1591「「さらば、民主主義」を読む」(9月29日(木)晴れ)
朝日新書、佐伯啓思。帯に「ウソとハッタリばかりがなぜまかり通る?憲法、安全保障、ポピュリズム漂流するこの国の行方は」。「「つまらない人間」を生む民主主義、主権の重さに耐えられない国民。人間の本質に迫るスリリングな考察!」
2017年元日の朝日新聞には「我々はどこからきてどこに向かうのか。」という大型連載記事の第一回目で「試される民主主義」というもの、朝日記者によるオピニオン特集に近い物。
「戦後民主主義」と「平和主義」をリードしてきた日本を代表するジャーナリズムだが、民主主義をどのように評価すればいいのか、大変に迷っている印象を受けた。担当がニューヨーク支局長。目の前に「トランプ大統領誕生」という「歴史的出来事」が気になるようだ。とんでもない大統領だが、多数派が彼を選んだ以上、それに従うしかない、という戸惑いがありありと見える。
結論に「民主主義とは多数による意思決定である。しかし、多数が正しいという保証はどこにもない。・・・・民主主義を理想的な政治制度だなどと言うわけにはいかないし、欠陥をはらんでいる。・・・・しかしこの道具しか私たちの手には残されていない。50年後も100年後も言葉を通じてお互いを理解しあえる努力を続けるしかない・・・・。としているとか。
・・・・対立した二つの政党、意見が収束しない。そこで適当な時期に議論を打ち切って採決する。すると少数派はこれを「強行採決」だという。・・・・しかし何十年もかけて議論しましょうとでもいうのか。政治がうまくいかないのは「民主主義」が機能していないからだという。その結果ポピュリズムがよくない、官僚主義がよくない、民意が反映されていない、市民の政治的関心が低いなど言いだす。そして次から次へと政治改革が行われる。しかしそんなことばっかりやっていると本来政治が果たさなければならぬ役割が忘れられ、政治がますますうまくゆかなくなる。実は民主主義こそがますます政治を混沌の泥沼突き落としかねない。
トランプ現象を批判して「ポストトウルース」と言うことを言われ出した。自分に都合の悪いことを言うものはみんな嘘つきで、こうなると真実はどうでもいいと言わんばかりだ。
しかしこの現象は世界中で見られるようになり、イギリスのEU離脱決定だって近い。日本のデモもそうでたとえばSEALDSは「国会で行われている政治は民主政治ではない。与党が強引に決定している。真の民主主義は国会の外にある・・・・・。」など主張する。
第2章で「憲法は反・民主主義…不都合な真実」として「立憲主義」、「議会主義」、「平和主義」、「自由主義」を比較している。朝日新聞は民主主義のおかしな流れを「立憲主義」によって食い止めよ、としている。しかし国民の主権は形式上正当化された最高の権力である。立憲主義とは憲法に基づく政治を意味する。では憲法が国民主権の上位に来るのが良いのか、と言う疑問に突き当たる。
緊急事態条項とは大規模な自然災害やテロ、他国からの侵略など、緊急を要すべき国家的な問題が発声した場合、政府に権限を集中させることを定めた条項のことだ。これを憲法や法律によって明文化するのか、どうか?
「自由主義」との比較では「民主主義は一つのファシズムでもある。」という見方が興味を引く。
・・・・民主主義の意思決定の仕組みは、本質的に全体主義的なものを含んでいる。なぜなら一度民主的に決まった事項は、どんなにいやであろうと、全員が守らなければならないからだ。
第3章社会をよくするという罠も興味深い。統計的に見れば日本人は現状に満足しているにもかかわらず保育園に入れない、議員のスキャンダルなど、問題が次々と噴出してくる。状況に直面しているのは当事者だけ。一方で民主主義は、問題をすべて政治化せよ。その結果本当に深刻なものからさしたる重要性を持たないものまですべてが「政治問題」になってしまう。しかも問題が複雑に絡み合い、多様化しているから、すべてを有効に解決する方法などない・・・・。
さらにギリシャ時代から問題点であった「本当に大事なことを実現するためには、嘘としりながら「高貴な嘘」はゆるされるのか。民主主義を正しく機能させようとすれば大衆を欺くことも必要なのか。アメリカのネオコンによるイラク戦争推進など思い起こさせる。
最後に著者は憲法改正の論点はやはり9条であるが、自分は「護憲でも改憲でもなく憲法廃止論者だ。」という。どう考えても現行憲法は戦後日本が無理やり受け入れさせられたものだ、第2章で論じた考えに基づき日本の主権は日本自身が作る筋合いのものだ、とする。
おりから安倍内閣が解散を決めた途端、野党が小池都知事を中心に右往左往、そこにあるのは日本の針路の心配よりも自分の立場の重視ばかりに見える。それでも民主主義、ただ著者は民主主義におさらばして、一体どこに行けばいい、と言うところは冒頭の朝日新聞記事同様答えを出さず、読者に問いかけているようにも感じる。
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