191「小学校の海水浴日記」(8月25日 晴れ、またまたカンカン照り)

今年はなかなか海にゆけない。そのまま夏が終ってしまうかもしれない。この前にも書いたが、昭和28年8月、小学校6年のときに学校から3泊4日で富津海岸にでかけた。そのときの日記がでてきた。ご丁寧に浜で相撲を取っている水彩画の表紙をつけ、「松林と砂浜の学園」阿笠湖南作とある。せめてそれでも読んで海を思い出すか。

「ぼくは朝4時半ころに目を覚ますと、もうお母さんはお弁当を作ってくれたりお菓子を詰めたりしていて下さっていた。「母ちゃん、おはよう、早いねえ」「あら、まだ起きなくてもいいのよ、もっと寝ていらっしゃい。」ぼくはまた台所から出て床にはいった。なかなか眠れない。とうとう5時ころ起きてしまった。「もう起きていいでしょう。」「そうねえ、まあいいわ。」ぼくは喜んで起きていろいろお手伝いをした。するとお母さんが「お寿司の味はどうかしら。」と味見をなさった。ぼくもすかさず「ぼくも味見する・・・」とばかりにねだった「はいはい、じゃあそれだけよ。」「はい。」ぼくはたちまち海苔巻きの端切れをいくつか平らげた。なかなかいい味である。「あら、湖南ちゃん、お顔洗ったの。」「あ、いけねえ。」ぼくは井戸端へとんで行った。まもなく食事も終わってほっとしていると「阿笠くうん。」島田こうちゃんの声だ「はあい。」ぼくはすぐリュックサックをしょっておもてへお母さんと一緒に飛び出した。何時の間に起きたのか弟も一緒に飛び出してきた。「おはようございます。」島田君のお母さんも横川君等も来ていた。島田君のお母さんもぼくのお母さんもおぎくぼ駅までおみおくりである。」

小学校6年の作文にしては幼児性がぬけていないなあ。このあと犬を一緒に連れて荻窪に行くのだが、途中で「ねえ、だっこしてー。荷物が重いの。」などと言っている。6年生だよ!しかしおふくろはよく面倒を見てくれているものだ。おみおくりである・・・、はよかった!両国駅からさざなみ号という臨時列車が出てそれに乗っている。

「まもなく汽車が走り出しましたが、ぼくたちは三つ橋君にトランプを借りて山田君、きょうちゃん、ぼくの3人でやりました。その間に汽車ではのどじまんをやったりしました。また先生は「もうお菓子を食べてもいいです。」とおっしゃったので大喜びで食べました。」

そう、あのころは遠足など行くとリュックの中のお菓子が気になって仕方がなかった。木更津について先生から聞いたらしい大国主命と乙橘姫の悲話が書かれている。木更津は入水した乙橘姫を思って「君さらず」とうたったことからつけたとか。富津学園についてお弁当を食べる。しかし列車の中で食べたから大分腹がふとい。

「お弁当の残りなどはお友達に上げました。またお友達の一人は「阿笠君、あめちょうだい。」といったのでぼくは「三遍まわってワンとなけ!」と言ってやる。相手は本当に三遍まわってワンといった。ああ、あめを一つそんしちゃった。今度は「お菓子ちょうだい。」といって三遍まわってワンと鳴かれたのでまた一つそんしちゃった。」

結構、ケチで意地の悪いこと。それからいよいよ海に泳ぎに出て行く。ここのところはこの前の記述の通り。

「それから水着にきかえておよぎにでました。青い松林の中をとおって浜にでました。浜には大きい波小さい波がザボーンザボーンとうちあげていました。ぼくたちはまず準備体操をしました。それから準備体操がすむと海へはいりました。それからのぼくたちは泳ぐもの、はねるもの、もぐるもの、非常にたのしい一ときでした。しかしもぐったりおよいだりするのも、わずかしかないように感じられました。まもなくぼくたちは白波の海岸を後にしました。」

海から出て学園に戻り、風呂に入るのだが

「伊沢先生のお話によると手ぬぐいを四つ折にして頭に載せお風呂に入るのが紳士のエチケットだそうです。だから富津の生徒はみんなてぬぐいを四つ折にして頭に載せている。それからみんな風呂の中で石鹸をつかったりはしない。なぜかというと先生方が「お風呂で石鹸をつかわないでもいいでしょう。一日海でもまれているのですから。」と言われるのである。また風呂は二つに分かれていて一方に人が入りまた一方には亀が住んでいる。」

どういう風呂なんだろう。しかし先生もうっかりしたことを教えるものじゃない。確かこの伊沢先生と言うのは新婚早々の美人先生だったと覚えている。
おかずがあじの煮付けの夕食をとり、夜の浜も散歩し、いよいよ就寝。

「この海岸から見ると観音崎、犬吠埼の灯台が見え、さらに夜の大貫町もきれいに見えました。そしてその間にぼくたちの中には蟹をとるもの、貝をひろうもの、また一人で沖をみているもの、種々様々でした。」

犬吠埼が見えるわけはないよなあ。その後の話で富津は漁港になり、岸壁なぞできてすっかり変わってしまったそうだ。

「すぐに寝る用意です。まず赤いしきぶとんにかけぶとんをぎっしりと敷き、枕をならべてからやっと寝ました。部屋がせまくてキュウキュウです。とても暑くて寝苦しいけれども先生方がお話をしてくださるのでわりに楽です。」

それにしてもあのころは1畳に一人以上つめこんだものなあ。でも可愛がられて、天真爛漫、ノーテンキで幸せなころだった。

(続く 名前は仮名)

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