1624「「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」を読んで」(27日(水)曇り)

 

亡くなった父親の蔵書に「長恨歌」があった。清水崑の絵があふれている絵本のような本。

「漢皇 色を重んじて 傾国を思う 御宇 多年求むれども得ず 楊家に女(むすめ)あり 初めて長生す・・・・・。」好きであった。

習字を始めて間もなくのころ空海の「風信帳」を臨書した。

詩吟を初めて李白のいくつかの詩を練習した。極めつけは玄宗皇帝に呼ばれた李白が、楊貴妃の美しさをたたえて即興で作ったという清平調子3部である。李白のことも少し調べた。

そんな素地があったから、普段は妖怪が活躍するような怪異小説は読まぬが、すぐにひかれた。寄る年波、最近視力も徐々にではあるが落ちてきている。そんななか500ページ近くの文庫本4冊は相当読み手があった。

空海(774-835年)は真言宗の開祖。804年に第16次遣唐使の留学僧(留学期間20年)として唐に渡る。当時の航海は大変で空海と橘逸勢が乗船したのは遣唐大使の乗る第1船、最澄

は第2船である。この入唐船団の第3船、第4船は遭難し、唐にたどり着いたのは第1船と第2船のみであった。8月初めの暑いころ、海賊の嫌疑をかけられ福州で約50日間待機させられる。このとき遣唐大使に代わり、空海が福州の長官へ嘆願書を代筆している。それから馬と運河経由でようやく12月に長安入りする。

当時の長安(現代の西安)はこの小説の解説によれば

「長安は坩堝であった。人種の坩堝であり、文化の坩堝であり、聖と俗の、そして繁栄と退廃の坩堝であった。・・・・世界に類を見ない大都市であった。その規模において西のローマ帝国さえ凌いでいる。人口、およそ百万。そのうちの一万人・・・百人に一人が異国人であった。」(巻1)

「異国の、使臣だけで四千人を超えていたと言わる。さらに六千人の異国人がこの都市で生活していた・・・・まず倭国である。そして吐蕃(チベット)、西胡(イラン)、大食(アラビア)、天竺(インド)さらにはトルコやウイグルや様々な西域の民族や少数民族が、この都市に集まっていた。そういう人たちが運んできたのは文物ばかりではない。宗教も運んできた。道教、仏教、密教、それらは言うに及ばず・・・拝火教、マニ教、更にはネストリウス派のキリスト教・・・。人種による差別はなく、異国人であっても、試験の成績さえ良ければ官人として採用され、高い地位まで登ることは可能であり・・・・。」(巻1)

物語の展開をなかなかまとめにくいので文庫本の裏表紙を参考に行うと・・・・

1 盟友橘逸勢らとともに、遣唐使として長安に入った若き僧空海、密教の真髄を「盗みに来た」と豪語する空海は有り余る才能で人を魅了してゆく。一方長安では、奇怪な事件が続いていた。役人劉の屋敷に猫の化け物がとりつき、皇帝の死を予言したという。噂を聞いた空海と橘逸勢は、劉家を訪れ妖猫と対峙することに。その時から二人は,唐王朝を揺るがす大事件と関わることになる・・・・。

2 妖猫にとりつかれた劉家の妻が唄った歌。それがおよそ60年前、詩仙李白が玄宗皇帝の寵姫楊貴妃の美しさをたたえた詩(清平調子)だと知る。二人は,大詩人白楽天とともに、安史の乱で楊貴妃が殺された馬蒐駅に行き、楊貴妃の墓を暴く。しかし墓には怪しい呪いがかけられ、石棺の楊貴妃の姿はなかった。そんな空海に謎の方士丹翁は「このことは忘れよ。」と警告するが・・・。

・・・・・玄宗皇帝は当初は良かったが晩年楊貴妃を愛し、政治が腐敗した。これに安禄山、史思明が反乱(755)、一時反乱軍によって長安が占領され、玄宗皇帝等は逃げ出す。しかし馬蒐で玄宗皇帝軍内部の不満が大きくなり、楊国忠、楊貴妃等が殺されたのである。

3 安倍仲麻呂が残した手紙によって、二人が知った事実。かって玄宗皇帝が楊貴妃を処刑せざるを得ない状況に陥ったとき、道士黄鶴の提案に従い楊貴妃を仮死状状態にして難を逃れ、時を経てから元に戻し日本に逃れさせようという案。しかしあえなく失敗してしまったというもの。一方空海が師と仰ぐ恵果のもとに黄鶴の弟子白龍が訪れ順宗皇帝の死、唐王朝の滅びを予言する。

4 また宦官高力士が安倍仲麻呂に残した手紙には楊貴妃の出自にまつわる驚愕の真実が記されていた。一方様々な呪いが交錯する中順宗皇帝は瀕死の状態に陥っていた。二人は、呪法を説くためにかって玄宗皇帝が楊貴妃らと遊んだ驪山華清宮に、大勢の楽士や料理人を率いて向かう。あの時を再現してみようというのだ!

・・・・驪山華清宮は長安の東北約30キロにあり、玄宗皇帝たちの避暑地であった。

この作品は224日に「空海」というタイトルの映画として公開される。陳凱歌(チェンカイコー)監督。ハリウッドをしのぐ日中共同製作映画と喧伝されている。主演に染谷将太、黄軒(ホアンシュアン)、阿部寛も安倍仲麻呂役で出ているらしい。楽しみだ。

 

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