1556「昔の人の書いた文字が読めないはずがない」(513日(土)雨)

 

一日中雨が降り、寒い一日。経堂で古文書研究会。この会に参加して、もう5年以上になるのだろうか。高等学校同期のa君から「昔の人の書いた文字が読めないはずがない。みんなで読もうではないか。」と誘われたことがきっかけ。後から知ったところでは、彼自身、神奈川県で古文書を読む会のようなものがあり、それに啓発されたらしい。

彼は勤めていた会社は日産であった。システム関係の仕事をしていたらしく、そちらは詳しいようだ。仲間は日産に勤めていた人ばかりであった。(もっともカルロスゴーンが社長になって、退社を余儀なくされた人も含まれているようだったが・・・・。)その一人b君は世田谷区の合唱団に入っていた。合唱団の一員としてウイーンにまで行ってきたから相当のつわもの。その彼に惹かれたか、合唱団の関係の人たちも数人参加してきた。

最初は江戸時代のお触書やメンバーの歴史をつづったものなどが主体であった。しかしそのうち「もう少し面白いものがないか。」という意見も出始めた。お触書等は癖のある字が多く、標準がないように見えたことも原因であった。(通信905997)

そんなとき私が神田の古本屋で芭蕉手書きという「奥の細道」を見つけ、皆で読みだした。「奥の細道」もそうだが、コピー機があったわけではないから、古典はお坊さんなどいろいろな人に書き継がれてきた。伊勢物語の「嵯峨本」、「遠州本」などを抜き取り、作成した古典を読むためのテキストも読みだした。伊勢物語はみな「どうせなら全部読もう。」と言い出し、得意のa君がインターネットから資料を見つけてきて皆に配布したりした。

一月か二か月に一度程度、地味な会が続いた。c君は専門に庚申塚巡りをやっている。

インターネットによれば庚申塚は、中国より伝来した道教に由来する庚申信仰に基づいて建てられた石塔のこと。庚申講を318回続けた記念に建立されることが多い。人間の体内にいるという三尸虫(さんしちゅう)という虫が、庚申の日の夜に天帝にその人間の悪事を報告しに行くとされるから、それを避けるためとしてその夜は夜通し眠らないで天帝や猿田彦や青面金剛を祀り、勤行をしたり宴会をしたりする風習。

全国の庚申塚を巡って、碑に書かれている文字など書き出し、研究しているそうだ。自宅に日本の五万分の1地図をそろえているとか。古文書を少し読むと、c君の地図情報をベースにした解説が入りみな楽しんだ。それにしてもよく準備してくれる。

ここまで書くと順調に発展したようだが、メンバーにもいろいろあった。企業診断士をやっていた某氏が参加し、彼が自分の父親の書いた日誌というのを取り出し、皆で読んでと提案した。読み終わって、しばらくして突然彼の訃報が入った。小田原に住んでいるdさんが参加し、彼女は明治の初めころ起こった小田原洪水の絵入り資料を取り出し、こちらも読もう。能力のない私は投げ出してしまったが、c君が完読した。小田原にはdさん経由で報告され、町の展示資料の一部となったようだ。dさんのおかげでメンバーは小田原を何度か訪れた。北条五代の墓が並ぶ早雲寺に行ったことも懐かしい。

昨年、この会の言い出し、a君が癌と診断された。長いこと放射線治療を受けて回復した。しかし髪が真っ白になり、だいぶ弱った様子で心配。

会の方はやがて奥の細道(通信961,1051)も伊勢物語も読み終えてしまった。b君の実家は新潟で、土蔵から文書を探し出してきて、皆に披露した。結果直江津から板橋までの北陸路を旅ガイドのように描いた「吾嬬紀行」(通信1500)、老人の繰り言を並べたような「迅速好好編」(通信1355)などを読んだ。それも読み終えて、現在の井原西鶴の「世間胸算用」原文は最初私が京大本、eさんが印刷がより鮮明なキンドル版を探し出し、皆にネットで送った。ただこの本は4巻に別れ20の話からなっているが、キンドル版で出ているのは2巻までとのことだ。

最後に私自身の考えを書いてみる。一つは昔の人の文字が全部必要はないということ。日本の文字は明治に入り、全国統一の教科書などを作るために統一されたが、それまでは分かればいいだろう、と勝手に書いていた。当て字を使用したり、中国の草書からとったようなわけのわからぬも文字を使ったり、あるいは勝手に符号を作ってみたり・・・・。それゆえわからぬものがあって当然。しかし印刷されたものでなく、原典、あるいは坊主たちの書き写したもので読めばそれなりの雰囲気を感じることができること、同時に学生時代に読まなかった日本の古典等に接することができること、その辺をご利益に感じる。

もう一つは文字を書き写してみると、更に楽しめ、分かった気になれるということ。この辺メンバーの皆さんどう考えられますか。

 

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