1522「「反・民主主義論」を読む」(111日(水)晴れ

 

著者は佐伯啓思、1949年、奈良県生まれ、京都大学名誉教授などを務める社会思想家。

「新潮45」に掲載された連載中の「反・幸福論」20158月号から20165月号までをまとめたものとある。その考え方を推論してゆくと同感できるところが多い。前書きに

2015年から16年にかけて、どういうわけか「民主主義」の意味を改めて問いかける出来事が相次いだ」日本国内では集団的自衛権にかかわる連日のデモ、憲法改正の論議、海外ではイギリスのEU離脱、ISによるパリ同時テロ、トランプ現象等々。

まず民主主義を支える大衆について著者は次のように言う

「一つの巨大な「マス」とみなされる集合体であり、・・・多様な意見に基づく意見でもなければ、もちろん熟慮でも熟議でもない。相互に相手の言うことを真似しあい、どこかで聞いたもっともらしい話や、あるいはちょっとした情緒的なフレーズに飛びついてそれを政治的意思だと思い込んでいる巨大な集団です。彼らは自分の情緒や理念が現実の政治の場で実現していないと感じた途端に、主権者の権利として下剋上を起こすことができると思っている。」(53p

著者の大衆の作る民主主義に対する考え方は次の一文に要約されているように思う。

「無制限の自由などというものは決してありえず、それは必ず何らかの規範によって制約され、タブーを持つ。・・・・無制限の平等などありえず、必ず限定する差別化を前提とするからです。民主主義と言っても、抽象的で一般的な民主主義などありません。それは常に、その国の社会構造や文化によって条件づけられるのです。・・・・それをユダヤ・キリスト教の神のごとく、絶対的正義して普遍化してしまったために奇妙なことが生じてしまった。人は自分と異なった価値観をもったものをいくらでも中傷し、誹謗し、避難する権利を持つことになり、平等の名のもとに、異なった価値観を持ったものを排除することになるのです。ここにあるのは「自由」や「平等」を唱えるものの自己特権化以外の何物でもありません。」(194p)

結果「民主主義とは、民衆支配の形をとりながらも、民衆が、自分たちが支配されるのに都合の良い人物を指導者に祭り上げるシステムだ、ということになる。」(206)

著者は日本の憲法や平和議論について

「戦力たる自衛隊は、憲法学的に言えば、当然違憲というほかありません。あるいは、それは存在するとしても自衛権の行使には使えないでしょう。・・・・では日本の防衛はどうするのか。・・・・本来は憲法のために国があるのではなく、国のために憲法があるはずです。もしも憲法を厳格に守ったために国が滅んでしまったとなれば元も子もありません。」(17P)

とする一方、もはや冷戦以降世界の安全保障環境は変化し、イデオロギー的に二分されたような時代ではなくなった、アメリカが圧倒的な力を失い、中国やロシアが軍事大国化を進めている、また北朝鮮の核の脅威やイスラム過激派と欧米の対立も深刻化している、その中で安倍首相の出した「積極的平和主義」は一つの回答である、とする。反論に対して

「この十数年、日本の政治に対する批判は常に「決められない」と「リーダーシップがない」と言っておけば日本の政治をだれでも批判できたのです。・・・・(安倍首相は)批判もあるとは言え、ともかくもある方針のもとに、次々に「決めた」のです。・・・・」

ところが今度は「決めすぎた」と言われる。・・・・確かにリーダーシップは裏返せば独裁なのです。」(48P)・・・・その通りと思う。

世界に目を転じれば民主主義のゆきづまりから多くの今までの常識では解けぬ問題が露出してきてしまった。その一つにトランプ大統領出現。著者は

「トランプほど今日のアメリカの陥った苦境に正面から立ち向かおうとしている候補者はほかにいない・・・アメリカの陥った過度の苦境、それは、冷戦以降のグローバルな世界秩序構想への過度のコミットメントです。・・・・その秩序形成の中でアメリカはもはや経時的に圧倒的な力を保持できなくなり、外交は失態続きです。」(200p)・・・・その不満の中でトランプ現象が起きていると断じる。

最後に民主主義のパラドクスに突き当たる。大したことのない大衆が各人各様の権利を持ち、発信できるとなった現代、行き着く先はどこか、著者自身も回答を持ち合わせていない。

「ただ多様なしかも相互に衝突しあう価値の間の競争だけになる。・・・・権力闘争によって政権交代がなされ、指導者が変わるたびに、社会変革の方向が変わってしまう。」(210P)

本当にこの世界はどこに行き着くのであろうか・・・・・。一読を勧める。

 

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