八高線一人旅で味をしめて、今度は身延線に目をつけた。身延線は、富士山の西側を富士川にそって北上する。東海道線富士駅と中央線甲府駅を結ぶ、全長88,4キロのJR東海のローカル線である。列車はせいぜい3両程度。単線であるため、待ち時間が多く、2時間半くらいかかる。昼間は半分くらいがワンマン運転。
明治の中ごろから部分的に開業され始めたが、昭和3年に富士身延鉄道によって全線電化開通された。経営的には赤字続きだった。昭和16年に、国鉄に買い上げられ、「身延線」と改められた。昭和44年に富士―堅堀間の線路が東回りから西回りに付け替えられた。
どうしても全線乗りたいが、距離があるので、途中一泊することにした。
目をつけたのが大柳川渓谷と十谷温泉「十谷荘」。
「十谷荘」は「天狗の大岩風呂」で有名である。渓谷の大岩で作られた天狗の鼻は男性のシンボルそのままの形になっており、こんこんと湯が湧き出ている。周囲すべてガラス張りの岩風呂からは、大柳川渓谷の清流と滝、南アルプスの雄峰が一望でき、山水画の世界そのもの、と広告には描いてある。しかも混浴!女性客に人気があるとのコメントもうなづける私は、若干のスケベ心と好奇心に誘われた。
大柳川渓谷も魅力。かっては甲斐源氏の祖、源義光(新羅三郎)の居城跡と伝えられる源氏山に隣接する、甲斐源氏ゆかりの地。江戸時代は駿河信濃往還の拠点早川町に入るわき道として栄えた。今は十谷地区に広がる美しい渓谷、流域沿いに数多くの滝や奇岩・怪岩が美しい自然の景観を繰り広げる、という。
初日、ホリデー快速で甲府に出たあと、身延線に乗ると、東花輪あたりから田舎っぽくなる。住宅のそばの小さな畑、刈り取った稲、柿の木等々。あいにくの天気で、東京を出たころは太陽も見えていたが、低気圧の影響で天気はだんだん悪くなる。
40分あまりで鰍沢口につく。駅は、町の中心から離れており、富士川を渡って山梨交通営業所まで車を飛ばす。どしゃぶりの雨に中を町営バスで、大柳川沿いに上り、30分ほどで観光休憩所につく。十谷荘が車で迎えに来ており、さらに5分ほどのぼって到着。木造のお世辞にも豪華とはいえぬ旅館だが、アットホームな感じで、元気のよいお姉さんと犬2匹が迎えてくれた。
早速、岩風呂。少し離れた大柳川沿いに六角形の堂宇があり、その中にある。崖のような山並みが迫り、木々がもう紅葉直前、右側には大柳川をせき止めた小さなダム、眼前には山並みをこぼれおちるように滝が流れ、景色は最高。天狗の岩風呂はカタログで見たとおりでゆったりとする。泉質は肌にやさしい硫化水素泉ということだが、湯の花あまり見られず、透明に近い。
「おばんでやんす。」ドアが開き、20過ぎの若い娘が入ってきた。「お背中流しましょうか。」「いえ、あの・・・・。」私のそれは、天狗の鼻も負けんばかりにそそりたち、なぜか額からは汗が吹き出る・・・・というようなことは全くなかった。
4時過ぎになって「雨が止みました。明日はまた雨らしいですから、今のうち散策されてはどうですか。」と宿のお姉さんに言われて出かける。岩風呂の向こうのつり橋を渡ると、一番大きい観音滝が観音橋から見える。遊歩道もつり橋もここ5年くらいの間に竣工されたもので不安はない。そこからさらに10分あまり山道をつり橋を経由し、眼下の激しい流れを楽しみながら進むと天渕滝。さらにつり橋を4つほど渡って渓流公園につく。ここはバーベキュウが出来るようになっている。そこまで確認して、国道に出て引き返した。
別に十谷荘より上流にも遊歩道があり、かなり向こうに銚子口2段の滝というのがあり、楽しめるそうだ。さらにこの近くの山には五段の滝などいくつも見所があるらしいが、少し本格的に準備してゆく必要がありそうだ。
地酒と山菜の夕食を楽しんだ翌朝、早めのバスで宿をあとにする。バスは1時間か2時間に1本程度、地元のおじいさん、おばあさんが乗ってくる。来る途中にあった「かじかの湯」という町営温泉に行く人と、下の病院に行く人が多いらしい。おばあさんに「この雨模様でも渓谷は歩いたかね。」と聞かれたから「歩いた。」と答えると「私ら、もう歩けんわ。膝が悪くなって。」と言っていた。健康のありがたさを感じる。
バスに4つか5つの女の子が乗ってきた。おばあさんたちがみんなで話しかけていた。女の子は途中の保育所で降りていった。あとから調べた話だが、平成7年の統計で鰍沢町の人口は4700人あまり、十谷町は175人、それもだんだん減っているらしい。それだけに子供は貴重。山間の町もそれなりに悩みは多そうだ。
東海道線富士へ出る途中、身延かその少し先あたりまでが、このローカル線の一番の魅力のあるところだ。左右に穏やかな甲斐の山並みが続く。ふと宿の箸袋に書いてあった「武田節」を思い出す。
甲斐の山々陽に映えて われ出陣にうれいなし
おのおの馬は飼いたるや 妻子(つまこ)に恙(つつが)あらざるや、あらざるや
市川大門は四尾連湖、下部は信玄公自らも傷を癒したと言われる名湯下部温泉、身延は日蓮宗総本山身延山久遠寺、西富士宮は大石寺、それぞれに楽しい観光スポットである。また沿線には大柳川渓谷以外にも早川渓谷など多くの渓谷が多い。
富士宮以降はまた町並み、平地にもどった感じである。最後に駅前に王子製紙の煙突が白煙をあげている富士に到着し、おしまい。
結局東京から甲府、身延線で富士、そこから東海道で再び戻ると費用は6000円余り、鉄道に乗る時間も大分かかるが、好きな向きにはお勧め、皆さんも一度如何ですか。
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