1463「「お金の流れでわかる世界の歴史」を読む。」(6月7日(火)晴れ)

 

著者は元国税調査官、しかし30冊を越える著作を発表しているとか、一般人にわかりやすく書かれている。歴史には戦争、政治、宗教、民族問題いろいろ絡んでくるが、その背後に利害関係「お金の流れ」があることも事実で、切り口が面白いと思った。

古代エジプト、ローマに始まり、ユダヤ、中国、モンゴルとイスラム、スペインとポルトガル、エリザベスのイギリス、ナポレオン、「イギリス紳士」、ロスチャイルド、明治維新、「世界経済の勢力図」を変えた第一次大戦、第二次世界大戦の収支決算、ソ連崩壊、リーマンショックとそれぞれに絡むお金の問題を本質的に取り上げている。その一部を紹介してみたい。

第一次大戦後、講和条約としてベルサイユ条約が結ばれ、責任は一方的にドイツにあるとされた。植民地はすべて取り上げられた。人口の10%を失い、領土の13.5%、農耕地の15%、鉄鉱石鉱床の75%を失った。賠償金はおよそ330億ドル、ドイツの税収の十数年ぶりに当たった。これほどの賠償金を払うことは不可能、という声が聞かれたが強行された。

ドイツは、1923年ころのハイパーインフレは「レンテンマルクの軌跡」で何とか乗り切ったが、1929年のアメリカ発の世界恐慌で再びピンチに陥る。そこで登場したのがヒトラーでドイツ経済を短期間の間に回復させた。各国の経済ブロッック化が進む中、ドイツは「アウトバーン」の建設計画、労働者保護政策の実施などで立ち直った。

しかし、その後狂ったように領土侵攻に乗り出す。ドイツとしては巨額の賠償金を払わねばならぬのなら、植民地と国土を返してほしいという気持ちがずっとあった。ベルサイユ条約で国際連盟は民族自決の方針を打ち出していた。そこで「オーストリア住民がドイツと合併することを望んでいる。」としてオーストリア併合を強行した。チェコのズデーデン地方にも同じ運動を起こさせ、ドイツ割譲を認めさせた。これに慌てたのがイギリスとフランス。ようやく19385月ミュンヘン会議でヒトラーが「これ以上の領土は求めない。」と確約した。英仏代表やヒトラーは「世界に平和をもたらした。」と賞賛され、ヒトラーはノーベル平和賞候補にさえ上がった。

ところがヒトラーの欲望おさまらず、次にポーランド回廊を要求、ついに1939年にドイツ軍にポーランド侵攻を命じた。フランスはわずか2か月で降伏、イギリスは本土に逃げ帰った。アメリカは孤立主義、欧州戦争への不参加の方針をとっていたがドイツの「欧州新経済秩序」に当惑する。ドイツ占領地域ではマルクを通貨とし、マルク通貨圏内では資本、労働力、商品の行き来を事由にするもので今のEUのような計画。ヨーロッパに市場がドイツに奪われ、世界の4割を持つアメリカの金が持ち腐れになり、経済大国の地位を失う、これがアメリカを参戦へと駆り立てた。

日本は綿製品の輸出によって国力を伸ばしたが、これはイギリスが市場を失うことを意味する。そこでイギリスは関税障壁を高くし、日本を締め出そうとした。そこで日本は中国に販路を拡大しようとした。満州にはアメリカが野心を持っていたが、日本はさらに大事なお客様であった。そのため日本に強い抗議はしなかったが、変わったのは日本が「東亜新秩序」を宣言したからだ。日本が東アジアの盟主となり、アメリカは大きな市場、資源を失い、しかもそれを東アジア全体にまで広げる・・・・アメリカにとって許せないことだった。このようにして経済支配地域獲得を目指して列強同士が激しくぶつかり、日本、ドイツ、イタリアの手痛い敗北により、大戦争は終わる。しかし戦勝国もまたそれに匹敵する損失を被った。東南アジア、インドを失う。「自由主義対全体主義に戦い」ではなく実は「帝国主義経済崩壊への戦い」であったのだ。

12章に「ソ連崩壊・リーマンショック・・・・混迷する世界経済」として著者の現代に対する見解が述べられている。ソ連について「共産主義は究極の中央集権制度である」。崩壊したのは経済の失敗が最大の原因である。仕事を計画通りすることが求められ、その結果無駄が様々な面で現れた。それが極端な貧富の差を生んだ。「ソ連は平等だったから崩壊したのではない。むしろ自由主義よりも不平等だったから崩壊したのだ。」と説く。

西側諸国の経済も何度も大きな危機に見舞われた。その最大の要因はアメリカの凋落である。1944年のブレトンウッズ協定でドルは金と兌換しうる「金本位制」をとることにし、世界経済は世界の70%の金をもつアメリカを中心に回ることになった。しかしこの制度はアメリカの金が枯渇すればアウト。戦後の経済は、アメリカの一人勝ちではなく一人負けで動いた。その結果金本位制が崩壊してしまったが、アメリカは世界に金をばらまき続けた。そうこうしているうちにリーマンショックである。アメリカの住宅バブルの結果といえるが、少し長い目で見れば世界的なマネーゲーム化が大きな要因となっているだろう。

資本主義は根本的に貧富の差を拡大する。政府が様々の対策をとるものの追いつかぬ。それが激しくなり、現在の状態はフランス革命前のフランスとさえ似ていると著者は指摘する。世界のマネーゲーム化、貧富の差が拡大し続ければ、世界規模でのフランス革命が起きないとも限らない。

 

註 ご意見をお待ちしています。

e-mail address   agatha@ivory.plala.or.jp

ホームページ    http://www4.plala.or.jp/agatha/