1707「ご先祖と家族制度崩壊」(1210日(月)晴れ)

 

従妹のaさんと新宿のフランス料理屋「清月」で昼食。

小田急14階のこの店は少しは高級だろう、静かだろう、と考えていったが大違いであった。お値段リーゾナブルとあって、店内はほぼ満席に近い。隣の席はおばさんグループ。話の良く弾むこと。話ができぬと席を変えてもらった。「昔はこういうところはビジネスマン中心だったけれど、最近はお金持ちのおばさんが中心。」とか。

この3月であったか、彼女の兄のb氏の訃報が届いた。b氏と私は同学年で、同じ中学校に行った。

私の方が少々目立ったことなどが原因して生前は没交渉であった。葬儀も終わったころ、弟と出かけ位牌に線香をあげてきた。実家はb氏の奥さんが継いだ様子であった。

叔父は中国文学者で、東大の教授にまでなった人。私の父はその10歳近く離れた弟。

叔父にはb氏のほか、女の子が三人いたが、私はaさんと一番付き合いが多かったように思う。aさんは私より2歳年下、気さくな人柄でb氏の奥さんとも入魂だったらしい。

実家は広島。b氏、aさんの家と広島はいろいろ行き来が続いていたらしい。先月、aさんはb氏の奥さんと一緒に広島に行ってきた、という。その話を聞いてみたかった。

aさんは女学生みたいな髪の毛で昔とあまり変わらぬ様子であった。「広島では遠路よく来てくれたと歓迎された。」戦争前のこと、広島の実家には三人の男の子がいた。そのうち長男一家が実家に住んでいたが、あの原爆に見舞われた。全滅であった。次男の叔父と、三男の私の父が共に広島を訪れ、長男の最後を看取るなどした。縁者としては従弟一家だけが残った。

私も広島に一度だけ、行ったことがある。今から60年くらい前、大学に入ったときに父と一緒に訪問した。酒屋をやっていた。行き帰りの列車でツヴァイクの「マリーアントワネット」を読んだことを覚えている。

父は亡くなる数年前、ご先祖追及に凝ったことがある。その後も父は何度か広島を訪問したようだ。墓碑をしらべて詳細な家系図らしきものを作り上げた。我々のご先祖は毛利の家来であったらしい。そして「俺は、最後は広島に行けば、いろいろ知り合いがいる。」と語っていた。

酒屋には7人の子がいたが、代替わりした様子。実家の墓は三男が継いだという事だ。但し寺は大幅に整理され、我々の先祖は区画割された一画にひっそりと眠っているとか。

「まるでお墓の団地みたい。」とaさん。墓石の裏にご先祖の話など彫ってあったが、それも人が通れぬほどの隙間を行かねば見つからぬという。「そんなことだからもうよいわね。」とaさん・・・・つまり広島ともほぼ縁が切れるという事になるのだろう。

戦後の家族制度の崩壊が世の中を一変させた。男子一系という事がなくなれば、ご先祖はずいぶんと広がる。私の父母、その父母、そのまた父母、代変わりするたびに2倍に増え、無限に広がる。先祖という概念がなくなってしまうのかもしれない。墓はせいぜい二大限りくらいでいいのかもしれない。そう考えれば、お参りに行き、ボタンを押せば位牌が飛び出してくるような簡易な墓が流行ったり、樹木葬、骨は海にまく、果ては宇宙に飛ばしてしまうまでありなのかもしれぬと思う。大体ご先祖という考えは人間にのみ存在する考えかた、猿はそんなことは考えぬ。

時代というものか。私と従妹はわずかにこうして食事などする。しかし子たちの代になれば無縁、更にその子たちになればどこの馬の骨の関係・・・・。20年くらい前、家のアルバムを整理し写真をパソコンに取り込んだ。しかしどの写真が私のじいさん、ばあさんかわからぬ。・・・・そんなものだ。多分家系図なんているのも自分中心で書くべきものかもしれぬ。

aさんのご主人は島根出身で公務員だった、という。確かaさんより、45歳上と記憶しているから、もう80歳に近いのか。ご健在の様子。aさんはそんなご主人とともにそれなりに充実した人生を送っているらしい。息子や娘は優秀、一人は東大の准教授になっているが「何をやっているのかわからぬ。」。彼女自身はオカリナでなにやらのグランドチャンピオンになった。日本画に凝っている。刺繍も得意である。大きな布に風景を刺繍するもので、私独自だ、なにやら賞をもらった、など自慢気に話す。習い事は実績の出ない私よりだいぶ上?

人はこの世に生を受けて100年足らず、楽しみたいように楽しめばそれでいい、そんな風に世の中の考え方が変わってきたのかもしれぬ。

従弟会というものを開く人たちがいるそうだ。aさんに会う前、私たちもそんなものを開いてもいいのかと思った。しかし帰り道、ずっと疎遠であった我々、そんなものをいまさら開いても意味がなかろうと考え始めた。それより私は自身の弟と二人、それぞれに子がおり、孫がいる。我々一家の集まりの方を一度くらいはしておきたいと考え始めた。

 

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