1421「杜甫の「春望」を吟じる」(1月5日(火)晴れ)

 

国破れて山河あり、城春にして草木深し、

時に感じて花にも涙をそそぎ、別れを惜しんでは鳥にも心をおどろかす、

烽火三月に連なり、家書万金にあたる、

白頭掻けば更に短く、すべて簪に耐え坐らんと欲す

この漢詩は高等学校の漢文の教科書に載っているから大抵の人は知っていると思う。また最近では氷川きよしの「白雲の城」の最初に歌われる時が良くある。

11月に新宿区の大会で「幾山河」を吟じた。我が霞穂流の新年会が2月に行われるが、私はこれに続いてこの詩を吟じることにし、目下練習中。

意味は国が負けて破壊され尽くしたが、大自然の山や川は依然としてそのままである。時世のありさまに感じて私は花に涙を流したり、飛び立つ鳥に驚いたりする。闘いののろしは三か月に及んでつづき、家族からの便りは何にも代えがたい。頭を掻くと心労のため毛は短くなり、宮中に出る時にかぶる冠を止めることができないのではないか、と思うほどである。・・・・最後の一節がどうも女々しいように感じられるが、仕方がない。

この詩は757年中国が唐の時代。作者は46歳。楊貴妃におぼれて国政を顧みなかった時の玄宗皇帝に対して重臣の安禄山が起こした。首都長安が敵中に落ち、杜甫(712-770)は軟禁されてしまった。都の春景色を遠望し、自然の悠久と国の戦乱を比べ、自らの不遇をこの詩を詠じたという。

杜甫は、李白と並び称せられ、中国詩史の上で偉大な詩人である。二人は洛陽で巡り合彼は、あの李白と互いに認め合う仲で、二人の詩の贈答が残されている。年上の李白を、杜甫が慕い、李伯は、若い杜甫の才能を認めていたという関係らしい。

日本語で吟じるわけだが、中国人が読む場合、どういう風になるのだろう、と考えた。

まずは正確な漢詩とピンインである。中国語の古典については、例えば論語について「http://www.gushiwen.org/guwen/lunyu.aspx」なるサイトを開くと、大抵の古典にアクセスできる。丁寧に詩の意味(説明は中国語だが)や作者についての記述まである。ピンインは別のサイトで調べることができる。

春望 chūn wàng 杜甫dù fǔ

国破山河在,城春草木深。 guó pò shān hé zài chéng chūn cǎo mù shēn
泪,恨别鸟惊心。 gǎn shí huā jiān lèi  hèn bié iǎo jīng xīn
烽火三月,家抵万金。 fēng huǒ lián sān yuè  jiā shū dǐ wan3 jīn 

搔更短,欲不簪。 bái tóu sāo gēng duǎn  hún yù bù shēng zān

漢詩のうち、一首が4句から成り立つものを絶句、8句から成り立つものを律詩という。五言のこの詩の場合は五言律詩という。律詩は2句をまとめて聯という。詳しくは第一・二句を首聯,第三・四句を頷聯,第五・六句を頚聯,第七・八句を尾聯と呼ぶ。この詩でも2句づつ対になっていることはなんとなくわかる。

中国語には声調がありこれを表すものが平仄、そして漢詩ではこの平と仄をあんばいよく織り交ぜて詩を作らねばならない。ただし現代中国語と必ずしも対応せず、日本人には難しいのでここでは省略。もう一つ、押韻というものがある。律詩の場合、偶数句の末尾で行う。この詩の場合、「深」、「心」、「金」、「簪」の発音が日本語流でいえば皆「ん」で終わりなんとなくあっていると感じる。こんな風に考えると少し親しみがわいてきた。

ところで、詩吟は中国の漢詩などをもとに日本で発展させた文化である。

単に漢詩を読むだけ、それをどう読もうと勝手である。それに上手下手をつけることはおかしい。

それでも4行詩は大体パターンが確立されている。詩吟教会やレコード会社がそれぞれ独自のメロデイを作りこれに合わせて歌えという。しかし律詩以上の長い漢詩はそんなに歌われぬから、みな感情の赴くままに勝手に歌っているに近い。白居易の「長恨歌」を吟じるやつはいないかと思うが、あれは120行の長編、どうやって吟じるのだろう。関西の同年輩の知人は詩吟が得意というから今度聞いてみたい。またガールフレンドのAさんが教会に聖書を詩吟で歌っている者がいると聞いた。どうやってメロデイを考えるのだろう?

とは言いながら「春望」を私の霞穂流の新年会で歌うときは別。有名だから霞穂流としての節のつけ方がある。それにのっとっていなければ何を言われるか知れたものではない。杜甫が聞いたら腰を抜かす節回しかもしれない。しかし郷に入っては郷に従え!そこで目下練習中。雨戸はちゃんと閉めている・・・・・。

 

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