1743「「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」を読んで」(6月3日(月)晴れ)
加藤陽子、1960年生まれというから私より20歳くらい若い。東京大学大学院人文研究科教授。学者であろう。「おわりに」が2009年とあるから、50に近いころに行った集中講義をもとに書いたものらしい。小林秀雄賞受賞とある。
書店でこの本を選んだ理由は私自身が「太平洋戦争は軍部の独走がああいう結果をもたらした、など言う人がいるが、日本人全体が選んだのだ。さらにいえばあの戦争で日本人は散々な目にあったけれども、やらなかったらよかったか、といえばそうは言えない。」と思うからだ。
以下中身を引用しながら私なりにまとめてみる。
人間の常識を超え、学識を超えておこれり、日本、世界と戦う。
太平洋戦争開戦を聞いて、敗戦後に東大総長となった南原繁が詠んだ短歌である。
アメリカと日本の国力の差は当時においても自覚されていたのだ。国民総生産でいえばアメリカは日本の十二倍、すべての重化学工業・軍需産業の基礎となる鋼材は日本の十七倍、自動車保有台数に至っては日本の百六十倍、石油は日本の百七十一倍あった。
ところがこの絶対的な差を、日本の当局はとくに国民に隠そうとはしなかった。むしろ、物的な国力の差を克服するのが大和魂なのだ、ということで、精神力を強調・・・・・・。
これに踊らされたのか、多くのその他の有名人が「歴史は作られた」、「実にこの戦争はいい、明るい」、「キリリと身の閉まるを覚える。」などと述べている。むしろ天皇陛下のほうが心配されて近衛文麿首相等に「南方作戦は予定通りできると思うか」、「上陸作戦はそんなに楽々できると思うか。」など繰り返し確認している。後ろ向きになる天皇に対し、陸軍は「来るべき戦争の目的は東アジアで帝国の自存自衛を確立し、併せて大東亜の新秩序を建設することにある。」と説得したのだ。
話は1929年から始まった世界不況に始まる。1930年の就業別人口は農業に従事する人は46,8%、最も過酷な影響は農村に出た。そして兵士たちのもっとも重要な供給源は軍隊であった。しかし既存政党は冷たかった。こんな時「農村漁村の疲弊の救済は最も重要な政策」と取り上げたのが軍部であった。実際満州国という傀儡国家まで作った。
そして上海事変勃発、このころは蒋介石軍はなかなか強かった。これは一つにはソ連とドイツが軍事援助をしていたからだ。また中国各都市に巨大な権益を持つアメリカとイギリスは経済援助などを通じて中国を助けた。さらにアメリカは日米通商航海条約の破棄を通告した。
膠着した日中戦争を早く終わらせるためとして、40年北部仏印進駐、41年7月南部仏印進駐を行う。このころはフランスはヴィシー政権下、くみしやすい、と考えた。
陸軍は根本的に戦争をしたい、そして早期に講和に持ち込みたい、と考えていたようだ。
御前会議で「しばしの間の平和ののち、手も足も出なくなるよりは、7割か8割は勝利の可能性ある初戦の対象にかけた方がいい」とさえ述べる。
その陰には特別会計の存在がある。軍部は37年から始まっていた長い日中戦争をの期間を利用して特別会計の「臨時軍事費」を計上していた。ためられた現在価値にすれば何百兆円のうち日中戦争には3割しか利用されていなかった。
またドイツは日本の軍隊をバカにしていたが、一方で反ユダヤ政策と合わせて共産主義打倒を考えていた。そこでソ連と極東で対決する要害が欲しかった。武器を中国に売り、援助していたが、日本に接近し始める。一方でこれが中国とソ連の接近をもたらす・・・・。
軍部は説得するために数値のマジックを使った。たとえば1939年の時点でアメリカは飛行機を年間で2141機しかつくれなかった。それに対して日本は4467機。ところがアメリカが本気になったとき、この話は一気に崩れる。41年時点ではアメリカの製造能力は19433機、日本は5088機。
そして開戦、冒頭既述のように盛り上がった。しかし真珠湾攻撃に成功したものの、その後の進展は歴史の示す通りで44年6月のマリアナ沖海戦でもう絶対的な決着がついてしまった。多くの戦死者がでているのにその被害が日本全国に伝わらなかった。実は個々の情報が伝わっても情報全体を合計することができないようになっていたのだ!ずるずると20年8月の敗戦まで・・・・。
敗戦の別の見方。ドイツ軍の捕虜となったアメリカ兵の死亡率1.2%、日本軍の捕虜となったアメリカ兵の死亡率37.3%。何からくるというと日本軍は自国の軍人さえ大事にしなかった。戦争に食料が不可欠だが、食糧補給をした前線など一つもなかった。その結果が戦闘より餓死したものが多かったという。これは国民の生活にもつながる。農業生産は落ち、国民の摂取エネルギーは1933年時点の6割に落ちていた。ドイツは降伏する2か月前までのエネルギー消費量は33年の1,2割ましであった。
「日本がなぜあんな可能性のない戦争をしたのか。この時点の世界の動きを切り取れば、こんな風に見えた」ということがわかる気がする・一読をお勧めする。
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