際協調に基づく積極的平和主義」を掲げている。簡単に言えば「国の平和と安全、繁栄」である。私ならそれを安全保障環境の変化を踏まえ「自由度の確保」と表現したい。
今回の安保改定が行われれば、国際連携平和安全活動に基づく停戦監視、被難民救済などに加え、安全活動業務、駆けつけ警護などができるようになる。武器使用基準が緩和され、離れた場所で武装集団に襲われたNGOなど民間人救出、PKO活動以外の人道復興支援などができる、日本の存立が脅かされる「存立危機事態」となれば、ホルムズ海峡のような日本から遠く離れた地域でも、機雷掃討作戦などを行える。
最後に安保改定について、今朝の日本経済新聞、「戦後70年これからの世界」という記事にあった緒方貞子氏の発言を記しておく。「法案によって何ができるようになるのか、どのような世界に役立てるのか、其の見取り図を政府がしっかり説明するべきだ。」とする一方で「日本人が危ないところに行かず、自分たちだけの幸せを守って行けるような時代は終わった。」
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