1452「また新宿区吟剣詩舞の集い」(4月29日(土)晴れ)
「新宿区吟剣詩舞の集い」が開かれ、私は今回は和歌「わが胸の」を吟じた。
わが胸の熱き思いにくらぶれば煙はうすしさくらじま山
平野国臣(1928-1964)という人の句。福岡の藩士で攘夷派、西郷隆盛などとも親交があった人だ。倒幕を目指して挙兵を図るなどするがとらえられて維新を待たずに獄死した人である。それほど有名ではないが、詩吟ではよく歌われる吟。
横道にそれるが、どういうわけか詩吟の世界では特定の漢詩、特定の和歌だけが吟じられる傾向が強い。好きなものを好きなように節をつけて吟じるだけなのだが、あまり突飛なものは少ない。詩吟を離れて漢詩という世界で見ると、李白、杜甫に、形式も律詩、絶句に限らずずいぶん変わったものがあるように思う。いつか大橋巨泉の万年筆広告「みじかびのキャプリキとればすいちょびれ、すぎ書きすらのはっぱふみふみ」を詩吟でやりたいと言ったら「バカなことを言うな」と厳しく否定された。
さて本番、やはり緊張する。私の吟じるのは2時ころになると予想されたが、それまで弁当をお預けにした。声は腹が減っているほうがいいのか一杯のほうがいいのか、そんなことまで気にした。私の声については「高い音が出るが、時々しわがれ声になったり、割れたりすることがある。」との批評されている。自販機で冷たい紅茶を用意し、それをチビリチビリやりながら、本番直前まで4階の練習場に行って声を出すことを試みた。
詩吟の世界は、私は今のところ趣味の世界と決めている。こんな引退した年寄りでもいろいろ雑事が忙しい。ほかの趣味もある。それゆえ没頭する気にはなれぬ。しかし上手にはなりたい。そこで目標を絞って、1日20-30分くらいに決めて練習することにした。この2か月ほどは、この句ばかり1日6、7回歌ったり自分の吟を録音機で聞く作業をくりかえしている。
声は歌っていないとすぐに出なくなってくる。本番では自分が普段やっている通り力を出すことが大切だ。しかしそこまででそれ以上の力を出すことはできぬ。だから本番前にも声を出してみることが大切なのではないか、と思う。そしてその段階で小修整があれば入れてもいい。
練習中に、名人のa氏がほかの人の吟に「出にくい音は切って出せ。」というようなことを言った。そして私の吟に「高音は自然に、上がりすぎている。」和歌の詩吟は、序詠と本詠、二度吟じる、2日前のb先生の指導で本詠の最後の「さくらじま」ハ3(ミ)から7(ド)にあげるがそれがうまくできていない、と指摘された。a氏の助言を受けて3(ミ)の「さ」と7(ド)の「くらじま」を切って、自然に歌うように修正した。
本番、メロデイが流れ出すとそのままあとは勢いで吟じてしまった。
終わってしばらくしてb先生は「最後はよくできていた。」とほめてくれたが、某氏は「途中は腹がゆるんでいる。」と厳しい。声が腹から出ず、胸から出ているということらしい。別の某氏は「気分で歌っているところがある。回しのところで音が飛ぶ」という。「さくらじま」と吟じた後、「シラファミ」とあの母音で下げてゆくのだが、ラやファが抜けることがあるという意味のようだ。この辺は次の時に生かしたい。
私以外の話。a氏はcという人が腰痛で来られなくなったため、「城山」の板吟を即興でやっていた。さすがだと思うのは城山で戦闘にやぶれ、死ぬことになった西郷隆盛の雰囲気を実にうまく吟じていた点だ。もっともこのときの舞のほうはおじいさんで、まだまだであった。足元がふらつくし、剣の振り方もあれでは人は切れぬ。しかし後の宴会で聞いた話では「あの人は80歳を相当に超えている。剣舞は月に二回でまだ半年、すごいでしょう。」との話、その情熱に乾杯したくなった。人生、弱気になってはダメ、挑戦する精神が必要!!
詩吟は全部聞いていたわけではないけれども、やはり最後のほうに出てくる人はうまい。声が通っている、安定していることもあるけれども、感情移入が十分でその雰囲気に合った歌い方をしている。冽風流の二人の「獄中の作」「峨眉山月の歌」が印象に残った。前者は幕末の思想家で安政の大獄で斬首された橋本佐内の句。獄中の様子がよく出ていたように思った。それにわが霞穂流で一番といわれるd氏の「真田幸村」、力強い吟ぶりに合わせて雰囲気が出ていたように思う。
終わって関係者の宴会。今日は男性主体のわが霞穂流のメンバーに女性主体の千峰流のメンバーが合流し、その分華やいだ。最後に詩吟は結局は音程等を超えると雰囲気をいかに出すかがテーマになると思う。歌謡曲でも同じだ。カラオケ機会は音程が楽譜通りかいなかまでは採点できるけれど、それ以上はできぬ。この次私は菅原道真の「東風吹かば」を吟じる予定。あの雰囲気はどう出せばいいのか?
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