もうすでに桜の開花宣言が出たというのに、雨のそぼふる肌寒い一日。スポーツクラブで水中ウオーク、自転車漕ぎなどのエキササイズをする。今月始めからだが、もう12回目、早いものである。膝の痛みがほぼとれ、朝ジョギングを1キロほどするようになった。荻窪駅の往復も時々徒歩で行う。その報告と靴の中敷の療養費支給を申請するために必要な証明をもらいに荻窪病院に回った。
病院の待ち時間などその合間を利用して高尾慶子「イギリス人はおかしい。」(文春文庫)を読む。10年余り前、イギリスから帰って日記をまとめていたころ、林望の「イギリスはおいしい」という本が出た。そのとき私は「嘘をつきやがって・・・。あれほど味オンチの連中は珍しいのに。」と思った。
しかし日本人は、日英同盟の昔からイギリスにはあこがれを持っていたのか、巷にあふれる本はイギリス礼賛ばかり・・・・そんな中この本を見つけたときでおや、と思った。
著者紹介によると「1942年姫路市生まれ。私立播磨高校から調理師専門学校に進む。カトリック系の病院の調理師、カトリック系身体障害者施設の職員をへて1972年、英国へ。イギリス人音楽家と結婚。1972年二人で帰国。京都で暮らす。1982年離婚。祇園でホステスとなる。英語がしゃべれるホステスとして商社マンの間で重宝される。1988年、再び英国へ。ロンドンの日本レストランのウエイトレス、映画監督リドリー・スコット氏邸のハウスキーパーなどで生活をたてる。著書に・・・・。」
こうしたエッセー集は、なんとなく寄せ集めの感じが強く、たいしたことも書いてあるまい、と考えていたが、この本はなかなかまとまっている。イギリスが福祉国家であることを認める反面、現在のイギリスが過去の栄光にしがみつき、その実、実力も、覇気もなくなっている点を、庶民の立場からするどく描き出している。宗教についての考えなども面白い。少し抜書きしてみると
「子どもが生まれると、子ども手当てが一人ごとに支給される。それから小学校、中学校というのは日本の制度と少し違うが、私立でなくても公立の学校へ入学すれば、授業料、教科書も一切無料。給食代はサッチャー女史が現れるまでは無料だったけれど、彼女が「今日の英国でミルク代やパン代を払えない家庭はない」と勝手に決めて、給食代の予算を削ってしまったので、安いけれども有料で支給されるようになった。」(103p)
そのほかにも医療費など社会福祉面での保護の厚さは私も同様に感じた。
「称号を与え、それを名誉と思ったり、ありがたがる国民の国では、決してクラスレス、無階級社会は実現しない。」(175p)「これほど貧富の差のある国は、世界で英国とインドくらいだろう。」(187p)
そして著者は、サッチャー女史は庶民のことなどわかっていない、と訴える。日本の場合は、戦後のマッカーサーによる改革が、こういった身分制社会を廃止に近い状態にしたとはこの本も指摘し、私も感じるところである。
「一事が万事で、たとえば銀行から送られてくる毎月のステイトメント、残高表の明細も間違いだらけ。入金したのに記入されていなくて、引き出したはずのないお金が引き出したことになっているなど・・・・。」(211p)
そしてこの結果を軍事費には金をかけるが教育など生活には金をかけない政府の方針の結果だとしている。
「英国人というのは・・・七つの海を支配したこと、植民地の宗主国だったことを誇りとして、何となくそういう教育をされてしまうので、他国から学ぶということは屈辱に近いものがあるらしい。」(284p)
そして私の場合は英国人が紳士的で妥協する反面「他人に対し教える立場に立ちたがる。」ことを思った。
「欧米人と私たち日本人は昔から根本的に違っている。私たちは社会道徳を知っているが彼らが恐れるのは神からの罰である。(202p)「西洋人のほとんどはキリスト教を理解せず、彼らの好むことはユダヤ教と同じ、punishment,
revengeである。」(288p)
これらはイギリス人のキリスト教に対する考え方を理解する上で重要なポイントと思う。英国で「なぜあなた方は未開の地でキリスト教を布教するのか、親切からなのか。」とたずねたとき、「そうすることにより、死後自分がキリストのそばに行けるから。」と聞かされて驚いたことを思い出す。
辛口コメントになるほどと思いながら、私は「しかしイギリス人の控えめな態度、礼儀正しさ、ルールに対する厳しさなどはやはり学ぶべきところが多いと思った。同時に著者は一方ではイギリスをこの上なく愛しているのだとも感じた。この本とは逆にマークス寿子は、その著作でイギリス滞在をベースに日本を叱っている。イギリスでの生活の違いが見方を二分させているのかなどと考えた。
著者はその後「イギリス人はしたたか」「イギリス人は悲しい」「わたしのイギリスあなたのニッポン」などの著書がある。そのうち読んでみたい。
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