156「「モンシロチョウ」を読んで」(5月2日  晴れ)

子どもの頃から、蜂だの蝶だのに興味を持っていた弟に薦められて「モンシロチョウ」(小原嘉明 中公新書)を読んだ。著者の行ってきた「モンシロチョウの繁殖行動」についての研究紹介である。著者は1964年生まれ、東京農工大卒、気鋭の若手学者。

簡単に内容を紹介してみよう。

「動物はいったい誰のため、何の目的で生をいとなんでいるか。」・・・以前は漠然と属する種または郡全体のために生をいとなんでいる、その行動も、究極的には種または郡全体の繁栄をもたらすように進化してきた、と考えられていた。しかし新しい潮流では進化する性質は、自分自身の利益を優先して行動する利己的な性質にある。さらに従来雄と雌は繁殖で協力し合う運命共同体パートナーと認識される考えが主流であったが、新しい行動学では、互いに自己複製(生殖)のために利用しあう異性資源、という認識が鮮明になってきた。その結果、かれらは自己複製を最大化するために、多くの戦略・戦術を生み出している。(91-95p要約)

雄は顕微鏡レベルの小さな精子を大量に生産するため、一度生殖を行っても短時間で再び生殖出来るようになる。ところが雌は大きな卵を少数しか作れないため、一度卵を受精すると、次の卵を準備するまでに相当の時間がかかる。そのため、この世界では雄あまりの状態のため、雄はできるだけ動き回り、生殖のチャンスを見つけなければならない。一方雌は、死んでしまう子の数を減らすために出来るだけ強い、子への給餌など、父としての能力の高い、雄を選んで交尾したい。

交尾の場所は普通キャベツ畑である。雌は生まれた子が好物のキャベツにありつけるように卵を産み付ける。ラグビーボール型の卵は1週間ほどで幼虫が孵化する。2週間ほどでさなぎになる。さらに1週間で蝶になる。しかし羽化した雌は人間で言えば骨にあたるクチカラが固くなっていないから交尾して雄に空中に釣り上げられでもしたら、羽の形がおかしくなり死ぬことになるから、3時間近く葉裏でじっとしている。充分体制が出来るとのそのそと葉の表面に出て早速交尾というわけである。モンシロチョウにとって生存の目的が自己の複製化にあるから、それこそ花より交尾ということらしい。

雄が雌を見分ける方法は、第一は雌の羽が紫外線を反射し白く見えるが、雄は吸収して白く見えるということらしい。しかし雄は他の雄が近づいてくると羽をパタパタ動かして、雄であることを表示することによっても分かる。また交尾した雌は少なくともしばらくは他の雄と交尾できぬから、雄が近寄ってくると逆さになって尾をあげて、拒否する。

さらに交尾したからといって雄は油断できない。他の雄がもう一度交尾するかも知れぬからだ。そのために精包物質なるものを送り込む。これは栄養源であると同時に、時間の経過と共に固化し、雌の貞操帯の役目をする。他にも、老齢雄のあせり、雌の産卵についての工夫、モンシロチョウの好み、神経の働きなど話はひろがる。この辺になると大分モンシロチョウの行動パターンが分かってくる。

しかしこれだけの結果をえるために著者は膨大な実験を繰り返している。雌の蝶の羽と羽を切り取った雌の胴体をならべて雄がどちらに飛ぶか、雄の羽と雌の羽をならべ、雄はどちらに反応するか、交尾をする時間は何時ごろであるか、など観察と実験によって一つ一つつぶしてゆくのである。

苦労話に国際学会でのハプニングなどを交え、研究者の素顔をユーモラスに語っている。この本を読むと多分、かなりのモンシロチョウ通になれる?とにかくモンシロチョウには門外漢であっても、著者のよく観察し、仮説を立て、その仮説を検証するための実験を地道に繰り返す、という研究姿勢には頭が下がる思いである。

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