1470「千字文という道楽」(627日)

 

古文書研究会という会に属している。同期のa君が「日本の古い字を現代人である我々が読めないのは悔しい。」と始めた。素人ばかりだが、それでも今まで奥の細道を完読し、今は伊勢物語にとりかかっている。その間に江戸時代のお触書等も時折読んだ。生徒の一人が「古いくずし文字が読めるようになることが目的」というので、それなら草書が読めることが基本だろうと考えた。その時に浮かんだのが千字文。

書道も2週に1度習っている。書道では千字文は基本教科書の一つ。先生が変わって千字文も話題になった。しかし1回の授業で10字程度ではいつになったら終わるかと心配されている。また先輩の一人はこの千字文をもう書いたことがあるとしている。

中国語も少しやっている。千字文は中国ではどうなっているのかと調べると、今でも幼い時に練習するとある。さらにその本文が見つかったが、こちらは文字を簡体字表記に変えてある。これを現代の発音で読みたくなった。

そんなことがあり、とにかく千字文というものを調べてみようと考えた。早速ウイキペデイアによる基礎知識の収集。便利な時代になったものだ。

*「千字文」は、子供に漢字を教えたり、書の手本として使うために用いられた漢文の長詩である。1000の異なった文字が使われている。

*「天地玄黄」から「焉哉乎也」まで、天文、地理、政治、経済、社会、歴史、倫理などの森羅万象について述べた、4字を1句とする250個の短句からなる韻文である。全体が脚韻により9段に分かれている。

*南朝・梁 (502-549) の武帝が、文章家として有名な周興嗣(470502) に文書を作らせたものである。周興嗣は,皇帝の命を受けて一夜で千字文を考え,皇帝に進上したときには白髪になっていたという伝説がある。文字は、能書家として有名な東晋の王羲之の字を、模写して集成し、書道の手本にしたと伝えられる。

*王羲之(303-361)は、書の芸術性を確固たらしめた普遍的存在として、書聖と称される。その書は日本においても奈良時代から手本とされており、現在もその余波をとどめている。

王羲之の書の名声を高めたのは、唐の太宗の強い支持と宋の太宗により編纂された「淳化閣帖」の影響が大きい。王羲之の作品としては、行書の「蘭亭序」が最も高名であるが、王羲之は各体を能くし、「書断」では楷書・行書・草書・章早・飛白の5体を神品としている。

*歴代の多くの能書家が千字文を書いており、遅くとも7世紀には普及していた。日本でも多くの作品がある。書道の手本としては、特に智永が王羲之の文字から抜粋し、楷書と草書の2種の書体で書いた「真草千字文」が有名である。

*「古事記」には、和仁が応神天皇 (270310) の治めていた頃の日本へ千字文と「論語」10篇を伝えたとされているが、これは千字文が成立する以前で矛盾している。しかし考古学では各地から見つかる律令期から奈良時代の木簡のなかに、文字の練習や書籍の文字を書き「論語」と「千字文」があるため、漢字を学ぶ手本として比較的はやく大陸からもたらされたと考えられている。

書道店に気に入ったものがなく、古本屋を歩いていると日下部鳴鶴の書いた三体千字文という書が見つかった。どうも明治初期の有名な書家らしい。買ってきた。

*日下部鳴鶴18381922)明治の三筆と呼ばれる近代書道の確立者の一人である。中国、特に六朝書の影響を受けた力強い筆跡が特徴であり、それまでの和様から唐様に日本の書法の基準を作り変えた。数多くの弟子を育成、現在でも彼の流派を受け継ぐ書道家は極めて多い。芸術家としても教育者としても多大な功績をあげ「日本近代書道の父」と評されることもある。

私はこの記事で日本の書は長い間に日本流が確立されていたのだ、それが明治になって漢字の本来の姿である中国風に変えられたのだと気がついた。

書道で今まで唐代に懐仁が王義之の行書を修字して書いた「集字聖教序」、孫過庭が王義之を典型に据えて草書で書いた「書譜」などの臨書を行った。日下部鳴鶴のこれらをもとに書いたらしい。そこで三体千字文のうち苦手な草書だけでも書いてみようと考えた。半紙に升目を切り一字一字・・・・。ほぼ終わりに近づいてきた。お寺で書経という作業がある。般若心経などを書き写すのだが、これをすることで心が落ち着くとか・・・。千字文でも同じ気分になるのかもしれない。

中国人がどう読むのかも気になり、ピンインもチェックする。声を出して読んでみるがまだまだつっかえてうまく読めず、詩を吟じている気分になれぬ。

追記 74日、書道教室。書き上げた千字文を持参、先生に見てもらった。文字に書き方がまだ固い、筆を押し付けて書いているから太さが均一すぎるなど指摘を受けた。「もう一度書きますか。」というから「今度は行書で書いてみたい。」とつい口からでまかせ…また大変だ!

 

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