25年くらい前、出張でインドネシアに都市ガスを供給しているプルサハン・ガス・ネガラに行った。会議が始まり、コーヒーが出された。口に含むと少しもったりした感じで、匂いは薄いが味は濃く、溶けない成分があるらしく飲み終わると、ちょっとじゃりじゃりした。コップの底をみるとこげ茶色の粉が溶けて残っていた。「ははん、これがジャワコーヒーとかいうやつだな。悪くない味だ。」と思った。
つい最近バリ島に行った。ウブドの町のごみごみした乾物屋である。コーヒーは40000ルピア、胡椒とサフランは20000ルピアづつというのを、全部で50000ルピアだ、とがんばった。元気のよさそうな店の娘はだまって包んだ。コーヒーはビニールの袋に入れられ250グラムと記してある。両替所で大体1円が70ルピアだから、三つで500円くらい、それにしても安いなあ、と思った。
「これからコーヒーの直売所に行きます」とガイドが言うから、さっき買ったコーヒーの話をした。ガイドはニヤニヤ笑いながら「安物ですよ。とうもろこしやジャガイモの粉を混ぜるんです。現地の人は飲みますがね。」直売所でマンダリン、トラジャの二つのコーヒーが出されたが、いづれもうまかった。いくつか買って、帰り道、同行したガールフレンドのAさんに言う。「日本に帰ったらウブドのコーヒーをご馳走するよ。」彼女いわく「遠慮します。」
とうもろこしの粉入りとわかっては、高級趣味の娘にお土産にするわけにも行かず、Aさんも引き取らず余ってしまった。仕方なく自分で飲むことにし、いれてみた。思い出した、あの味だ。プルサハンガスネガラのコーヒーの味だ!それから1,2杯試してみた。とうもろこしの粉を入れて薄くしてあるはずなのに、この粉は少量でコーヒーの色が濃くなり、効率的である。昨日まで珈琲物語と缶に書かれた高級コーヒーをフィルターで漉して飲んでいた。味はいいが、粒が大きく、よほどたくさん入れないと濃くならない。大違いである。高級コーヒーもいいが、とうもろこしコーヒーにもそれなりの味わいがあるように見えた。
こんな風に考えた。インドネシアではコーヒーは貴重品だったに違いない。だがら漉して残りをすてるなんてもったいないことはできない。穀物や豆は本来水には溶けないから、できるだけよく轢いて、細かくし、お湯に溶き、全部飲んでしまえ。それでも量が足りないから、とうもろこしの粉で薄めよう。
しかしこの考え方はごく普通な気がする。トルテイージャというのは、スペインの料理で卵とジャガイモをまぜたいわばオムレツである。ジャガイモを粉にするか、砕くか、オリーブ油であげるか、いろいろ作り方があるらしい。しかし根本は卵が高価で少ないからジャガイモでのばすのだ、という話を聞いた。戦後日本ではコロッケがはやった。あれはひき肉が少ないからジャガイモで伸ばして、それをあげて食わせるのだそうだ。しかしトルテイージャもコロッケもそれなりに、場合によっては薄めない料理よりうまい。とうもろこしコーヒーもこう考えればいいのではないか。
最後に蛇足をひとつ。ネスカフェの粉コーヒーはフリーズドライなどと高級なことを言っているが、とうもろこしコーヒーほどよく出ない。それによく溶ける。彼らは十分研究しているから、お湯を入れれば溶けるものの開発など朝飯前だろう。そういうものを入れて薄めているに違いない、と思ったがどうだろうか。
蛇足をもうひとつ。直売所で買ったマンダリンコーヒーやトラジャコーヒーにはわざわざ100%ピュアコーヒーと断っている。裏をかえせば市場にはピュアでないコーヒーが出回っているということである。
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